Criminal marrygoraund

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 涙は止まらないままで、夜が明けた。
 淑瑠がやってきても、ほぼうつ伏せ状態になり、眠った振りをして泣き顔を誤魔化した。
 その為、顔を見せた時には、何時も通りの笑顔を浮かべてくれた。


 歩は、飛翔が亡くなった事により思い立ったある行動の為、休日を利用し花屋に来ていた。
 本当は当日に行きたかったのだが、時間が無く赴けなかったのだ。
 因みにこの花屋は、淑瑠も勇之も利用した場所だ。

「…すみません、お供えの花少し包んでもらえますか?」
「はい、お供えですね」

 花屋の老婦が、にっこりと微笑む。そうして早速花の選定を始めた。
 真剣に花を選びながらも、老婦は寂しげに笑った。

「…最近若い子も3人くらい来たんですよ…さっきも来てたし…やっぱりこの時期って多いのかしら…」
「…うーん、どうでしょうね…?」

 老婦は悲しい目をしながらも、美しい彩りで花を包む。
 歩はその姿を見ながら、花屋に来そうな人物を幾人か想像して少し俯いた。

 歩が向かったのは墓場だった。この地方の人間の、殆どがこの地に眠る。
 その入り口に差し掛かった地点で、丁度黒髪を揺らし歩いてくる柚李と出会った。

「こんにちは」

 柚李は歩との相対で、どうしても飛翔の事が浮かんでしまい戸惑った。
 彼もきっと、事件を知ったのだろう。

「…こんにちは…失礼します」

 柚李は急いでいたのか、足早に通り過ぎ、行ってしまった。 
 今日歩がやってきたのは、飛翔の為だけではない。
 第一、飛翔の墓の場所は知らないし、あるのかも分からない。

 今日は、飛翔の友人であった大智とユメ、そしてその他の幾人かの為に赴いたのだ。
 久しぶりに来るこの場所に、歩は懐古する。ゆっくりと歩きながら、記憶の中に消えた笑顔を次々と思い出していた。

 大智の墓にもユメの墓にも、近い内に誰かが来ていたのか、新しい花が挿し込まれていた。
 歩は墓の前には花を置かず、そのまま歩いてゆき、墓場の端で流れる川の上に花束を置く。
 そうして謝罪を胸に、流れてゆく彩り豊かな花束を見送った。


 その頃、岳と志喜は、昨日同様、鈴夜の家に来ていた。
 鈴夜は不眠により体調が良くないながらも、自分を癒してくれるその表情を、自身も笑顔で見詰めていた。
 岳も志喜も、不安定な状態に気付きながら敢えてそれについては触れず、美味しいお菓子を囲み、普段通りの話をした。

 だが鈴夜は、岳の様子から何と無く悟ってはいた。
 自分の状態に気付いた上で、こうして来てくれて話をしてくれているのだろうと。
 いつもより何処と無くだが、口数が多い事から悟った。

 だが、その一生懸命さに励まされ、鈴夜は純粋に、奥底に隠された気持ちを受け取る事が出来た。
 落ち込んではいけない。幾ら辛くても、忘れられなくても、前向きにならなければ。
 その思いが、また心に生まれた。


 美音は退屈だった。家に来るなと言われてしまっては行き場がない。病院には近付き難いし、かといって軽く遊びにいける家もない。
 とは言え自宅に居たくもない、という最悪の状態だ。

 とりあえず無鉄砲に外に出てきては見たものの、一人でショッピングモールもゲームセンターも楽しくなく、飽きてしまって、現在は一人、ハンバーガー店で考えていた。
 そうだ。
 美音は考え無しに携帯を手に取り、電話帳を開いた。

 鈴夜の携帯が、着信音を鳴らした。

「あっ、ごめん外すね」

 廊下にて目にした画面で、相手が美音であると分かった。

≪もしもし?どうしたの≫
≪こんにちはー!お久しぶりです!あの急なんですけど今から遊びませんか?≫

 鈴夜は、一瞬絶句してしまった。
 美音はまだ、飛翔の事件について知らないと見受けられる。

≪…ごめん、今お友達が家に来てるんだ、また今度ね≫
≪えっ、お友達?いいなー私も言っちゃだめですか?≫

 鈴夜は戸惑う。淑瑠は良いだろうが、志喜と岳が分からない。
 一度会っているとは言え、特に人見知りの岳は。

≪えっ?えっと、聞いてみるね、ちょっと待ってて≫

 鈴夜は部屋に戻り、電話の内容を明確に伝えた。
 岳は少し戸惑いを見せたものの、淑瑠と志喜の許容を受け入れ、最終的には誘っても良いとの判断に傾いた。
 その為美音も、お茶会に参加する事になった。

 道を教え、電話を切って暫くすると、チャイムが鳴り美音が姿を見せた。とても嬉しそうに笑っている。

「電話とお願い突然すみませんでした、でもすっごい嬉しいですありがとうございます!」
「ううん、いいよ、上がって」

 美音はどこかそわそわとし、辺りを見回しながら鈴夜の後について歩いた。
 まるで、始めて他人の家に上がりこむようなその様子に、鈴夜は小さく微笑んだ。

 美音の性格と志喜の性格が噛み合って、直ぐに部屋は賑やかになった。
 身振り手振りも見ていて面白く、時間が経過するのはとても早かった。

 帰宅の為、玄関の外に立った美音は、気持ちを表現するため大きく素早いお辞儀をした。
 相変わらず、太陽のような笑顔をしている。 

「今日はありがとうございましたー!すっごいすっごい楽しかったです!また来てもいいですか?」
「うん、いいよ」
「じゃあまたね、水無さん、淑瑠さん」
「またね」

 それぞれ別れを告げ、3人は帰宅していった。
 去った後に寂しさが冷たく吹き込み、賑やかな時間が随分と心を楽にしてくれていた事を、今日もひしひしと痛いくらい感じた。

「楽しかったね」
「うん、凄く」

 二人して履いた靴を脱ぎながら、余韻を噛み締める。

「また来てくれると良いね」
「うん、そうだね」

 淑瑠は、鈴夜が微笑んでくれれば、それで十分嬉しかった。
 勿論、賑やかな時間自体楽しいと思ったが、それは鈴夜の笑顔あってこそなのだ。
 このまま、楽しい時間で彼の記憶を埋め尽くしてあげたい。そして、嫌な事は全て忘れて笑ってほしい。
 なんて、到底届かなさそうな願いを真剣に掲げた。
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