錆びた灯台で幽霊少女に恋をした

有箱

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君は幽霊だったのか

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 自室にて、涼風を独り占めする。快適すぎる空間にいながらも、心が居たがるのはあの空間だった。
 彼女の声と笑顔が繰り返される。度々、知らない彼女が間に挟まってきたりもした。勉学に励む姿だったり、可愛らしい服装で遊びに出掛ける姿だったり、色とりどりの表情だったり。

 妄想に懸命になっていると、スマートフォンの通知音が鳴った。開くと、企業メールとクラス用グループチャットの通知があった。
 後者は通知オフにしてあるため、既に結構な件数が溜まっている。普段から会話への参加はほぼなく、用件を確認して終わりだ。

 いつも通り開くと、第一声として“肝試し大会しませんか?”との一文が入っていた。無縁な話だな、と不参加の旨だけ返信する。そのままアプリを落とそうとして――やめた。雑談のネタになるかもと考えたのだ。
 何の気もなく、適当に流し見してゆく。ふと、気になる単語に引き付けられた。

“あの灯台どうよ”
“あそこはやめようよー ガチの幽霊出るらしいじゃん”

 灯台と言うと、知る限りではあの一ヶ所しかない。確かに幽霊の好きそうな出で立ちではあるが、肝試しスポットとして耳にしようとは思わなかった。

“何人か呪い殺されてるらしい 取り憑いて死なせるとか聞いたことある”
“いやそうなんだけどさー だからこそ気になるじゃん”
“私お母さんに絶対近づくなって言われてるからそこならパスー”
“俺も無理ー”

 全員が話を理解していることからも、地元では有名な噂なのだろう。
 海に人が来なかったのも、かなり信憑性の高い噂だからってところだろうか。彼女はこの噂を知っているのかな――。

“灯台から飛び降りたの女子高生って話じゃん 可愛い子だったら見たくない?笑”

 会話を追っていた目が留まる。全ての考えを押し退け、ある可能性が浮かんできた。
 
 彼女は、もしかして幽霊?
 
 いやいや、有り得ないでしょ! 首を振るが、脳が勝手に肯定の要素を並べ出す。
 例えば、いつも似た服装をしているとか。体に傷があるとか。思えば触れたこともないなとか。それに表情が少ないし、言葉も少ないし。あとは、そうだ。名詞も学校名も、彼女の意思でつぐまれていたとしたら――。

 彼女の横顔を、共に過ごした時間を、鮮やかにするほど否定は遠ざかる。可能なら、彼女には人間でいてほしい。人の本能として願ってしまう。
 ただ、同時に思った。幽霊だったとしても、変わらず愛してしまうのだろうな、と。例え何らかの能力で、心が惑わされているだけだとしても。
 
 翌日、僕は何年か振りの八月を身に浴びていた。まとわりつく衣服が、素早く不快指数を上げていく。
 快適と引き換えに向かうのは、もちろん灯台だ。姿の有無は分からない。しかし、体が疼いて仕方がなかった。
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