100円の愛情

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日々

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 ママは優しい人だった。けれど何年か前、知らない内にお兄ちゃんと出て行ってしまった。

 その日からパパは、ママにしていたように私を殴った。『ママが出て行ったのは、お前の所為だ』と言いながら。



 八歳の、私の世界は小説が全てだ。
 理由は、昼間は外出しないよう、パパに言いつけられているから。それともう一つ、本を読むことはママが好きだったからだ。

 けれどママは、そんな大好きな小説も、全て残して出ていった。だから私にとって、この本はママの欠片のようなものなのだ。

 視界の端で白い何かが動く。目を細めて窓外を見ると、降雪を見つけた。夜になったら遊ぼうと考え、文字の方へに戻った。

 今はまだ、読めない漢字がたくさんある。けれど、辞書で調べて頑張って読んでいる。

 私の何が駄目で、ママが出て行ったのかは分からない。けれど、賢くて良い子になれば、戻ってくるかもしれないから。



 パパは昼間、どこかに行っている。だから私は、寒い部屋の中に一人だ。布と言う布をかき集め、被りながら過ごした。

 背丈以上に積まれた、ゴミから悪臭がする。意味もなく見ていると、中に食料のようなものが見えた。食べようか迷ったけれど、腹痛に耐えた日を思い出してやめた。

 実は、あまり食べ物が貰えない。水道水だけで凌ぐなんて、よくあることだ。
 時々、気まぐれでお菓子があったりするから、それを楽しみに過ごしていた。

「今日はあるかな……?」

 足の踏み場すら危うい部屋の端、唯一ぽっかりと空いた空間がある。それが、四人掛けの机の上だった。端に追いやられているものの、そこだけは綺麗なままだ。
 お菓子がある日は、決まってそこに置かれていた。

「……ないなぁ」

 机上には、昔のままの花瓶と、すっかり枯れてしまった花だけがある。ママは、綺麗な花も好きだった。

 侘しく佇む花瓶は、悲しさを心に連れてきた。



 夜中になると、怖いパパが帰ってくる。お酒の匂いをさせて、怒鳴りながら扉を開けた。

 パパは私が嫌いらしく、帰ってくると私を殴る。女の子だからか、顔は殴られなかったけど。
 でも、たくさん殴られた日には、痛みで動けなくなることもあった。

 けれど、ママを怒らせた私が悪いから、何度もごめんなさいと言った。
 どうすればこの生活が終わるのか、殴られながら考え続けた。


 外に出られるのは、殴られ終わってやっとだ。パパは、私が恥ずかしい子だから、誰にも会わせたくないと言っていた。

 だから、出る時はパパの大きなパーカーで顔を隠し、静かに外に出る。
 玄関までは、物が邪魔して行けないから、近くの窓から出入りを行った。

 そうして少しの間だけ、外の新鮮な空気を味わうのだ。雪で遊んだり、川で体を洗ったりして、態と時間を掛けたりもした。

 我が家は、他の家から随分離れた所にある。だから、散歩中に見える景色は、普段と違っていて楽しかった。

 でも、ママとお兄ちゃんが恋しくもなって、コンビニの明かりを見て泣きそうになった。
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