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母の実家であるウェズレイ伯爵家は現在、母の長兄が当主を務めている。母とは親子ほど年が違い、私は面識もない。
私にとっては伯父に当たる人だけれど、その人がとても厳しい条件を突き付けて来たために、結局、私と母は母が買った別荘に身を寄せていた。
「ごめんなさいね。お兄様は古い人だから」
つまり、傷物である姪まで引き取るのは嫌だと。
片付けてから来いと。
母の離婚が成立するまでは、私の結婚に必要な持参金は父が持つべき。それは当然、私もわかる。ただ離婚が成立した後も私が結婚していなかった場合、母は遺産の相続を減額されて、その中から更に私の持参金を捻出しなければならないらしい。
「私がいるせいでお家に帰れなくて、ごめんなさいね」
「なんとか二人でやっていきましょう。女だけの生活もきっと楽しいわよ」
考え方によっては、父が責任逃れしないようにという厳しい対策なのかもしれない。そうだとしても、正直、辛い思いをするのはいつだって私だと思う。
「諦めが肝心。一度死んだ身ですから、これくらいやり過ごせます」
母に対して強がりながら、私は自分にそう言い聞かせる。
状況はますます悪くなったように思えた。
そして悪い事は続く。
どう嗅ぎつけたのか、母の別荘なのにロバートが押しかけて来たのだ。
「僕が間違っていたんだ。お願いだ、レーラ。今も君を愛している。どうか、もう一度だけ僕を信じてほしい」
「お帰り下さい」
「君が必要なんだ!」
「勘当の件よね。勝手に露頭に迷えば?」
「レーラ!」
「煩いのよ、あなた。消えてって言ったでしょう?二度と顔を見せないで」
そんな事が何度か繰り返され、うんざりしていた。
最悪続きの日々を送っていても、グレッグからの手紙が届くと、少しだけ気持ちが軽くなる。彼は次第に私の中で大きな存在になりつつあった。
グレッグからの求婚を受けるまで、そう長い時間はかからなかった。
「私は無垢な乙女のように、心の底からあなたを信じる事は出来ないと思う。疑うわけではないけれど、私、もう夢を見られないの」
「それだけ成熟したという事さ。少し冷めた、大人なところも魅力だよ」
「割り切るのが上手ね」
正式に婚約発表するには、まだ父を通さなければならなかった。
そこで母も妥協してくれて、父とグレッグを招き、食事をする事になった。
数ヶ月ぶりに対面した父は、やつれて髪も薄くなっていた。でも私を殺すとまで言った父に対して、優しい気持ちにはなれなかった。
それはグレッグも同じ様子。
「スチュアート伯爵。そんなに持参金を積まれなくても私はレーラに求婚しましたよ。愛は買えないですからね」
「娘をお願いします」
「もちろんです」
そして二人きりになると、グレッグは私の手を握り、思いがけない事を言った。
「今夜、御父上と交渉してあなたの持参金をつり上げる」
「え?」
「私が受け取るわけじゃない。一度は受け取るが、全てあなたのものだ。苦しんだ分、あなたは自由になるべきだから」
その一言は間違いなく、希望の光になった。
実は慰謝料が全く入って来ないのだ。失った時間を補填するだけの金額を、受け取る権利が、私にはあるはずだった。
ところがワージントン伯爵は息子のロバートに『復縁しなければ勘当』と言い放ち、つまりは『復縁すれば慰謝料は帳消しになる』という魂胆でどっしりと構えているとの事。
それを知ってパトリシアの母親であるブルック伯爵夫人が、自分が全額払うと言い出したのだけれど、父が拒んだ。もしかすると両親の離婚にはこれも関係しているかもしれない。
グレッグとの結婚は、心の平安と同じくらい重要な保証が用意された、完璧なものになろうとしていた。
私にとっては伯父に当たる人だけれど、その人がとても厳しい条件を突き付けて来たために、結局、私と母は母が買った別荘に身を寄せていた。
「ごめんなさいね。お兄様は古い人だから」
つまり、傷物である姪まで引き取るのは嫌だと。
片付けてから来いと。
母の離婚が成立するまでは、私の結婚に必要な持参金は父が持つべき。それは当然、私もわかる。ただ離婚が成立した後も私が結婚していなかった場合、母は遺産の相続を減額されて、その中から更に私の持参金を捻出しなければならないらしい。
「私がいるせいでお家に帰れなくて、ごめんなさいね」
「なんとか二人でやっていきましょう。女だけの生活もきっと楽しいわよ」
考え方によっては、父が責任逃れしないようにという厳しい対策なのかもしれない。そうだとしても、正直、辛い思いをするのはいつだって私だと思う。
「諦めが肝心。一度死んだ身ですから、これくらいやり過ごせます」
母に対して強がりながら、私は自分にそう言い聞かせる。
状況はますます悪くなったように思えた。
そして悪い事は続く。
どう嗅ぎつけたのか、母の別荘なのにロバートが押しかけて来たのだ。
「僕が間違っていたんだ。お願いだ、レーラ。今も君を愛している。どうか、もう一度だけ僕を信じてほしい」
「お帰り下さい」
「君が必要なんだ!」
「勘当の件よね。勝手に露頭に迷えば?」
「レーラ!」
「煩いのよ、あなた。消えてって言ったでしょう?二度と顔を見せないで」
そんな事が何度か繰り返され、うんざりしていた。
最悪続きの日々を送っていても、グレッグからの手紙が届くと、少しだけ気持ちが軽くなる。彼は次第に私の中で大きな存在になりつつあった。
グレッグからの求婚を受けるまで、そう長い時間はかからなかった。
「私は無垢な乙女のように、心の底からあなたを信じる事は出来ないと思う。疑うわけではないけれど、私、もう夢を見られないの」
「それだけ成熟したという事さ。少し冷めた、大人なところも魅力だよ」
「割り切るのが上手ね」
正式に婚約発表するには、まだ父を通さなければならなかった。
そこで母も妥協してくれて、父とグレッグを招き、食事をする事になった。
数ヶ月ぶりに対面した父は、やつれて髪も薄くなっていた。でも私を殺すとまで言った父に対して、優しい気持ちにはなれなかった。
それはグレッグも同じ様子。
「スチュアート伯爵。そんなに持参金を積まれなくても私はレーラに求婚しましたよ。愛は買えないですからね」
「娘をお願いします」
「もちろんです」
そして二人きりになると、グレッグは私の手を握り、思いがけない事を言った。
「今夜、御父上と交渉してあなたの持参金をつり上げる」
「え?」
「私が受け取るわけじゃない。一度は受け取るが、全てあなたのものだ。苦しんだ分、あなたは自由になるべきだから」
その一言は間違いなく、希望の光になった。
実は慰謝料が全く入って来ないのだ。失った時間を補填するだけの金額を、受け取る権利が、私にはあるはずだった。
ところがワージントン伯爵は息子のロバートに『復縁しなければ勘当』と言い放ち、つまりは『復縁すれば慰謝料は帳消しになる』という魂胆でどっしりと構えているとの事。
それを知ってパトリシアの母親であるブルック伯爵夫人が、自分が全額払うと言い出したのだけれど、父が拒んだ。もしかすると両親の離婚にはこれも関係しているかもしれない。
グレッグとの結婚は、心の平安と同じくらい重要な保証が用意された、完璧なものになろうとしていた。
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