その悲劇、大嘘ですよね?元婚約者の私に慰めてもらえるとでも?

希猫 ゆうみ

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8(サヘル)

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なんと美しい……!

レロヴァス王国の民特有の透き通るような白い肌は、今まで目にした誰よりも瑞々しく、絹糸のような長い髪は陽光も影も受け止め光の粉を撒くように輝いている。

そして優しそうなあの表情。

聡明で落ち着きを兼ね備えた美しいシンシアは、まるで月の女神テミヴラのレロヴァス王国版だ。
彼女を見ているとうっとりしてしまい、溜息が洩れる。

「?」

手引書に見入りぴたりと動きを止めたシンシアに、私の中で武神モダプネが叫んだ。

──今だ!お助けしろぅ!!

「……」

いや待て。
着任初日にあれこれと口を出すのは侮辱的だ。私は己の願望が武神モダプネを騙っただけだと自らを戒め、拳を握り耐えた。

助けを求められたら、やや遠慮がちに、そっと、お助けしよう。

「……」

遠慮がちのつもりで素っ気ないと思われてはたまらない。

にこやかに?
溌溂と?

「……」

駄目だ。
余計な気を起こしては妹に殺される。

妹の侍女がシンシアという名であることは伝えられていた。
妹はシンシアの為に日夜祈り、対面の日を楽しみにしていた。

さて。

ファロン王子に惚れ込み、クラリス王女に懐き、リダウト伯爵を揶揄って遊んでいた活発な妹が、この嫋やかな侍女シンシアをどうしてしまうというのだろうか。

クラリス王女から、姉君イヴォーン王女と妹は気が合うだろうと言われていた。
イヴォーン王女の侍女メイヴィスは信頼のおける人物であり、その娘シンシアも働きを期待できると推薦された時、これほどまでに美しい女性とは想像が及ばなかった。

妹は幸せ者だ。
俺も幸せ者だ。

万物の創造主トレ神に感謝……!
栄えあれ……!!

「!」

待て待て。
レロヴァス王国の信仰も尊重しなければならない。

現に今、目の前で美しいシンシアがセベトシュを行ってくれている。

「……」

美しい。
レロヴァス王国の崇める神の名を知らないが、感謝する。

それにしてもシンシアの聡明さは目を瞠るものがあった。溜息をついたあと息を吸うのも忘れるくらい、実に正確に理解している。驚かされずにはいられない。

古語を判読できるようになるまで、どれだけの歳月を費やしたのか。
まず、彼女の功績を讃えるところから会話を始めよう。

妹は俺が抜け駆けしたと悔しがるだろう。

「……」

悔しがるがいい。
シンシアを独り占めにできると思ったら大間違いだ。

聡明で美しいシンシア……
清らかな星の香りが光の粉を漂わせながらそよ風に乗ってたゆたうようだ……

「?」

手引書を覗き込み、辞書と思しき書物を取り出して交互に見比べている。

「……」

助けが必要だろうか?

「……」
「……」

あ、不要らしい。
俺も役に立ちたい。

あと45日。
妹の怒りを買わない程度に、シンシアと親睦を深めたいものだ。
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