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「昨日はすごい雨だったね」
業務開始より遥かに早い時間に出勤した明灯は、これまた早い時間であるにも拘らず出勤してきた勇之に、挨拶代わりにそう声をかけていた。
「…本当だよ、最悪…」
勇之は、赤らめた顔でくしゃみをする。
「風邪かな?雨にでもあたった?」
「…どうでもいいでしょ。それより昨日の商談ちゃんとしてきたの?」
「してきたよ、いつも通り」
「なら良かったですけど」
勇之は明灯が見入るテレビに、何気なく視線を向けた。
視線の動きを読み取り、明灯が呟く。
「また事件起きたんだって」
勇之は言われて直ぐに、興味が無いと言わんばかりに目を逸らし、自分の席へと向かっていった。
◇
依仁はいつもよりも早く目を覚ますと、雨が上がったか確認し早めに仕事に出かけた。
ポケットにはいつも通り、重い荷物を入れて。
◇
業務を開始した鈴夜の会社は、とても静かだった。
鈴夜の席はいつかの時のように空っぽで、パソコンの画面は真っ暗なままだ。
そして、近い場所にある歩の席も空っぽだった。
朝から一度も座られていない椅子は、冷たいままだった。
◇
現場では、ねいと泉が他の刑事を引き連れて捜査を始めた所だった。
「ねいさーん、今回の件、一ヶ月前の綾崎さんの事件と関わってると思いますー?」
泉は早朝から叩き起こされた事が不満だったらしく、頬を膨らませながら捜査に当たっていた。
それが更に、現場に不穏な空気を送る原因になっているとも知らずに。
「…どうかしら、まだなんとも言えないわ…」
「でもさっき聞いた話、被害者が傷を負った部分が一致してるんですよね。凶器は違いますけど現場は近いですし?線は濃いと思うんですよ」
血痕の残された事件現場を睨みつけるねいとは対照的に、画面の消えた携帯を見詰める泉は、判明している部分から見解を述べた。
泉の携帯は、先程まで病院と繋がっていた。調査の為、泉から連絡したのだ。
「でも、一体銃なんてどこで手に入れたんですかねー」
泉はポケットに備え付けられている、警察だから許されたその持ち物に手を添えた。
◇
昨日聞いたばかりの声に起こされた淑瑠は、目覚めて第一に見た柚李の焦った顔に戸惑いを隠せなかった。
確かあの後、雨に濡れた飛翔が戻ってきて問題は解決した筈だったが、何をこうも慌てているのだろうか。
「淑瑠さん!鈴夜さんが!鈴夜さんが!」
焦り涙目になった柚李が、纏まらない言葉で何かを伝えようとしている。
何を言いたいのかは一切分からなかったが、鈴夜に関わる何かである事は十分分かった。
ぼんやりとしていた脳が、一気に活性化する。腕に力を込めて、急いで体を起こす。
全身に鈍痛が走ったが、そんな痛みは気にしていられなかった。
「どうしたの!?何があったの!?」
淑瑠は慌てふためく柚李の様子を見て、唯事ではないと悟った。故に早く知りたいと焦った。
「鈴夜さんが…!何者かに襲われて…!ここに…!」
淑瑠は聞きながら既に、松葉杖の力を借りて立ち上がっていた。
驚く柚李を置いて、急いでナースステーションへと向かう。鈴夜の事が心配で、早く走れない足が酷くもどかしかった。
「ナースさん!鈴夜は!水無はどこですか!」
淑瑠は、朝から変わらず忙しいナースステーションに向かって叫び声をあげた。
◇
依仁の働く工事現場にて穴埋め作業が順調に終わり、次の作業についてコンテナ内で会議をしていた時の事だ。
「依仁、携帯光ってるぞ」
「え?あぁ本当だ、なんすかね」
多分、樹野からかサイトの更新を知らせる通知だろうと思いながら、画面をちらりと見ると後者だった。
「…見なくていいのか」
「大丈夫っすよ」
サイト内の書き込みが酷くなってから、機能を用い通知が来るように設定してはおいたのだが、最近は通知も頻繁に来すぎて、来る度に見るのはやめていた。
「…彼女じゃないのか…」
しかし上司がやたらと気にするので、何か言うのに疲れた依仁は、
「…見てくるっす…」
と席を外した。
画面を開くと、書き込みが進行形で更新されていた。
気付かない間にも多々更新されていたらしく、依仁の知らない書き込みが幾つも並んでいる。
読んでいて驚きを隠せなかった。焦りと心配と、そして怒りが心を飽和する。
依仁はサイトを閉じると、すぐさま樹野に電話をかけた。
業務開始より遥かに早い時間に出勤した明灯は、これまた早い時間であるにも拘らず出勤してきた勇之に、挨拶代わりにそう声をかけていた。
「…本当だよ、最悪…」
勇之は、赤らめた顔でくしゃみをする。
「風邪かな?雨にでもあたった?」
「…どうでもいいでしょ。それより昨日の商談ちゃんとしてきたの?」
「してきたよ、いつも通り」
「なら良かったですけど」
勇之は明灯が見入るテレビに、何気なく視線を向けた。
視線の動きを読み取り、明灯が呟く。
「また事件起きたんだって」
勇之は言われて直ぐに、興味が無いと言わんばかりに目を逸らし、自分の席へと向かっていった。
◇
依仁はいつもよりも早く目を覚ますと、雨が上がったか確認し早めに仕事に出かけた。
ポケットにはいつも通り、重い荷物を入れて。
◇
業務を開始した鈴夜の会社は、とても静かだった。
鈴夜の席はいつかの時のように空っぽで、パソコンの画面は真っ暗なままだ。
そして、近い場所にある歩の席も空っぽだった。
朝から一度も座られていない椅子は、冷たいままだった。
◇
現場では、ねいと泉が他の刑事を引き連れて捜査を始めた所だった。
「ねいさーん、今回の件、一ヶ月前の綾崎さんの事件と関わってると思いますー?」
泉は早朝から叩き起こされた事が不満だったらしく、頬を膨らませながら捜査に当たっていた。
それが更に、現場に不穏な空気を送る原因になっているとも知らずに。
「…どうかしら、まだなんとも言えないわ…」
「でもさっき聞いた話、被害者が傷を負った部分が一致してるんですよね。凶器は違いますけど現場は近いですし?線は濃いと思うんですよ」
血痕の残された事件現場を睨みつけるねいとは対照的に、画面の消えた携帯を見詰める泉は、判明している部分から見解を述べた。
泉の携帯は、先程まで病院と繋がっていた。調査の為、泉から連絡したのだ。
「でも、一体銃なんてどこで手に入れたんですかねー」
泉はポケットに備え付けられている、警察だから許されたその持ち物に手を添えた。
◇
昨日聞いたばかりの声に起こされた淑瑠は、目覚めて第一に見た柚李の焦った顔に戸惑いを隠せなかった。
確かあの後、雨に濡れた飛翔が戻ってきて問題は解決した筈だったが、何をこうも慌てているのだろうか。
「淑瑠さん!鈴夜さんが!鈴夜さんが!」
焦り涙目になった柚李が、纏まらない言葉で何かを伝えようとしている。
何を言いたいのかは一切分からなかったが、鈴夜に関わる何かである事は十分分かった。
ぼんやりとしていた脳が、一気に活性化する。腕に力を込めて、急いで体を起こす。
全身に鈍痛が走ったが、そんな痛みは気にしていられなかった。
「どうしたの!?何があったの!?」
淑瑠は慌てふためく柚李の様子を見て、唯事ではないと悟った。故に早く知りたいと焦った。
「鈴夜さんが…!何者かに襲われて…!ここに…!」
淑瑠は聞きながら既に、松葉杖の力を借りて立ち上がっていた。
驚く柚李を置いて、急いでナースステーションへと向かう。鈴夜の事が心配で、早く走れない足が酷くもどかしかった。
「ナースさん!鈴夜は!水無はどこですか!」
淑瑠は、朝から変わらず忙しいナースステーションに向かって叫び声をあげた。
◇
依仁の働く工事現場にて穴埋め作業が順調に終わり、次の作業についてコンテナ内で会議をしていた時の事だ。
「依仁、携帯光ってるぞ」
「え?あぁ本当だ、なんすかね」
多分、樹野からかサイトの更新を知らせる通知だろうと思いながら、画面をちらりと見ると後者だった。
「…見なくていいのか」
「大丈夫っすよ」
サイト内の書き込みが酷くなってから、機能を用い通知が来るように設定してはおいたのだが、最近は通知も頻繁に来すぎて、来る度に見るのはやめていた。
「…彼女じゃないのか…」
しかし上司がやたらと気にするので、何か言うのに疲れた依仁は、
「…見てくるっす…」
と席を外した。
画面を開くと、書き込みが進行形で更新されていた。
気付かない間にも多々更新されていたらしく、依仁の知らない書き込みが幾つも並んでいる。
読んでいて驚きを隠せなかった。焦りと心配と、そして怒りが心を飽和する。
依仁はサイトを閉じると、すぐさま樹野に電話をかけた。
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