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「白都! 白都! 大丈夫か!」
体を揺り動かされ、白都はぼんやりとだが意識を取り戻した。
目の前には帝が居て、背中が抱えられている。地に付いた下半身からは、しっとりとした冷たさが伝わってきた。
周りは暗く、先程より闇が深くなっている。
条件から、自分がまだ裏道にいることを理解した。
「…………帝……?」
「……白都、ごめん……ごめん……」
胸元に顔を埋めた帝は、今にも泣きそうな声を発している。初めて聞く声色に動揺が隠せない。
「…………警察に知らせたほうが良い……。もう良いじゃないか……全部任せれば……」
「……それは駄目だよ……」
白都は朦朧とする意識の中でも、明確な答えを導き出していた。
「…………だって、犯人を捕まえられない状態じゃ……それまでに……誰かが殺されるかもしれない……」
ぽたりと頬に雫が伝う。
計画は失敗に終わった。理由は分からないが、失敗したことだけは確かに分かる。
警察に告げたところで、確実な証拠が無ければ、捜査中の自由な時間を使い、御面は大事な人たちを残酷に殺害するだろう。いや、先に自分が殺されるかもしれない。
それでは駄目なのだ。いや、怖くてどうにも承諾できないだけかもしれない。
今、自分は生存している。あんなにも恐怖したのに、まだ死にたくないと思ってしまっている。
この先、何の行動も起こさなかった場合、高確率でまた同じ恐怖に襲われるだろう。
けれど、強く死を感じさせる選択を、自ら選べるほど強くは無いのだ。消去法で違う方へと逃げたくなってしまうのだ。
「じゃあ、せめて病院に行こう……!」
「……大丈夫、立てるよ……」
白都は軋む体を無理に動かし、帝の前で立ってみせる。瞳を潤ませる帝が、抱いているだろう罪悪感を払拭したくて、白都はいつも以上に大きく笑んだ。
***
数分後、白都は肩を借り、帝と共に自室に入っていた。傷は思っていたより浅く、血は気付かない内に止まっていた。
軽い手当てを受け、気を利かせて用意してくれた水分を含む。
「……大丈夫か?」
今更、帝を責めたい気持ちが動いた。しかし、そうせずとも十分罪に苛まれている様子だったためしなかった。いや、出来なかった。
「……白都、多分穂積さんじゃない……」
「……え?」
「……穂積さんは昨日と変わらず駅まで行った。引き返す可能性を考慮して電車にも乗ったんだが、穂積さんが引き返すことは無かった。様子も変わりなかった……」
帝はとことんまで追跡してくれていたらしい。仇になってしまったが、尽くそうとしてくれる気持ちは十分に伝わってきた。
「……帝ごめん、ありがとう……」
曖昧な判断で骨折らせてしまったことと、自分の所為で罪悪感を感じさせてしまったことで、白都自身も深い申し訳なさを覚えた。
「……いや。早く犯人を見つけよう」
帝は、珍しく見せる真剣さを眼差しから覗かせた。
「………………うん……」
***
帝の証言は、穂積のアリバイを示すことになる。いわゆる全員の現場不在証明が実証されたことにもなるのだ。
それは、五人の中に御面は存在しないとの証明にもなる。
嬉しいような、振り出しに戻ってしまい悲しいような、何とも言えない気持ちに締め付けられた。
それでも帝を巻き込んだ以上、すべき事は一つしかない。逃げたくとも現状に留まりたくとも、それではいけないんだ。
「……明日、ちゃんと大学行くよ」
帝を見送るべく玄関に来ていた白都は、扉を潜ろうとした帝に告げた。
「だ、大丈夫なのか?」
帝は振り向き、不安げな表情を見せる。
「……もっと積極的に御面を探してみる……いや、怪しまれない程度に、だけど……」
「……あぁ……」
賛成しきれないのか、どちらとも付かない曖昧な返事を残し、帝は扉の外に消えた。
体を揺り動かされ、白都はぼんやりとだが意識を取り戻した。
目の前には帝が居て、背中が抱えられている。地に付いた下半身からは、しっとりとした冷たさが伝わってきた。
周りは暗く、先程より闇が深くなっている。
条件から、自分がまだ裏道にいることを理解した。
「…………帝……?」
「……白都、ごめん……ごめん……」
胸元に顔を埋めた帝は、今にも泣きそうな声を発している。初めて聞く声色に動揺が隠せない。
「…………警察に知らせたほうが良い……。もう良いじゃないか……全部任せれば……」
「……それは駄目だよ……」
白都は朦朧とする意識の中でも、明確な答えを導き出していた。
「…………だって、犯人を捕まえられない状態じゃ……それまでに……誰かが殺されるかもしれない……」
ぽたりと頬に雫が伝う。
計画は失敗に終わった。理由は分からないが、失敗したことだけは確かに分かる。
警察に告げたところで、確実な証拠が無ければ、捜査中の自由な時間を使い、御面は大事な人たちを残酷に殺害するだろう。いや、先に自分が殺されるかもしれない。
それでは駄目なのだ。いや、怖くてどうにも承諾できないだけかもしれない。
今、自分は生存している。あんなにも恐怖したのに、まだ死にたくないと思ってしまっている。
この先、何の行動も起こさなかった場合、高確率でまた同じ恐怖に襲われるだろう。
けれど、強く死を感じさせる選択を、自ら選べるほど強くは無いのだ。消去法で違う方へと逃げたくなってしまうのだ。
「じゃあ、せめて病院に行こう……!」
「……大丈夫、立てるよ……」
白都は軋む体を無理に動かし、帝の前で立ってみせる。瞳を潤ませる帝が、抱いているだろう罪悪感を払拭したくて、白都はいつも以上に大きく笑んだ。
***
数分後、白都は肩を借り、帝と共に自室に入っていた。傷は思っていたより浅く、血は気付かない内に止まっていた。
軽い手当てを受け、気を利かせて用意してくれた水分を含む。
「……大丈夫か?」
今更、帝を責めたい気持ちが動いた。しかし、そうせずとも十分罪に苛まれている様子だったためしなかった。いや、出来なかった。
「……白都、多分穂積さんじゃない……」
「……え?」
「……穂積さんは昨日と変わらず駅まで行った。引き返す可能性を考慮して電車にも乗ったんだが、穂積さんが引き返すことは無かった。様子も変わりなかった……」
帝はとことんまで追跡してくれていたらしい。仇になってしまったが、尽くそうとしてくれる気持ちは十分に伝わってきた。
「……帝ごめん、ありがとう……」
曖昧な判断で骨折らせてしまったことと、自分の所為で罪悪感を感じさせてしまったことで、白都自身も深い申し訳なさを覚えた。
「……いや。早く犯人を見つけよう」
帝は、珍しく見せる真剣さを眼差しから覗かせた。
「………………うん……」
***
帝の証言は、穂積のアリバイを示すことになる。いわゆる全員の現場不在証明が実証されたことにもなるのだ。
それは、五人の中に御面は存在しないとの証明にもなる。
嬉しいような、振り出しに戻ってしまい悲しいような、何とも言えない気持ちに締め付けられた。
それでも帝を巻き込んだ以上、すべき事は一つしかない。逃げたくとも現状に留まりたくとも、それではいけないんだ。
「……明日、ちゃんと大学行くよ」
帝を見送るべく玄関に来ていた白都は、扉を潜ろうとした帝に告げた。
「だ、大丈夫なのか?」
帝は振り向き、不安げな表情を見せる。
「……もっと積極的に御面を探してみる……いや、怪しまれない程度に、だけど……」
「……あぁ……」
賛成しきれないのか、どちらとも付かない曖昧な返事を残し、帝は扉の外に消えた。
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