100円の愛情

有箱

文字の大きさ
3 / 7

百円

しおりを挟む
 いつもの様に寝て起きる。音や気配を探ったが、何の変化も感じなかった。これほど連続して帰らないのは、はじめてかもしれない。

 空腹を感じ、机の上を見てみた。お菓子はない。だが、その代わり、珍しいものが置かれていた。
 それは、一枚の百円玉と二枚のメモだった。

 一枚目のメモには、
〝パパは何日か帰りません。だからこのお金でご飯を買って下さい〟
 と書いてある。

 人の文字を久々に見た。パパはこんな字を書くんだと関心を抱きながらも、日頃の態度と文章の差異に違和感を覚える。

 だが、この家に入れるのは私とパパ、それにママとお兄ちゃんくらいしか――。

「もしかしてママ……?」

 辺りを見回したが、当然ママはいなかった。だが、昨日誰かが入った気配はある。

 確信はない。けれど、絶対にママだと思った。



 許された時間になって、やっと家を出た。メモ通りパパが帰る気配はなく、他人が訪れる気配も無かった。

 私は、初めてコンビニと言う場所に入った。
 コンビニは煌びやかだった。美味しそうな食べ物が、たくさんあって胸が躍る。ご飯も飲み物も、何だって揃っていた。

 握り締めた左手を開く。ちゃんとメモと百円玉がある。

 確かめるよう、メモを開いた。もう一枚のメモだ。そこには、丁寧に百円の使い方が書かれていた。
 私に分かるよう、細かく書かれている。その優しさに、心が温かくなった。

 説明を元にパンを選び、緊張しながらレジに持っていく。すると、無愛想な男の店員さんが会計してくれた。細かいお金が戻ってきて、それを握り締めて帰った。

 初めて自分で買ったパンは、とても美味しかった。
 でも、明日からの為に少ししか食べなかった。



 翌朝、机を見たらまた百円があった。昨日、置きっ放しにしたお釣りの上に重ねられている。
 横には、新しいメモも残されていた。

〝100円置いていきます。これは今日分だからね〟

 どうやら、百円は一日分のお金だったらしい。パパが帰らない事をママが知って、こうして置いてくれているに違いない。

 きっと、本当は私のことが好きで、心配してくれているのだろう。
 なぜ、寝ている間に来て帰ってしまうのかは分からないけれど。

 枯れた花が目に入る。その瞬間、名案が振ってきた。



「お花ありますか」

 昨日と同じ店員さんに聞くと、彼は黙って首を横に振った。どうやら、コンビニに花はないらしい。
 だが、それで話は終わらず、店員さんは右の壁を指差した。

「隣に花屋がある」
「じゃあ、お花ってこれで買えますか」

 握っていたお金を見せると、店員さんは首を傾げる。そしてから、終わったのか顔を逸らしてしまった。

 だが、買えると分かっただけで十分だ。私は、百円と細かいお金を持って隣の店に行った。
 お腹は空いていたけれど、全然平気だった。

 しかし、花屋の扉は開かなかった。店の前も真っ暗だ。戻って店員さんに聞くと、昼しかやっていないとのことだった。


 帰ってきて、小銭を机に置く。音を立て散らばるお金と共に、溜息も溢れた。

 お昼の時間は、外出を許されていない。こっそり出て行く事も出来るが、ばれて怒られるのが怖かった。

 花を買ってプレゼントすれば、私の事を許してくれると思ったのに。こっそりじゃなく、堂々と来てくれると思ったのに。
 だけど、買いにすら行けないなんて――。

 それなら、直接会おうと徹夜を試みたが、途中で眠気に負けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...