Criminal marrygoraund

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 夜が明けた。今朝は、窓も開けていないというのに気温が妙に低く、布団を出た瞬間から寒気を感じた。
 その理由は、カーテンを開いて直ぐに分かった。
 雪だ。深夜に降っていたのか、随分と積もっている。

 鈴夜はまた、眠れていなかった。最近は慢性的に眠れなくて、夜の長い時間を考え事に費やすのが恒例となっている。

「……痛いな」

 光を浴び、また涙が溢れそうになった為、ひとりごとを漏らして堪えた。
 右手は、傷が残る腹部ではなく、胸の辺りを摩っていた。
 溶けない蟠りを、溶かすように。


 勇之は、不満げな顔で思案していた。今朝は珍しく、隣に明灯は居らず、会社には一番乗りだ。
 朝早くから業務に手をつけるのも億劫だった為、明灯がよくしているようにテレビを点けてみる。

 世間は飽きる事無く、同じニュースを流し続けてばかりだ。最近は専ら、飛翔のニュースばかりである。
 本人の名前は匿名になっており一般人には分からない使用になっているが。

 医師の殺害理由が討論を巻き起こしていて、様々な評論家や心理学者などが、事件について意見し、ぶつかり合っていた。
 勇之は、自分の意見を押し通す人間や、親身になって考える振りをする人間達を見て、歯軋りする。

「……誰が正しいとかってどうでも良くない?」

 丁度入室してきた同僚は、急に声をかけられ、きょろきょろと困った様子を見せた。
 質問にか自分にか分からないが、戸惑う姿を見て勇之は大きく溜め息を吐いた。
 そしてテレビを消し、立ち上がる。

「……ちょっと煙草吸って来るから、寿さん来たら喫煙所に居るって言っておいて」
「は、はい」

 同僚は勇之が去ってゆくのを見ると、そそくさと自分の席へと着いた。


 裏道を早歩きしながら、緑は非常に焦っていた。
 ねいの声色や目線が忘れられない。どうしてか、美音の笑顔も脳内に出てくる。
 かと言って調査も、自分の力では限界があるのだ。直ぐに、ねいの求める結果が出せる訳じゃない。
 ねいの様な凄腕でも、ベテランでも何でも無いのに。

 緑は、ねいと依仁に挟まれるポジションにある自分を客観的に見て、なんて情けない奴なんだと非難する。
 これで何度目かの自虐だ。前から有ったが、最近更に増えた気がする。
 とにかく何でも良いから、この件を早く終わらせたい。

「…鈴村さん?」
「黒崎さん」

 思想に集中しながら歩いていたのに関わらず、目の前に現れた人物に緑は冷静に対応していた。

「こんな所で会うなんて吃驚しました。これから警察所ですか?」

 こんな所とは、人通りの無い裏道で、と言いたいのだろう。
 とは言え、この道は警察署への近道でもあるのだ。普通に使用していても違和感は無い筈だが。

「いいえ、黒崎さんは帰りですか」
「…まぁ、そんな所です」

 柚李は、眼鏡越しの瞳をじっと見詰めると、唐突に問いかけてきた。

「…そう言えば、緑さんも事件時に同じ小学校に通っていらしたのだとねいさんから聞きました。と言う事は鈴村さんも被害者の方になるんですよね…?」

 その表情は、少し悲しげだ。

「……私は丁度その日も休んでいましたので、直接は…」

 緑は可能性に、言葉を詰まらせる。
 小学生の頃、学校には半分ほどしか顔を出しておらず、学校に行っても行事ごとは基本参加しなかった。
 そう言った理由があり、全校生徒の顔を完全には把握出来てはいなかった。

「……もしかして黒崎さんも、ですか?」

 緑は息を飲む。だが柚李は、ただ困り笑うだけだった。

「私はもう中学生だったので関係はありません、ただねいさんが…あっ」

 口を滑らせ、柚李は焦り始めた。
 だが緑は、柚李が隠した内容を既に知っていた為、聞き出そうとは思わなかった。

 そう、ねいも事件の被害者である。
 前に、加害者である人間の事を――――いや、この世界で他人の命を奪った人間皆を憎んでいると、強い瞳で聞かされた事があった。
 緑はその目に、恐怖しか抱けなかったのだが。

「……お友達もたくさん亡くなられたのでしょう?事件について、どう考えていますか…?」

 柚李は気まずそうに、だが確りとした直接的な言葉を選び、突きつけてきた。まるで警察官のようだ。
 緑は、事件の有った日から変わらず抱いていた感情を、勢いで口にしてしまった。

「……友達なんて居なかったですし、私は事件とは関係ないですから…」
「…そうですか」

 柚李はとても残念そうな、萎れた声で受け入れた。


 扉を開くと、皆の視線が一気に鈴夜を突き刺した。いや、本人達は何の気も無いのだろうが、鈴夜には鋭いナイフのように思えた。

「…おはようございます」

 歩は声に、急いで扉を見る。

「鈴夜くん!大丈夫なのか!」

 昨日も連絡は無く、出勤してくるとは微塵も考えていなかった。
 その為、驚きは大きい。

「大丈夫です、またご迷惑お掛けしました」
「いや、それは良いんだが…」

 歩は、お辞儀から顔を上げた鈴夜の表情に思わず声を飲み込んだ。
 その顔には、微笑が宿っていたのだ。自然的に見える、けれどどこか寂しげな微笑が。
 まだ体調を悪くしていて、表情が固いのだと捕らえてしまえば納得は出来るが、第六感が違うと言っている。

「…今日は寒かっただろう?」
「そうですね、雪積もってて吃驚しました」

 けれど、鈴夜の抱く何かに確実性が見出せず、歩は何も言えなかった。
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