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誰に対しても絶対服従しなければならない身分の私が、婚約者が子持ちになったことについての祝宴で晴れて人の父親となった婚約者の為に踊るよう命じられれば従うよりほかない。国王直々の命令でなくても、私は同じように答えただろう。
「畏まりました」
本来であれば平民以下の私は宮殿の祝宴に参加できないはずだった。
併し、踊り子として余興の為に立ち入るのであれば、今までも幾度も前例があった。
特に夜に行われる宴会ではハレムの女性が踊りで兵士たちを楽しませ、国王の許しを得た男性の夜伽も務めていたはずだ。
国王は当然、ハレムから好きな相手を選びいつでも楽しむことができる。その為のハレムなのだから。
今夜の祝宴にもハレムの女性たちは呼び出された。
祝宴の始まりに妖艶な踊りを披露してからは、国王と大臣たち、総帥と総帥の引き連れて来た上層部の軍人たちに侍り給仕をしている。その中にジェイドもいた。彼はハレムの女性を丁重に断り周囲から笑われていた。
少し、嬉しかった。
私は漆黒のローブを纏い置物のように大広間の隅で控えていた。
ヴィクターは豪勢な祝宴に内心は怖気づいているように見えた。
私でさえ、養子を迎えたくらいで国王直々に祝宴を開くなど大袈裟すぎると思っている。それでも、そう決まったのだから誰も意見は言わないだろう。
国王と総帥、それにフローラ姫とスカーレイが上座のテーブルにつき、祝宴の主役であるヴィクターを眺めている。
共に招かれた王室騎士たちも腑に落ちないながら祝宴自体は楽しもうとしている様子だった。
それにしても幼いフローラ姫に見せていいような祝宴ではない。
呼ばれるまで顔を伏せて待っているよう命じられた私ではあったが、あまりに気になり幾度もフローラ姫の方を盗み見た。
フローラ姫はスカーレイに付き添われ、静かに憤激しているスカーレイの表情を巧く真似てこの場を耐えている。
「……」
私は親の愛など知らないものの、極上の飾り物のように国王の脇に添えられたフローラ姫が可哀相に思えた。
普段の元気溌剌な姿は見る影もなく、フローラ姫の魅力の全てが削ぎ落された、飾りたてられた人形のようだ。よく耐えているフローラ姫の様子を盗み見ていると胸が苦しくなってしまう。
「……」
私は俯いた。
呼ばれるまで、粗末な置物のように待機していなければならない。
賑やかな祝宴だった。
まるで王族の誰かの誕生日か、誰かの軍功を讃えるような規模に思えた。
やがて国王が上機嫌に言った。
「人生の節目を迎えたストール卿に私から贈り物があるのだ」
「それは……至極光栄にございます!」
ヴィクターの声が少しだけ裏返っているのを聞きながら、私は胃の奥に嫌な痛みを感じつつ心を整える。
「さあ、そなたの婚約者、美しい〝罪の子〟の極上の舞踊を堪能するがいい」
「……は、はい……!」
ヴィクターが喜ぶはずはない。
そんなことはわかっているし、私も喜んでほしいとは思っていない。
ただ私は命じられたまま、人を祝うために踊るだけだ。
私は漆黒のローブを脱いだ。
「……!」
大広間が静まり返る。
私の外見が珍しいのだろう。私の存在が忌まわしいのだろう。
それでも、一応は美しい衣装で身なりを整えた。人の目を惹き付けはするだろう。
私は大広間の中央まで進み出て、呆気に取られた様子のヴィクターの前で跪いた。それから楽の音に合わせ踊った。
それは私にとって取り立てて難しいことでも、恥ずかしいことでもなかった。淡々と踊り、それを終えた。
少しだけ上がった息を整える。
小さな拍手が響き渡った。
フローラ姫が険しい表情のまま、ゆっくり、しっかりと掌を打ち合わせ私を見つめている。僅かに見つめ合い、私は跪き床に額を擦りつけた。
「ふむ。なかなか見映えのするものだった。いい前座になったな、総帥」
「はい、陛下」
国王と総帥の声にフローラ姫が手を止めた。
「畏まりました」
本来であれば平民以下の私は宮殿の祝宴に参加できないはずだった。
併し、踊り子として余興の為に立ち入るのであれば、今までも幾度も前例があった。
特に夜に行われる宴会ではハレムの女性が踊りで兵士たちを楽しませ、国王の許しを得た男性の夜伽も務めていたはずだ。
国王は当然、ハレムから好きな相手を選びいつでも楽しむことができる。その為のハレムなのだから。
今夜の祝宴にもハレムの女性たちは呼び出された。
祝宴の始まりに妖艶な踊りを披露してからは、国王と大臣たち、総帥と総帥の引き連れて来た上層部の軍人たちに侍り給仕をしている。その中にジェイドもいた。彼はハレムの女性を丁重に断り周囲から笑われていた。
少し、嬉しかった。
私は漆黒のローブを纏い置物のように大広間の隅で控えていた。
ヴィクターは豪勢な祝宴に内心は怖気づいているように見えた。
私でさえ、養子を迎えたくらいで国王直々に祝宴を開くなど大袈裟すぎると思っている。それでも、そう決まったのだから誰も意見は言わないだろう。
国王と総帥、それにフローラ姫とスカーレイが上座のテーブルにつき、祝宴の主役であるヴィクターを眺めている。
共に招かれた王室騎士たちも腑に落ちないながら祝宴自体は楽しもうとしている様子だった。
それにしても幼いフローラ姫に見せていいような祝宴ではない。
呼ばれるまで顔を伏せて待っているよう命じられた私ではあったが、あまりに気になり幾度もフローラ姫の方を盗み見た。
フローラ姫はスカーレイに付き添われ、静かに憤激しているスカーレイの表情を巧く真似てこの場を耐えている。
「……」
私は親の愛など知らないものの、極上の飾り物のように国王の脇に添えられたフローラ姫が可哀相に思えた。
普段の元気溌剌な姿は見る影もなく、フローラ姫の魅力の全てが削ぎ落された、飾りたてられた人形のようだ。よく耐えているフローラ姫の様子を盗み見ていると胸が苦しくなってしまう。
「……」
私は俯いた。
呼ばれるまで、粗末な置物のように待機していなければならない。
賑やかな祝宴だった。
まるで王族の誰かの誕生日か、誰かの軍功を讃えるような規模に思えた。
やがて国王が上機嫌に言った。
「人生の節目を迎えたストール卿に私から贈り物があるのだ」
「それは……至極光栄にございます!」
ヴィクターの声が少しだけ裏返っているのを聞きながら、私は胃の奥に嫌な痛みを感じつつ心を整える。
「さあ、そなたの婚約者、美しい〝罪の子〟の極上の舞踊を堪能するがいい」
「……は、はい……!」
ヴィクターが喜ぶはずはない。
そんなことはわかっているし、私も喜んでほしいとは思っていない。
ただ私は命じられたまま、人を祝うために踊るだけだ。
私は漆黒のローブを脱いだ。
「……!」
大広間が静まり返る。
私の外見が珍しいのだろう。私の存在が忌まわしいのだろう。
それでも、一応は美しい衣装で身なりを整えた。人の目を惹き付けはするだろう。
私は大広間の中央まで進み出て、呆気に取られた様子のヴィクターの前で跪いた。それから楽の音に合わせ踊った。
それは私にとって取り立てて難しいことでも、恥ずかしいことでもなかった。淡々と踊り、それを終えた。
少しだけ上がった息を整える。
小さな拍手が響き渡った。
フローラ姫が険しい表情のまま、ゆっくり、しっかりと掌を打ち合わせ私を見つめている。僅かに見つめ合い、私は跪き床に額を擦りつけた。
「ふむ。なかなか見映えのするものだった。いい前座になったな、総帥」
「はい、陛下」
国王と総帥の声にフローラ姫が手を止めた。
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