Criminal marrygoraund

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 次の日、鈴夜は決意の元、飛翔の居る場所へと向かっていた。たくさん考え、葛藤した末の決断だ。
 淑瑠は「部屋まで付いていこうか」と配慮を示してくれたが、敢えて断り、待合室で待っていてもらうよう頼んだ。

 飛翔に確り伝えたいと思ったのだ。
 君を許したと、飛翔の目を見て確りと。そうして、自分を傷つけるのは止めてほしいと伝えるんだ。

 固い決意を胸に、部屋に入る為ノックをしようと右手で握り拳を作った瞬間、飛翔の弱くも叫びに近い声と、物の落ちる音が聞こえた。
 その為鈴夜は、思わずノックをやめてしまった。
 飛翔はなにやら言葉を叫んでいたが、他の音や医師や柚李の声に所々掻き消され、聞き取る事ができなかった。

 混雑する音の数々を聞いていて、涙が溢れ出しそうになる。辛い、辛すぎる。
 何があったかは全く分からなかったが、異常なまでの不安定さは鈴夜にまで伝染してきた。決断も揺らぎそうになる。

 暫くすると、音は止んだ。
 柚李の急いた声が静まってすぐ、急に扉が開き、鈴夜は驚愕に目を見開いた。
 柚李の方も立っているとは思っていなかったのか、驚きを隠せない様子だ。

「…え、あ、すみません、少し待っていて下さい」

 柚李は丁寧に言葉を置いてゆくと、駆け足でどこかへと立ち去った。
 開け放たれた扉から見えた部屋は、酷く散乱していた。
 元々、物の少ない部屋の筈なのに、シーツは捩れ、かけ布団はベッドの下に落ちていた。点滴は倒れて、本も何冊か散らばっている。
 恐らく暴れたのだと思われる。

「…水無さん…」

 医師の声に反応しそちらを見ると、床に座り込んで飛翔を抱きすくめる姿が目についた。
 飛翔は気を失っているのか、微動だにしない。その腹部には淡く血が滲んでいた。

「…吃驚させましたね…」

 笑う気力もないのか、医師は俯いたままだ。
 柚李が呼んだのか、直ぐに別の医師がやってきて対応に当たった。

 その間、担当医と鈴夜は、二人して部屋の前で待機する事となった。柚李はまだ戻ってこない。
 何が起こったのか詳しくは分からなかったが、悲惨な何かが起こったという事実だけは認識できた。
 医師は酷く落ち込んでいて、ただ放心しながら廊下を見詰めている。

「……あの…」

 鈴夜は、勇気を振り絞り声をかけた。
 だが、返事は中々返ってこない。

「…あの、先生…?」

 顔を除き込む形で尋ねると、医師は漸く反応してくれた。

「なっ、なんでしょう?」

 様子から、酷く疲れ切っているのだと理解した。
 先程見た柚李の表情といい、医師の反応といい、周りの人間も精神的に危ない気がする。

「……えっと…あの…」

 鈴夜は、どんな言葉をかけたら良いか分からなくなり、適切な単語を必死に探していた。
 しかし、辿り着く前に医師が声を作った。

「……はは、情けないですよね、一応担当なのに何も出来ないなんて」
「…そんな事は…」

 医師は漸く作り笑いをした。情けなさそうに笑うその顔は、まるで自分を責めているように見える。

「……どうしたら助けてあげられるんだろう…」

 黙り込むしかなかった。全貌を知らない自分には、何を言って慰めたら良いか見つけられない。

「入ってもいいですよ」

 対応に当たっていた医師とナースが出てきて、柔和な笑みを浮かべた。
 上手く現状を打開してくれた事に、胸を撫で下ろしてしまう。

「…先生入りましょう」

 担当医は、また考え事にのめり込んでいた。声が聞こえていないのか動こうとしなかった。
 その為鈴夜は、一人で部屋に入った。

 先程の騒ぎが、嘘であったように静かだ。シーツは簡単にだが直され、雑誌も適当にだが棚の上に積まれている。
 飛翔も、再度新たな点滴を受け目を閉じていた。
 新品の入院服から見える体には、何十もに重ねられた包帯が見えた。腕にも、胸にも、首にも包帯が巻かれていた。

「…飛翔君、もういいよ」

 鈴夜は込み上げる感情に負け、泣きながら飛翔へと気持ちを突きつけた。


 柚李は用を済ませ、病院に戻ろうとしている最中だった。だが、丁度玄関前で依仁に会い、中へと向けていた足を止める。

「…何の御用ですか…」

 柚李は依仁を疑っていた。
 あの一件後、飛翔は酷い怪我を負ったのだ。他者に襲われた可能性が無い訳ではない。

「…いや、近くに来たから友人の見舞いに行こうと思っただけだ」
「…そう、ですか」

 ただ、柚李が盗聴器を使い会話を盗聴していた頃には、もう殆ど物音は聞こえなくなっていて、はっきりと確信する事は出来ずにいた。

「…飛翔君の事、貴方じゃないですよね…?」
「何が?何かあったの?」

 依仁は、何も知らない振りをした。本当は、何が起こったか全て知っていたが。
 実は今日も、飛翔の状態を伺いに病院に顔を出したのだ。だから友人の件は嘘である。咄嗟の作り話だ。

「……襲われたんです、でも違うんですね?」

 柚李は揺さ振りをかけるつもりで、態と、はっきり他者の犯行であると述べた。

「知らねぇ」

 だが依仁は、一切不審な様子を見せなかった。
 柚李もずっと表情を見ていたが、完璧に作り上げられ、出来事自体を知らないのだと信じるに至った。

「…そうですか、復讐とか考えないで下さいね…」

 想定と違えていた事に柚李は溜め息を――吐きかけたが飲み込んだ。
 依仁は、気を悪くした顔をして踵を返す。実際気分は最悪だ。何度も考えた行動を、目的を言い当てられて、不快にならない訳が無い。

「…お見舞い行かないんですか?」
「行く気なくなった」
「…そう、ですか」

 依仁は、背を向け去ってゆく柚李の背を睨みながら、先程の会話から分かった状態を推理し、舌打ちした。
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