可哀想なわたくしが、世界でいちばん可愛いのです!

希猫 ゆうみ

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トーシュ公爵家初となる公の宴は、晴れた初夏の日に開かれた。

これまで、婚約、結婚、新公爵家誕生さえ内々に済ませてきたトーシュ公爵家だったけれど、これからは健康的な肉体美を誇る若き公爵閣下の威光で国内外を照らし、王国を繁栄に導く一手となるのだ。

私も自身の胸を震わせる喜びに名を付けられない。
無意識に腹部を護りながら、ヴィルヘルム殿下に守られながら、私は初めての祝宴を穏やかな興奮の中で味わっていた。

別の喜びもあった。
これが初めての再会となる弟アベルは九歳になっていた。彼は小さな父のようでもあり、少し神経質で不愛想ながら聡明で母親を深く愛していた。

「姉上」

とても九歳とは思えない貫禄で、小さな弟が私を呼ぶ。
その声が可愛くて、私の頬は緩みっぱなしだ。

「父上に言ってください。僕は芸術を実践したいのに、勉強しか許されません。理不尽です」

気が強く、威厳を放つ少年。
可愛い。

アベルの愛らしさは私と継母ドロテアの関係を一瞬で良好なものへと昇華させた。
ドロテアは目が合った瞬間から私の懐妊に気づいたことを、眼差しで伝えてきた。正式な発表の前に口に出したりしないよう、充分に配慮をしてくれている。

和やかな会話は、もう血の繋がらない母と娘という歪で頼りない関係性を騙し騙し繋ぎとめるような空虚なものではなくなり、成熟した女同士の敬意ある歓談になった。

父は私の懐妊には気づかない様子ではあるものの、トーシュ公爵家初の祝宴を素直に喜び、諸侯への挨拶に勤しんでいる。
国王陛下夫妻、王太子夫妻、ほか王族の皆様は、ヴィルヘルム殿下の健康な姿に歓喜し、大変ご機嫌なご様子で宴を楽しんでいる。

そして矍鑠としたブロムダール侯爵からの謝罪を丁寧に受け流し、同年代のダニエラに友情を築いていこうと呼び掛け、彼女の三人の息子たちとも親しく接した。
彼らは父親に似ているところを探さなければ見つけられないほど、性格もよく知的で元気で礼儀正しい。当主として返り咲いたブロムダール侯爵の教育の賜物だろう。

アベルは冷めた目でブロムダール侯爵家の令息たちを眺めていたけれど、いざ対峙するとなると謙った態度で慇懃に接した。
彼らの中で既に微妙な上下関係の探り合いが始まっているのを目の当たりにした私は、貴族の宿命に思いを馳せつつ、また無意識に腹部に手を当てた。

「そろそろです。そろそろですね?そろそろですよね!?」

アマンダが気色ばんでいる。
ヴィルヘルム殿下の寛解を祝うオペラの演目は『太陽王』だった。
陰謀により幽閉されていた王子が、悪政を敷く叔父を倒し、偉大な王となり王国を繁栄に導く英雄譚だ。

招待客には演目を伏せているけれど、アマンダは当然ながら今日起こる全ての事象を把握している。

革命軍を率いる成人した王子ダリウスを演じるのは、アマンダがこよなく愛好するバリトン歌手ヘルゲ・バッティルである。
今回の祝宴では悲痛な前半を割愛し、第一幕の締めでもある名場面から始まる。

私の予想通り、本来の力を得た王子ダリウスが甲冑を纏い大軍を率いて歌う『太陽は初めて大地を照らした』の前奏が盛大に奏でられると共に、喝采が沸いた。
その歌の意味を、この場にいる誰もが理解していたから。

ただ一人、ドロテアを除いて。
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