100円の愛情

有箱

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記憶

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 床のゴミを寄せ、確保した場所でお気に入りの本を読む。世界を知らなかった少女が、冒険をして成長してゆく話だ。

 私も、この少女のようになれると思っていた。けれど、現実は箱の中で、外なんか見せてすらもらえない。

 もしかしたら、ここで一生を過ごし、死を遂げるのではないかと何度も考えた。

 ――殴られて殴られて、明方の暗い内だけ外に出られて、帰って夢の中で二人にあって、起きて現実を見て、本を読んで過ごして、また殴られて。

 そんな生活は繰り返される。きっと、この先もずっと続いていく。

 あーあ、こんな生活もう嫌だなぁ。
 二人の所へ、私も行きたい。



 いつも朝前には帰るパパが、今日は帰ってこなかった。けれど、こういう事は珍しくない。

 その時だけは、怖い思いをしなくて済むから嬉しかった。
 特別なことは何も出来ないけど、痛くないだけで幸せだった。

 翌朝も、パパは家に居なかった。お酒の匂いも無いから、多分帰ってきてすらいない。

 お腹が鳴った。けれど、食べ物はない。あるのは花瓶と、枯れてしまった花だけだ。

「……ママ、私悪い子でごめんなさい……いっぱい謝るから許して……」

 年々消えてゆく思い出を手放さないよう、繰り返し脳内に巡らせた。



 四個上のお兄ちゃんと、私は似てなかった。お兄ちゃんは、とても強かったし優しかった。だから、よくパパに殴られているママを守っていた。

 でも私は、怖くて出来なかった。

 だから、ママは私を嫌いになったのかもしれない。お兄ちゃんだけを連れて行ったのかもしれない。
 そう考えれば考えるほど、納得出来てしまった。

 だって、こうなったのは私の所為なんだから。
 だからきっと、パパは私を殴るのだろう。駄目な子には、お仕置きをしなければならないから。

 夜になり、緊張してきた。いつもこうだ。鍵の回る音に怯え、何も手に付かなくなる。
 今日はどこを殴られるのか、どんな風に殴られるのか、それだけが巡るのだ――。



 けれど、今日もパパは帰ってこなかった。

 お腹が空いて、散らかった所から食料を探したら、何とか食べられそうな物が見つかった。
 だが、一回で食べてしまい、次の分まで確保出来なかった。

 不安が過ぎる。正直を言うと、帰ってこなかった方が嬉しい。でも、続いたら私が死んでしまう。

 家の中は、相変わらず酷い臭いだ。慣れきった鼻でも異臭と感じるほど酷い。
 ただ、今は冬だから良い方だ。これが夏になると、もっと大変なことになる。

 変な物を食べた所為で、何度死にそうになっただろう。明日は、ちゃんとした物が食べたいな。
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