可哀想なわたくしが、世界でいちばん可愛いのです!

希猫 ゆうみ

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トーシュ城となる古城の準備が整うまで王宮の客室で過ごすことになった私は、随時ヴィルヘルム殿下の声に応えながらも王都での暮らしを満喫している。

賑やかで美しい街並み。
各施設は歴史の重みを讃えつつも機能的であり、王立大学院まで足を伸ばせば巨大な王立図書館がある。

これなら古城の準備もすぐ整えられるだろうと思えた。

勿論、毎日遊興に耽っているわけではなく、毎日、妃殿下となるべく教育を受けている。礼節を重んじて生きてきた私でも、王家のしきたりや宮廷での慣習など、いざ自分がその立場で振る舞ってみると目新しい発見が多々ある。

王太子と第二王子、それぞれの妃殿下とも良好な関係を築き始められた実感があった。

新しい人生は瞬く間に私を別人に変えていく。
私は私だけれど、まるで、やっと今、自分の人生を歩み始めたような気分。

さて、そんな私はいったい何者かというと、ヴィルヘルム殿下の婚約者フレデリカ。
結婚と同時にトーシュ公爵夫人となる。

やらなければならない大事な仕事があった。
恐らくそれは、私しかできないことであり、また、私がやるべきことでもある。

宮廷の図書室と王立図書館で十日間の調査を終えた。
充分であるはずはないけれど、一つの区切りとして設けておいた期日だった。

私は今、王妃様と二人きり、庭園でお茶の時間を過ごしている。
肩を寄せ合うようにしてゆっくりと散歩などしていると、親睦を深めていると思われて、侍女や使用人たちも適切な距離を保ってくれるものだ。

「王妃様。お願いがあるのですが」
「もっと領土を広げたいのかしら?いいわよ」
「いいえ」

それは追々。

「どうしたの?女同士でないとできないお話?どのようなことでも、どうぞ、言って」
「ありがとうございます。王妃様、私は、ヴィルヘルム殿下の伴侶となる者として、諦めることができないのです」
「……」

私の真剣な様子を感じ取った王妃様は、少女のような笑顔を輝かせ腕を絡めてくる。
仲の良い女同士の楽しい内緒話を装う意図を察し、私も笑顔で肩を竦めて見せたりする。

「何を考えているのです?」

表情や仕草に反して、王妃様の声は硬い。
さすがに緊張するけれど、もう覚悟は決めていた。

「ヴィルヘルム殿下から伺いました。優秀なファルク兄妹を疑うわけではありません。専門外の私に新たな医学的発見などできないと心得ております。しかし」
「……」
「突き止めたいのです」
「……!」
「長くヴィルヘルム殿下を苦しめる、後遺症の解決方法を」

王妃様が親友同士のように絡めた腕の先で、強く私の手を握る。恐らくこれは無意識だろう。

「先代国王の姉君ともなれば、徹底的に隠蔽されたのではと私は考えました。不治の病とされてきた症状を齎す毒物や病について調べましたが、私の目が届く範囲に解決の糸口となる情報があるのであれば、既にファルクが成し遂げているはずです」
「フレデリカ……」
「隠蔽された証拠に、もう、触れることは叶わないのでしょうか?」

王妃様は近くの花壇を指し示し、私たちはしゃがみこんだ。

「ファルクは侍医の家系です」

王妃様は言った。

「侍医は王家に仕えていて、当時の私にとっては半分、敵のようなもの」
「お気持ち、お察しいたします」
「本当は、もっと、できたのではと……」
「御尤も」
「今も苦しんでいるあの子を見ると、辛くて……!」

私は王妃様の手を握り返した。

「全て隠蔽されてしまった。止められなかった。王家に嫁いだ身として、従うよりほかないと頭では理解していたけれど……」
「はい」

誰よりもヴィルヘルム殿下を愛する女性。
一人の母親が涙に震える姿に、私は、目頭が熱くなる。

少し息を整えた後、王妃様は囁いた。

「あの女の日記があります」
「!」

あった。
やはり、当時の証拠を、母親は手放さなかったのだ。

「全て狂った老婆の妄想です。私にはわからなかった。けれど、聡明なあなたなら……」
「見せてください」
「読み解くことが、できるかも……フレデリカ」
「はい」
「お願いします」

その夜、私は王妃様に食後のお茶に誘われ、婚約を祝うものだという個人的な贈り物を受け取った。
古い日記は、美しいドレスに包まれていた。

私は一日の終わりにヴィルヘルム殿下への手紙をしたため、毎晩、アマンダに託すという方法を取った。こうしてアマンダの目が離れる短い時間を解読作業に当てた。

そして───……
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