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誰彼関係なく、まさか人がいると思わなかった白都は一驚してしまった。穂積はてっきり、授業に出ていると思っていたし。
座り込む穂積は、気配を察知していないのか、こちらに全く気付かない様子だ。もしかしたら上の空になっていて、授業開始にも気付いていないのかもしれない。
和月が探していたことを伝えよう、と一歩踏み出した時、穂積の横に見慣れた小物が落ちた。
慌てて拾う様子を見ながら、後退し扉を閉めてしまう。
白都が見た物、それはカッターナイフだった。しかも、御面と遭遇した際にもよく見る型の物だ。
物体を目にした途端、恐ろしくなり、その場から走り去った。
トイレへと駆け込み、鍵をかける。潜めていた呼吸を一気に吐き出し、大きく噎せ返った。
気付くと手が震えていた。足も震えていた。
カッターナイフがトラウマを呼び覚ます。目の前にあった現実に錯乱しそうになる。
やはり、当初の予想通り、穂積が御面だったのだろうか。帝が追跡した日は、何らかの方法を使って先回りしたに過ぎないのだろうか。
もしそうなら、日向はなぜ引き篭もっているのだろう。御面だから、帝を殺害したからでは無いとしたら。
――――冷たい体を思い出す。
白都は携帯を握り締め、日向にコールした。
***
約束通り食堂へ行くと、既に和月と穂積が来ていた。表情が上手く作れず、影を浮かべたまま着席してしまう。
目の前には穂積がいて、日向とも連絡が付かない。
煩いは深く、全てを隠すだけの力は白都の中に残っていなかった。
「…………ちょっと飲み物買ってくるね」
穂積も見るからに悄然としていて、何かを抱えていると分かる。それが何かは考えたくもないが。
「白都くん大丈夫?」
唯一、平気そうなのは和月だけだ。彼だけが、まるで傷ついていないかのように控え目に笑う。何故そこまでの演技ができるか、理解出来ないくらいだ。
――ふと、またも新たな可能性が浮かぶ。
それは、和月が御面だから、という想定だった。それならば、平然としていられるのも分かる。
「大丈夫……じゃなさそうだね……」
「……いや、あの……ごめんなさい……」
和月は、本日二度目の謝罪に声を失っていた。白都は取り繕うそのもできず、俯いて綺麗なままの机上を見る。
雁字搦めになってゆく想像に、思考が少しも追いつかない。行動一つ一つを、猜疑してしまう自分が嫌になる。
どうやら自分は、本当は友人達について何も知らなかったようだ。勝手に知った気になっていただけだった。
今更、気が付くなんて馬鹿みたいだ。
大好きだった、大切だったあの頃には、もう戻れない。彼らが続けようとしてくれても、もう素直な目で彼らを見ることはできない。
はっきりと気付いてしまった時、白都は抱えきれないほどの絶望感を知った。
座り込む穂積は、気配を察知していないのか、こちらに全く気付かない様子だ。もしかしたら上の空になっていて、授業開始にも気付いていないのかもしれない。
和月が探していたことを伝えよう、と一歩踏み出した時、穂積の横に見慣れた小物が落ちた。
慌てて拾う様子を見ながら、後退し扉を閉めてしまう。
白都が見た物、それはカッターナイフだった。しかも、御面と遭遇した際にもよく見る型の物だ。
物体を目にした途端、恐ろしくなり、その場から走り去った。
トイレへと駆け込み、鍵をかける。潜めていた呼吸を一気に吐き出し、大きく噎せ返った。
気付くと手が震えていた。足も震えていた。
カッターナイフがトラウマを呼び覚ます。目の前にあった現実に錯乱しそうになる。
やはり、当初の予想通り、穂積が御面だったのだろうか。帝が追跡した日は、何らかの方法を使って先回りしたに過ぎないのだろうか。
もしそうなら、日向はなぜ引き篭もっているのだろう。御面だから、帝を殺害したからでは無いとしたら。
――――冷たい体を思い出す。
白都は携帯を握り締め、日向にコールした。
***
約束通り食堂へ行くと、既に和月と穂積が来ていた。表情が上手く作れず、影を浮かべたまま着席してしまう。
目の前には穂積がいて、日向とも連絡が付かない。
煩いは深く、全てを隠すだけの力は白都の中に残っていなかった。
「…………ちょっと飲み物買ってくるね」
穂積も見るからに悄然としていて、何かを抱えていると分かる。それが何かは考えたくもないが。
「白都くん大丈夫?」
唯一、平気そうなのは和月だけだ。彼だけが、まるで傷ついていないかのように控え目に笑う。何故そこまでの演技ができるか、理解出来ないくらいだ。
――ふと、またも新たな可能性が浮かぶ。
それは、和月が御面だから、という想定だった。それならば、平然としていられるのも分かる。
「大丈夫……じゃなさそうだね……」
「……いや、あの……ごめんなさい……」
和月は、本日二度目の謝罪に声を失っていた。白都は取り繕うそのもできず、俯いて綺麗なままの机上を見る。
雁字搦めになってゆく想像に、思考が少しも追いつかない。行動一つ一つを、猜疑してしまう自分が嫌になる。
どうやら自分は、本当は友人達について何も知らなかったようだ。勝手に知った気になっていただけだった。
今更、気が付くなんて馬鹿みたいだ。
大好きだった、大切だったあの頃には、もう戻れない。彼らが続けようとしてくれても、もう素直な目で彼らを見ることはできない。
はっきりと気付いてしまった時、白都は抱えきれないほどの絶望感を知った。
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