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イゥツェル神教国の宗教観に則った結婚式の直後、レロヴァス王国のしきたりに則り王都の大聖堂で結婚式が執り行われた。
第五王子ファロン殿下とレミア姫の結婚は、二種類の式を一つの結婚として数えられることになる。
式の後、一旦私室に戻り着替えを行った。
「ファローン!」
ベールを脱いだレミア姫は猛然と走り出した。
それまで45日に渡り着替えや入浴でも素顔を見てきたけれど、異国の可愛らしいお姫様といった顔立ちでありながら神聖で神々しく畏怖の念を抱いていた。
併し、見た目通りの可愛い声で夫婦になったばかりのファロン王子を呼び駆けていく姿は天真爛漫そのもの。可愛らしくてつい口元が緩んだ。
「スィンサ」
「!?」
低い声に驚いて身を翻す。
祭礼の衣装のままサヘル王子が近くに佇み、微笑んでいた。
「スンシア」
「……」
ああ、私の名前を呼んでいるのか。
私はイゥツェル神教国からの参列者が王族に対してしていた独特の御辞儀を真似て頭を下げた。
「〝ご結婚おめでとうございます〟」
イゥツェル神教国の言葉でお祝いを述べる。
「……」
反応がなく姿勢を正すと、サヘル王子はきょとんと眼を丸くして私を見つめていた。
「……」
間違えただろうか。
間違えていたとしても、失礼に当たらない単語だといいけれど……
「はっ」
急に我に返ったように震えてからサヘル王子が溌溂とした笑顔になる。
「ありがとう!いもうとっ、よろしく!たのむ!」
此方の言葉で対応してくれた。
走っていったレミア姫とは兄妹だとよくわかる、溌溂とした似た雰囲気。怜悧な印象を抱いていた相手が明るく友好的な人物であったことも純粋に嬉しい事実だ。
「スィンサ!そなた!すばらしい!」
「え?」
「すばらしいはたらき!よめる。はなせる。ならべる!」
「ありがとうございます。お褒めに与り光栄です」
「おおう!」
サヘル王子が小ぶりに天を仰ぐような素振りで機嫌よくしているのを見ていると、何故か元気が沸いた。
私は口元に手を当てた。どうも笑いが堪えられなかった。
失礼に当たるかもしれなかったけれどサヘル王子も喜んで笑い声を重ねてくれたので、これは親睦が深まっているのだと理解していいだろう。
「広間に参りましょうか?」
此方の言葉で話してくれたので、厚意を尊重し私も自国の言葉で尋ねる。
「ん!?」
笑顔のまま聞き返されてしまった。
「〝広間に参りましょう。宴が始まります〟」
「おおう!う・た・げぃ!いわいごとぅ」
「はい、宴です。お祝いですね」
私は自国の言葉で呟きながら何度も頷いた。
「はあッ!」
喜びに満ちた気合いの掛け声にまた笑いが洩れてしまい、口元を隠しながら歩き出す。
サヘル王子は私の右側に回り込むと並んで歩き始める。歩幅を合わせてくれていた。
一応イゥツェル神教国の生活習慣について書かれた書物を予め読んでおいたけれど、相手の左右どちらに立つかというのは意味があるのかもしれない。
何についても配置が重要な文化だ。覚えておこう。
レミア姫もあの様子ならイヴォーン王女と母のような関係になれるかもしれないと思い、嬉しくなる。
併し女主に頼るようでは情けないような気もして、基本的には護衛として傍にいてくれるサヘル王子に相談できないだろうかと狡い考えが浮かんだ。
「スィンサ」
「はい」
「ふめいてん、なんでもきけ。ちからになる。たよれ、うれしい」
私の心を読んだのかと驚くようなタイミングでの嬉しい申し出だった。
笑顔で自身の胸元を叩いている。私が返事をするまで止みそうにない。
「〝ありがとうございます。そう仰っていただけますと心強いです。よろしくお願いいたします〟」
「……」
サヘル王子がまたきょとんとした。
「?」
やはり私は何か致命的な間違いを犯しているのだろうか。
単語?
文法?
「はあッ!」
「!」
素晴らしい声量に体が驚き、私は無意識ながら小さく跳ねた。
「ははっ。おまかせ、おまかせぇい」
「……ふふふ」
笑顔で元気よく応対してくれるのだから、恐らく深刻な問題ではないのだろう。此処で私が思い悩んでも意味がない。
私たちは笑顔を交わし広間へと急いだ。
第五王子ファロン殿下とレミア姫の結婚は、二種類の式を一つの結婚として数えられることになる。
式の後、一旦私室に戻り着替えを行った。
「ファローン!」
ベールを脱いだレミア姫は猛然と走り出した。
それまで45日に渡り着替えや入浴でも素顔を見てきたけれど、異国の可愛らしいお姫様といった顔立ちでありながら神聖で神々しく畏怖の念を抱いていた。
併し、見た目通りの可愛い声で夫婦になったばかりのファロン王子を呼び駆けていく姿は天真爛漫そのもの。可愛らしくてつい口元が緩んだ。
「スィンサ」
「!?」
低い声に驚いて身を翻す。
祭礼の衣装のままサヘル王子が近くに佇み、微笑んでいた。
「スンシア」
「……」
ああ、私の名前を呼んでいるのか。
私はイゥツェル神教国からの参列者が王族に対してしていた独特の御辞儀を真似て頭を下げた。
「〝ご結婚おめでとうございます〟」
イゥツェル神教国の言葉でお祝いを述べる。
「……」
反応がなく姿勢を正すと、サヘル王子はきょとんと眼を丸くして私を見つめていた。
「……」
間違えただろうか。
間違えていたとしても、失礼に当たらない単語だといいけれど……
「はっ」
急に我に返ったように震えてからサヘル王子が溌溂とした笑顔になる。
「ありがとう!いもうとっ、よろしく!たのむ!」
此方の言葉で対応してくれた。
走っていったレミア姫とは兄妹だとよくわかる、溌溂とした似た雰囲気。怜悧な印象を抱いていた相手が明るく友好的な人物であったことも純粋に嬉しい事実だ。
「スィンサ!そなた!すばらしい!」
「え?」
「すばらしいはたらき!よめる。はなせる。ならべる!」
「ありがとうございます。お褒めに与り光栄です」
「おおう!」
サヘル王子が小ぶりに天を仰ぐような素振りで機嫌よくしているのを見ていると、何故か元気が沸いた。
私は口元に手を当てた。どうも笑いが堪えられなかった。
失礼に当たるかもしれなかったけれどサヘル王子も喜んで笑い声を重ねてくれたので、これは親睦が深まっているのだと理解していいだろう。
「広間に参りましょうか?」
此方の言葉で話してくれたので、厚意を尊重し私も自国の言葉で尋ねる。
「ん!?」
笑顔のまま聞き返されてしまった。
「〝広間に参りましょう。宴が始まります〟」
「おおう!う・た・げぃ!いわいごとぅ」
「はい、宴です。お祝いですね」
私は自国の言葉で呟きながら何度も頷いた。
「はあッ!」
喜びに満ちた気合いの掛け声にまた笑いが洩れてしまい、口元を隠しながら歩き出す。
サヘル王子は私の右側に回り込むと並んで歩き始める。歩幅を合わせてくれていた。
一応イゥツェル神教国の生活習慣について書かれた書物を予め読んでおいたけれど、相手の左右どちらに立つかというのは意味があるのかもしれない。
何についても配置が重要な文化だ。覚えておこう。
レミア姫もあの様子ならイヴォーン王女と母のような関係になれるかもしれないと思い、嬉しくなる。
併し女主に頼るようでは情けないような気もして、基本的には護衛として傍にいてくれるサヘル王子に相談できないだろうかと狡い考えが浮かんだ。
「スィンサ」
「はい」
「ふめいてん、なんでもきけ。ちからになる。たよれ、うれしい」
私の心を読んだのかと驚くようなタイミングでの嬉しい申し出だった。
笑顔で自身の胸元を叩いている。私が返事をするまで止みそうにない。
「〝ありがとうございます。そう仰っていただけますと心強いです。よろしくお願いいたします〟」
「……」
サヘル王子がまたきょとんとした。
「?」
やはり私は何か致命的な間違いを犯しているのだろうか。
単語?
文法?
「はあッ!」
「!」
素晴らしい声量に体が驚き、私は無意識ながら小さく跳ねた。
「ははっ。おまかせ、おまかせぇい」
「……ふふふ」
笑顔で元気よく応対してくれるのだから、恐らく深刻な問題ではないのだろう。此処で私が思い悩んでも意味がない。
私たちは笑顔を交わし広間へと急いだ。
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