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めでたしめでたし
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「これで何回目!? さすがに落としすぎちゃう!? 大丈夫!?」
あの日以降、三日に一度は斧が落ちてくるようになったのです。嬉しいのは嬉しいのですが、ここまで高頻度だと逆に心配になります。女神には、心なしか青年の顔が青ざめているようにも見えました。
「……なんか具合悪そうな気いするし、無茶とかしてへん?」
「してません!」
青年は出会ったの時のように、きっぱり言ってみせます。けれど、女神には嘘をついているように見えました。
「いや、ほらでも休んでへん感じあるし、うちも心配してまうよ」
「…………あ、あ……」
「あ?」
図星なのか、青年は言葉を発したい魔物のように、一つの単語を繰り返します。伏し目がちな視線は、斜め下方向へと刺さっていました。地面に熱視線を送って、何を考えているのでしょうか。
「会いたかったんです」
「えっ」
森の空気が、一瞬呼吸をやめたかと思いました。言葉の意味は分かるのに、飲み込めず女神はどぎまぎしてしまいます。青年の視線は、まだ地面へ刺さったままでした。
「……お、怒られてしまうかもしれませんが……実はわざと斧を落としてました! 女神さまが親切に斧くれようとしてるのに断ったのも、受け取ったら終わりになってしまいそうで怖かったからです! 僕、女神さまのことが心の底から好きなんです。一目惚れでした。だから僕の女神になって下さい……!」
そしてこれです。女神の顔面がリンゴより濃厚な赤色と化します。今思えば、最初の冷たさは恥じらいによるものだったのかもしれません。
言い切った青年の全身から、おそれのオーラがびんびん出はじめました。そのおそれが、嫌われたくない思いから来るものだと、女神にだって分かりました。
もちろん絶対に嫌ったりはしません。むしろ嬉しすぎて、泉の底から宇宙へ飛べそうなくらいです。
しかし、女神にはどう受け止めるべきかが分かりませんでした。なぜなら、果たすべき仕事を持っているからです。
「う、嬉しいし、うちも好きなんやけど、うちは一生この泉から離れられへんねん……なりたくても専属の女神にはなれへんねん……」
「そうですよね……」
自らで断っているくせに、胸がぎゅぎゅっと絞られます。この時やっと、自分が恋をしていたのだと女神は気付きました。
悲しそうな気配を淡く漂わせたものの、青年の瞳に諦めは宿りませんでした。上げられた視線が、女神を捉えます。
「じゃあ、これからは毎日落としてもいいですか?」
青年の提案で、女神の心には太陽にも勝る輝きが溢れました。今心を覗かれたら、目を眩ませてしまいそうです。
退屈確定だった未来が一気に華やぎます。こんなんにも幸せなことがあるでしょうか。
心の中に沸いた感情に従い、女神は思いっきり海へ飛び込みます。それから、青年を想って作った斧を取り、再び浮上しました。今までで一番最速でした。
「もちろん良いに決まってるやん! 何回でも拾うし持ってくわ! でな! あのな! これ、もらってほしくて作った斧なんやけど、使ってくれる!?」
右手には、必要以上の金を埋め込んだ金の斧を、左手には滑り止めグリップつきの銀の斧を掲げます。ゆっくり青年に差し出すと、しっかりと握りしめ受け取ってくれました。心の底から嬉しそうです。
「喜んで!」
その日以降、毎日、金、銀、鉄の斧がランダムで落ちてくるようになりました。そうして、女神と青年は幸せな時間を紡ぎ続けたのでした。おしまい。
あの日以降、三日に一度は斧が落ちてくるようになったのです。嬉しいのは嬉しいのですが、ここまで高頻度だと逆に心配になります。女神には、心なしか青年の顔が青ざめているようにも見えました。
「……なんか具合悪そうな気いするし、無茶とかしてへん?」
「してません!」
青年は出会ったの時のように、きっぱり言ってみせます。けれど、女神には嘘をついているように見えました。
「いや、ほらでも休んでへん感じあるし、うちも心配してまうよ」
「…………あ、あ……」
「あ?」
図星なのか、青年は言葉を発したい魔物のように、一つの単語を繰り返します。伏し目がちな視線は、斜め下方向へと刺さっていました。地面に熱視線を送って、何を考えているのでしょうか。
「会いたかったんです」
「えっ」
森の空気が、一瞬呼吸をやめたかと思いました。言葉の意味は分かるのに、飲み込めず女神はどぎまぎしてしまいます。青年の視線は、まだ地面へ刺さったままでした。
「……お、怒られてしまうかもしれませんが……実はわざと斧を落としてました! 女神さまが親切に斧くれようとしてるのに断ったのも、受け取ったら終わりになってしまいそうで怖かったからです! 僕、女神さまのことが心の底から好きなんです。一目惚れでした。だから僕の女神になって下さい……!」
そしてこれです。女神の顔面がリンゴより濃厚な赤色と化します。今思えば、最初の冷たさは恥じらいによるものだったのかもしれません。
言い切った青年の全身から、おそれのオーラがびんびん出はじめました。そのおそれが、嫌われたくない思いから来るものだと、女神にだって分かりました。
もちろん絶対に嫌ったりはしません。むしろ嬉しすぎて、泉の底から宇宙へ飛べそうなくらいです。
しかし、女神にはどう受け止めるべきかが分かりませんでした。なぜなら、果たすべき仕事を持っているからです。
「う、嬉しいし、うちも好きなんやけど、うちは一生この泉から離れられへんねん……なりたくても専属の女神にはなれへんねん……」
「そうですよね……」
自らで断っているくせに、胸がぎゅぎゅっと絞られます。この時やっと、自分が恋をしていたのだと女神は気付きました。
悲しそうな気配を淡く漂わせたものの、青年の瞳に諦めは宿りませんでした。上げられた視線が、女神を捉えます。
「じゃあ、これからは毎日落としてもいいですか?」
青年の提案で、女神の心には太陽にも勝る輝きが溢れました。今心を覗かれたら、目を眩ませてしまいそうです。
退屈確定だった未来が一気に華やぎます。こんなんにも幸せなことがあるでしょうか。
心の中に沸いた感情に従い、女神は思いっきり海へ飛び込みます。それから、青年を想って作った斧を取り、再び浮上しました。今までで一番最速でした。
「もちろん良いに決まってるやん! 何回でも拾うし持ってくわ! でな! あのな! これ、もらってほしくて作った斧なんやけど、使ってくれる!?」
右手には、必要以上の金を埋め込んだ金の斧を、左手には滑り止めグリップつきの銀の斧を掲げます。ゆっくり青年に差し出すと、しっかりと握りしめ受け取ってくれました。心の底から嬉しそうです。
「喜んで!」
その日以降、毎日、金、銀、鉄の斧がランダムで落ちてくるようになりました。そうして、女神と青年は幸せな時間を紡ぎ続けたのでした。おしまい。
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関西弁女神すこです
ハートフルギャグ期待(╹◡╹)
モモタロー!さん✨
読んで下さり、更には感想までありがとうございます!ものすっごーく嬉しいです🌸
女神さまも気に入ってもらえて嬉しいです✨関西弁にして良かった〜( ´ ▽ ` )