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こんな結末があるなんて!
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キノコが一人になるタイミングを、物影に隠れて遠くから窺う。
本日のプランは、ラジコンカーを足場にぐるぐる疾走させようといったものだ。もちろん後で走って出て行き、俺がやりましたと自白する予定である。
ただ、正直もう自分でも何をしているのか分からなくなってきた。
「よしっ、そろそろ発進だ……」
リモコンを構えた瞬間、上着の襟が引っ張られる。
「邪魔すんなよミカー」
振り向くと、そこにいたのは数人の女子たちだった。よく、キノコを探しに来ている女子もいる。
そんな女子たち全員が、なぜか鬼の形相だった。
***
「あんたさ、最近椎名くんに色々嫌がらせしてるでしょ! 私たち知ってるんだからね!」
リーダーらしき女子の第一声を筆頭に、他の女子たちが一斉に叫びだす。最低、どクズ、椎名君が可哀想……と、様々な罵詈雑言を突きつけられた。
「いや、あのですね、色々やってたのは……」
「は!? あんた言い訳するつもりなの!? 本っ当に最低なゴミ野朗なんだけど! 椎名くんに謝りなさいよ! 土下座よ、土下座!」
「いや、だからさ。本当に訳があって。一度話を聞い……え」
瞬間的に起きた出来事に、唖然とする。目の前には逆さまのバケツを持った女子がいて、俺はなぜか全身を水浸しにしていた。
――あ、これ本気で怒らせてるやつだ。
状況を前に、今さら事の重大さを理解した。キノコを怒らせるはずが、まさかファンの女子達を怒らせることになるとは。思いもしなかった。
「……ちょ、ちょっと待って本当に事情があるんだって……話せば分かるから……」
「まだ言い訳すんの!? あんたに色々されて椎名くんがどれだけ嫌な思いをしてたと思ってんのよ!」
発言した女子の手が、大きく振り被られる。数秒後の未来が脳内に流れ、恐怖で身が縮まった。ぎゅっと目を瞑り、痛みに備える――。
「やめて!」
だが、頬を痛みが襲うことはなかった。聞こえた声に引き付けられるよう、ハッと目を開く。
そこには、女子の手を掴んで止めるキノコがいた。
「キノ……」
「何も知らないのにこういうことしないで!」
聞いた事もない大声に、一同全員硬直する。周囲には焦りが広がり、手を掴まれた女子なんかはかなり気まずそうだ。
俺はと言うと、脳内真っ白だった。
「そもそも君たちがこういうことをする必要はないでしょ! ちゃんと言わなかった俺が悪いんだから勝手に酷いことしないで!」
心が震える。まさか、キノコの怒りが、自分自身ではなく他人の――俺の為に発動すると思っていなかった。
気付けば、勝手に涙が零れていた。女子もいる手前、泣きたくはないが無理だった。
「ヴッ……」
思わず漏れた嗚咽で、一同の注意が動く。
「なんだよー、怒れるじゃんかー……」
キノコは素早く屈むと、ハンカチを差し出してくれた。受け取って、ゴシゴシと拭う。
「ごめんね。ちゃんとやめてって言ってれば良かったね。俺、怒らせようとしてやってるの知ってたよ。でも、色々考えてたら、どうしたらいいか分かんなくなっちゃって……本当にごめん」
相変わらず、キノコは自分ばかりが謝る。何の罪もないのに、怒らず許してくれる。
「謝るのは俺の方だろバカ、本当にたくさんすみませんでした……」
誠心誠意の土下座で、キノコにひれ伏した。酷く困惑する様子が見なくとも分かる。もういいよ、大丈夫、怒ってないよ、と必死な声を聞きながらも俺は土下座を続けた。
「はい、めでたしめでたし」
静かで、けれどもよく通る声が、突然場に入ってくる。それはミカの声だった。
訳も分からず顔を上げると、女子の開けた道を歩いてくるミカが見えた。
表情から察するに、どうやらキノコも状況が分かっていないらしい。
ミカはと言うと、こちらに近付きながらも、『大役お疲れ様』『私たち、本当に焦ったんだからね!』なんて会話を女子たちとしている。
まるで、全てを知っていたかのように。
「……え? えぇ?」
「良かったなハチ。キノコの怒るところ見れて」
「こ、これ、もしかしてミカが全部仕組んでたの? 水かけるやつも?」
ミカを含めた周囲を見渡すと、女子たちが皆、うんうんと頷いていた。どうやら、これは本当に全てミカの企てだったらしい。
「え、じゃああのビンタはどうなる予定だったの? キノコが止めてくれなかったらもしかして……」
「ぶちあたってたな」
「怖ぇえー!」
「はい、じゃあ改めて皆お疲れさま。キノコ、彼女たちにお礼考えといてな」
「あ、うん」
あっさりと纏め上げられ、頭がついていかない。ただ、全部終わったことだけは確かに分かった。
ふと、今までの行動が走馬灯の如く頭をぐるんぐるんと回り始める。
そうして気付いた。
「俺の計画って一体なんだったのー!?」
あの日以降も、俺たち三人は大親友として過ごしている。キノコもミカも、大好きで掛け替えのない存在だ。
「そう言えば、俺あの後思ったんだけどね」
本日の集合場所は麗かな裏庭で、珍しくミカの到着がまだだった。そんな二人きりの空間に、本能擽る一言が投げられる――。
「ミカが本気で怒ったとこ、見たことないよね」
本日のプランは、ラジコンカーを足場にぐるぐる疾走させようといったものだ。もちろん後で走って出て行き、俺がやりましたと自白する予定である。
ただ、正直もう自分でも何をしているのか分からなくなってきた。
「よしっ、そろそろ発進だ……」
リモコンを構えた瞬間、上着の襟が引っ張られる。
「邪魔すんなよミカー」
振り向くと、そこにいたのは数人の女子たちだった。よく、キノコを探しに来ている女子もいる。
そんな女子たち全員が、なぜか鬼の形相だった。
***
「あんたさ、最近椎名くんに色々嫌がらせしてるでしょ! 私たち知ってるんだからね!」
リーダーらしき女子の第一声を筆頭に、他の女子たちが一斉に叫びだす。最低、どクズ、椎名君が可哀想……と、様々な罵詈雑言を突きつけられた。
「いや、あのですね、色々やってたのは……」
「は!? あんた言い訳するつもりなの!? 本っ当に最低なゴミ野朗なんだけど! 椎名くんに謝りなさいよ! 土下座よ、土下座!」
「いや、だからさ。本当に訳があって。一度話を聞い……え」
瞬間的に起きた出来事に、唖然とする。目の前には逆さまのバケツを持った女子がいて、俺はなぜか全身を水浸しにしていた。
――あ、これ本気で怒らせてるやつだ。
状況を前に、今さら事の重大さを理解した。キノコを怒らせるはずが、まさかファンの女子達を怒らせることになるとは。思いもしなかった。
「……ちょ、ちょっと待って本当に事情があるんだって……話せば分かるから……」
「まだ言い訳すんの!? あんたに色々されて椎名くんがどれだけ嫌な思いをしてたと思ってんのよ!」
発言した女子の手が、大きく振り被られる。数秒後の未来が脳内に流れ、恐怖で身が縮まった。ぎゅっと目を瞑り、痛みに備える――。
「やめて!」
だが、頬を痛みが襲うことはなかった。聞こえた声に引き付けられるよう、ハッと目を開く。
そこには、女子の手を掴んで止めるキノコがいた。
「キノ……」
「何も知らないのにこういうことしないで!」
聞いた事もない大声に、一同全員硬直する。周囲には焦りが広がり、手を掴まれた女子なんかはかなり気まずそうだ。
俺はと言うと、脳内真っ白だった。
「そもそも君たちがこういうことをする必要はないでしょ! ちゃんと言わなかった俺が悪いんだから勝手に酷いことしないで!」
心が震える。まさか、キノコの怒りが、自分自身ではなく他人の――俺の為に発動すると思っていなかった。
気付けば、勝手に涙が零れていた。女子もいる手前、泣きたくはないが無理だった。
「ヴッ……」
思わず漏れた嗚咽で、一同の注意が動く。
「なんだよー、怒れるじゃんかー……」
キノコは素早く屈むと、ハンカチを差し出してくれた。受け取って、ゴシゴシと拭う。
「ごめんね。ちゃんとやめてって言ってれば良かったね。俺、怒らせようとしてやってるの知ってたよ。でも、色々考えてたら、どうしたらいいか分かんなくなっちゃって……本当にごめん」
相変わらず、キノコは自分ばかりが謝る。何の罪もないのに、怒らず許してくれる。
「謝るのは俺の方だろバカ、本当にたくさんすみませんでした……」
誠心誠意の土下座で、キノコにひれ伏した。酷く困惑する様子が見なくとも分かる。もういいよ、大丈夫、怒ってないよ、と必死な声を聞きながらも俺は土下座を続けた。
「はい、めでたしめでたし」
静かで、けれどもよく通る声が、突然場に入ってくる。それはミカの声だった。
訳も分からず顔を上げると、女子の開けた道を歩いてくるミカが見えた。
表情から察するに、どうやらキノコも状況が分かっていないらしい。
ミカはと言うと、こちらに近付きながらも、『大役お疲れ様』『私たち、本当に焦ったんだからね!』なんて会話を女子たちとしている。
まるで、全てを知っていたかのように。
「……え? えぇ?」
「良かったなハチ。キノコの怒るところ見れて」
「こ、これ、もしかしてミカが全部仕組んでたの? 水かけるやつも?」
ミカを含めた周囲を見渡すと、女子たちが皆、うんうんと頷いていた。どうやら、これは本当に全てミカの企てだったらしい。
「え、じゃああのビンタはどうなる予定だったの? キノコが止めてくれなかったらもしかして……」
「ぶちあたってたな」
「怖ぇえー!」
「はい、じゃあ改めて皆お疲れさま。キノコ、彼女たちにお礼考えといてな」
「あ、うん」
あっさりと纏め上げられ、頭がついていかない。ただ、全部終わったことだけは確かに分かった。
ふと、今までの行動が走馬灯の如く頭をぐるんぐるんと回り始める。
そうして気付いた。
「俺の計画って一体なんだったのー!?」
あの日以降も、俺たち三人は大親友として過ごしている。キノコもミカも、大好きで掛け替えのない存在だ。
「そう言えば、俺あの後思ったんだけどね」
本日の集合場所は麗かな裏庭で、珍しくミカの到着がまだだった。そんな二人きりの空間に、本能擽る一言が投げられる――。
「ミカが本気で怒ったとこ、見たことないよね」
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