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広くなった空間

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 通っていた店に行ってみたら、店舗ごと消えていた。それに近い衝撃で、いないと分かりつつ辺りを見回してしまう。無論、小さな空間には隠れる場所すらなく、捜索は一瞬で打ち切りとなった。

 心が重さを持つ。それも、かなりずっしりと来ている。己が自覚していた以上に、対面を待ち侘びていたのだと知った。
 たった一日、来ていないだけなのに。到着順が前後しただけの可能性もあるのに。なのに寂しいと思ってしまう。会いたいと思ってしまう。
 このまま来なくなったら。考えては絡まる不安の糸を、わざと心底に押し込めた。

 いつも通り、夕日が落ちるまで待ってみよう。敢えて海へと意識を向けたが、瞳は横にばかり行きたがった。
 
 その日――どころじゃない。次も、更に翌週も彼女は現れなかった。三週間の空白は、永遠の別れを連想させた。

「ただ、本来の姿を取り戻しただけだ。僕だけの特等席に戻った、それだけ」

 寂しさを紛らすため、己を説き伏せてしてみる。ただ、空しさが倍増しただけに終わったが。
 初夏を迎え入れてもなお、人は迎えない海に侘しさを見た。今さら、知らなさすぎることを悔やむ。名前も住居地も、所属する学校も、彼女を辿るための情報だけが水以上に透明だ。

「会いたいなぁ」

 本音がじわりと心に馴染む。確定もしていないのに、失恋の痛みが刺さった。
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