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私の養父となったカイン・ガルムステットはアスガルド王国の国王を殺害し、王室騎士や衛兵たちを殺し、宮殿を占拠し、アスガルド王国滅亡と共に協和国家エクリプティカの建国を宣言した。
「我々は今日、夜明けを迎えた。神と王による支配は終わり、民の為の共和制が始まる。我々は臨時革命政府を設立し、この国の発展と繁栄に尽力する」
私がその宣言を隠れて聞いていたのは新たな国の誕生を見届けたいからではなかった。
宮殿内の遺体の処理の後、総帥は新国家の準備に取り掛かり、エクブロム大尉は負傷者の看護に忙しかった。
「我々の指導者は王ではなく元首と呼ばれる。元首は如何なる神にも属さず民の暮らしと国の繁栄にのみ尽くす。元首は半年から一年毎に議会より選出されるものとする。そして最初の元首には私が就任する」
スカーレイの葬儀がずっと後回しにされている。もう五日も経ってしまった。
「私はこの国の民の為に命を捧げると誓う」
演説の直後、私は養女の立場を利用して総帥に近寄り腕を掴んだ。
「お父様」
「どうした」
総帥──これからは元首と呼べばいいのか、養父は意外な程に優しい表情を私に向けた。
「スカーレイ様の葬儀をさせてください」
「ああ、そうだった」
まさか、忘れていたのだろうか。
私は愕然として、それから怒りが沸いた。
「エクブロムはどうしている?」
「怪我人を看ています」
「そうか」
私の背中に手を当てて促した元首に向かい、一人の軍人が声をかける。
「総帥。ハレムの女たちが売春を始めました。えらい値段をふっかけるだけに留まらず、気に入った家を占拠する者も現れました」
「娘の前でやめてくれ。それに、私はもう総帥ではない」
養父という側面だけを見れば、この男は善人らしい素振りを見せることも多い。
「私はハレムの下働きでした。平気です」
私が部下の伝達に口を挟むと、養父は小さく頷き取り締まりを命じた。
「後は任せる。今は、娘の恩師を丁重に葬らなければならない」
やはり、話しの通じない相手ではなかった。
エクブロム大尉の遺体処理技術が優れているのだと解釈するしかないここ数日だったが、ついにこの時がきた。
養父と、元首である養父の脇を固める元軍人たちと共に、かつての国軍本部へと向かう。
建物内に入ると私は言い知れぬ恐怖に襲われた。
スカーレイは死んでしまった。
亡骸となったスカーレイが現実となって私の前に現れる。それが恐い。
「……」
嘘であってほしい。
今になっても尚、その無意味な願望が際限なくわいてくる。
併し、スカーレイの死は現実なのだ。
エクブロム大尉と合流する。
そして遺体安置所の扉が開かれた。
「──」
世界から一瞬、音が消える。
薬品の臭いが充満する暗い小部屋の中、その台の上には、ただ、布だけが残されていた。
「これは……!?」
エクブロム大尉が驚愕する声に私は醒めた。
「嘘吐き!!」
養父を、二つの国を滅ぼした男を、私は力いっぱい突き飛ばした。
僅かに身を揺らがせると養父はエクブロム大尉を追及したが、その内容はまるで耳に入ってこない。意味を成さない自分の泣き叫ぶ声に支配され、口でも心でもスカーレイの名前だけが言葉になる。
「レイクシアの残党め」
「わかりません。教団側の報復かもしれません」
かろうじて聴き取った二人の会話はその後、唐突に途切れる。
錯乱した私にエクブロム大尉が薬を嗅がせ、虚無という仮初の安寧を押し付けたのだった。
目覚めた時、枕元にはジェイドがいてくれた。
「スカーレイ様は生きているの……?」
「いえ。残念ですが、遺体が盗まれたんです。総帥が調査隊を組織しました」
「あの人は元首……」
朦朧とする意識の中で私はジェイドの手を握り、無意味な訂正までして意識をつなぎとめた。
それから耐えきれずに泣き出し、泣きながら次第に頭がはっきりしてくると重大な事実に気づいた。
冬が目前に迫っている。
寒い。
間もなく、雪が降る。
「ジェイド……お願い、姫様を迎えに行ってさしあげて」
八才の子ども二人、とても極寒の冬は耐え抜けない。
これ以上、喪えない。
「お願い……」
私は、スカーレイ様を見つけなくては。
「我々は今日、夜明けを迎えた。神と王による支配は終わり、民の為の共和制が始まる。我々は臨時革命政府を設立し、この国の発展と繁栄に尽力する」
私がその宣言を隠れて聞いていたのは新たな国の誕生を見届けたいからではなかった。
宮殿内の遺体の処理の後、総帥は新国家の準備に取り掛かり、エクブロム大尉は負傷者の看護に忙しかった。
「我々の指導者は王ではなく元首と呼ばれる。元首は如何なる神にも属さず民の暮らしと国の繁栄にのみ尽くす。元首は半年から一年毎に議会より選出されるものとする。そして最初の元首には私が就任する」
スカーレイの葬儀がずっと後回しにされている。もう五日も経ってしまった。
「私はこの国の民の為に命を捧げると誓う」
演説の直後、私は養女の立場を利用して総帥に近寄り腕を掴んだ。
「お父様」
「どうした」
総帥──これからは元首と呼べばいいのか、養父は意外な程に優しい表情を私に向けた。
「スカーレイ様の葬儀をさせてください」
「ああ、そうだった」
まさか、忘れていたのだろうか。
私は愕然として、それから怒りが沸いた。
「エクブロムはどうしている?」
「怪我人を看ています」
「そうか」
私の背中に手を当てて促した元首に向かい、一人の軍人が声をかける。
「総帥。ハレムの女たちが売春を始めました。えらい値段をふっかけるだけに留まらず、気に入った家を占拠する者も現れました」
「娘の前でやめてくれ。それに、私はもう総帥ではない」
養父という側面だけを見れば、この男は善人らしい素振りを見せることも多い。
「私はハレムの下働きでした。平気です」
私が部下の伝達に口を挟むと、養父は小さく頷き取り締まりを命じた。
「後は任せる。今は、娘の恩師を丁重に葬らなければならない」
やはり、話しの通じない相手ではなかった。
エクブロム大尉の遺体処理技術が優れているのだと解釈するしかないここ数日だったが、ついにこの時がきた。
養父と、元首である養父の脇を固める元軍人たちと共に、かつての国軍本部へと向かう。
建物内に入ると私は言い知れぬ恐怖に襲われた。
スカーレイは死んでしまった。
亡骸となったスカーレイが現実となって私の前に現れる。それが恐い。
「……」
嘘であってほしい。
今になっても尚、その無意味な願望が際限なくわいてくる。
併し、スカーレイの死は現実なのだ。
エクブロム大尉と合流する。
そして遺体安置所の扉が開かれた。
「──」
世界から一瞬、音が消える。
薬品の臭いが充満する暗い小部屋の中、その台の上には、ただ、布だけが残されていた。
「これは……!?」
エクブロム大尉が驚愕する声に私は醒めた。
「嘘吐き!!」
養父を、二つの国を滅ぼした男を、私は力いっぱい突き飛ばした。
僅かに身を揺らがせると養父はエクブロム大尉を追及したが、その内容はまるで耳に入ってこない。意味を成さない自分の泣き叫ぶ声に支配され、口でも心でもスカーレイの名前だけが言葉になる。
「レイクシアの残党め」
「わかりません。教団側の報復かもしれません」
かろうじて聴き取った二人の会話はその後、唐突に途切れる。
錯乱した私にエクブロム大尉が薬を嗅がせ、虚無という仮初の安寧を押し付けたのだった。
目覚めた時、枕元にはジェイドがいてくれた。
「スカーレイ様は生きているの……?」
「いえ。残念ですが、遺体が盗まれたんです。総帥が調査隊を組織しました」
「あの人は元首……」
朦朧とする意識の中で私はジェイドの手を握り、無意味な訂正までして意識をつなぎとめた。
それから耐えきれずに泣き出し、泣きながら次第に頭がはっきりしてくると重大な事実に気づいた。
冬が目前に迫っている。
寒い。
間もなく、雪が降る。
「ジェイド……お願い、姫様を迎えに行ってさしあげて」
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これ以上、喪えない。
「お願い……」
私は、スカーレイ様を見つけなくては。
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