悲劇の契約結婚ではありますが、私たち愛を証明いたします。

希猫 ゆうみ

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24(テレザ)

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許し難い指輪泥棒がカルメット侯爵家に嫁いだとの報せを受け、私は悪寒に震えた。
本能的な恐怖に老いた体が蝕まれる。

私は間違っていたのではないか。
現在も間違っているのではないか。

疑念は死の訪れの如く私の四肢を強張らせ、息を浅くさせていく。

私はルブラン伯爵家を追い詰めた。
大切な夫との思い出を踏み荒らし盗もうとした無礼者をとことん苦しめるつもりだった。それが当然であると妄信していた。

ルブラン伯爵令嬢の結婚は私に理性を取り戻させた。

指輪泥棒の嫁ぎ先が侯爵家だから恐れたのではない。
カルメット侯爵家だから私の熱くなった頭が冷めたのだ。

私は若きカルメット侯爵の罪について懐疑的な考えを持っていたが、公言はしてこなかった。それは同時にノアム侯爵家への反発になってしまうのだから当然だ。しかし同じ理由で口を噤んでいる貴族は一定数存在するはずだった。

罪は存在する。
罪の傍には残り香が付きまとう。

カルメット侯爵家は昔から王族より厚い信頼を受ける名家であり、反対にノアム侯爵家には敢えて誰も口にしない悪癖の噂が付きまとっていた。

訴えられたカルメット侯爵ではなく、訴えたノアム侯爵家にこそ罪の残り香を感じる。悪癖による罪は、それが何であれ繰り返されるものだ。

形は違えど、盗みは悪癖。
ルブラン伯爵令嬢が突然あの夜だけ盗みを働くのは今思えばどこか腑に落ちない。

この年になって過ちを認めるのは勇気の要ることだった。
しかし私は、亡き夫に恥じない生き方をしてから永遠の眠りに就く必要があった。愛する夫の元へ行くために。

私は改めて、現在はカルメット侯爵夫人となったシルヴィの身辺を調査し確信を深めた。結婚前、ルブラン伯爵令嬢の周囲で盗難事件は一度も起きていない。

「……」

私の脳裏を占めるのは息子サミュエルの隣で女主然として振舞うジュリエッタの傲慢な顔。

ジュリエッタが仕組んだとしたら辻褄が合う。

ジュリエッタは人のものを欲しがる卑しい性格だ。奪い取ったという勝利で自尊心を満たす。息子の心を。私の地位を。そして今……ジュリエッタは頻繁に幼馴染を招き破談を慰めている。目に余る親密感に息子は気難しくなった。

ジュリエッタはルブラン伯爵令嬢からナヴァーラ伯爵を奪ったのだ。
指輪泥棒は冤罪だった。

「……あなた……やはりあれは……」

ルブラン伯爵令嬢が冤罪によって窮地に陥ったと一早く察知し結婚という究極の手段で救済したのは、カルメット侯爵自身の背負う罪もまた冤罪だからだろう。

若く未来ある二人を、このまま罪に沈めていいのか。
そう思いはすれども侯爵位同士の裁判に私の地位で干渉は難しく、昔のような気力もなければ遣り遂げる体力もない。

少なくともカルメット侯爵夫人シルヴィに深く謝罪を申し上げる前に、家の問題を綺麗に片付けなくては。息子の妻を正しく裁かなくては誰に対しても合わせる顔はない。

「母上」

物思いに耽っていると、息子サミュエルの切迫した声に呼ばれた。
息子は続ける。

「ジュリエッタがナヴァーラ伯爵と……」
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