フレンドテロリスト

有箱

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 それでも、御面が大学への登校を命じている限り、家でじっとしては居られなかった。
 正体が確定できない以上、誰かが危険であることに変わりは無い。
 空は曇っていて、今にも雨が降りそうだ。ぼうっとしながら見上げていると、擦れ違いざま、横目に懐かしい姿が映った。

「日向くん!?」
「……安斎、さん……?」

 どうやら日向も上の空だったらしく、出会いに驚愕している。その顔色は酷く青白い。
 日向は僅かに動揺の色を見せてから、走り去ろうと足を踏み出した。だが、白都が腕を掴み留める。肩に掛けられている、大き目の鞄が揺れた。

「何で逃げるの!?」
「…………離して、下さい……」
「あの時言ったこと、どう言う意味!? 友だちになれて良かったってどう言うことなの!? もしかして日向くんが」
「ごめんなさい……!」

 弱弱しく叫ばれた謝罪が、胸の奥深くまで突き刺さる。一気に近付いた真実に、力が抜ける。
 腕が擦り抜けた瞬間、日向は走り去って行った。

 様子から察するに、御面は日向だ。だが、懺悔していることから本意ではないとも感じる。
 相応の理由が存在するのかもしれないが、全く想像がつかない。嫌がらせや暴行に、納得の理由なんて存在するのだろうか。
 あっても、普通なら駄目だと判断出来るはずだろう。

 白都は確信した瞬間、怒りを覚えていた。
 友に対して抱く初めての感情に、悲しさや気持ち悪さを覚えながらも、御面の齎した災厄を思い出しては憤りを深めていった。

 その夜、御面から――日向から連絡が来た。

“死んで下さい。
期限は2日後の朝まで、です。”

 短くも的確な指令は、投げやりな感情を滲ませていた。だが、これは紛れもない命令だ。
 白都は顔面蒼白になり、今後の展開について順々に想定した。

 御面の正体が分かった今、怖がることは無いはずだ。なのに、心のどこかで安心してはいけないと感じている。
 まだ証拠を掴めていないからだろうか。それとも自分はまだ、信じたくないとでも思っているのだろうか。
 かといって、自殺なんて出来る訳がないし、する気も毛頭ない。

 二日後、未実行に終わった場合、御面は――日向は制裁にやってくるだろうか。
 いや、日向に限って――後悔している日向に限ってそんな行動はできないはずだ。

 白都は二日後、御面が姿を見せる日、確かな確証と証拠を掴む為の計画を始めた。
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