私が死んだ日

有箱

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 花が好きだった。動物も好きだった。古い街並みも好きで、そこで笑いあう人々も好きだった。
 素朴な暮らしの中で、食べるパンが好きだった。家族の笑顔がある、狭い家も好きだった。
 
 好きだった。十三年で、全て失うとは思わなかった。

***

 私たちにとって、平和は特別なものではなかった。好きも嫌いもたくさんあってーーもう少し広い家に住みたいとか、美味しいものを食べたいとか、お洒落がしたいとかーーそんな些細な願望も多くあった。

 私たちにとって、今日と同じ明日が来るのは当然だった。決して"終わり"を知らなかったわけじゃない。けれど、疑うことを知らなかった。寧ろ『退屈を壊してほしい』なんて言っていたこともあったっけ。
 
 それは突然だった。本当に突然、全てが変わった。予兆はあったけど、予告なく突然。
 隣町に爆弾が落ちて、戦争っていうものが始まった。
 
 平凡は奪われ、恐ろしい戦いを強いられた。兵士になって、お国の為に戦いなさいと迫られた。
 一応、選択肢はあった。戦闘に行くか行かないかーーどうやって死ぬかの選択が。

 戦いにいけば、お給料がもらえて生活ができるよ。でも行かなかったら、ご飯が食べられなくなるよ。戦って死ぬか、飢えて死ぬかどっちがいい?ーーって。

 お父さんは天国にいて、お母さんも弟も病気があって。だから私には、最初から選ぶ自由はなかった。
 一緒に死んでしまおうか。そうお母さんは言ってくれたけど、私には受け入れられなかった。
 
 だから私は、今訓練所にいる。
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