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24(サヘル)
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疲労が祟り臥せったシンシアの傍らに椅子を置き、汗ばむ顔を扇ぐこと数分。
次第に規則正しい寝息が聞こえ始め俺も安堵し一息ついた。
産まれて来たのは王子だった。
祭祀を司る姫が産まれるより事態は単純になった。
通例では七才、早ければ五才から巫女となる姫の場合、猶予は五年弱。だが王子となれば、修行の始まる七才までに両国の王位継承権についてのみ結論を出せばいい。
イゥツェル神教国のしきたりを尊重してくれるレロヴァス王国の懐の深さには度々感服する。
此方では王侯貴族の赤子に乳母をつけるようだが、俺たちの感覚では神聖な神の魂を受け継ぐ赤子に母親意外の乳は与えられない。病や死によって母親の乳を与えられない等の止むを得ない事情がある場合は、母親となる女の実子であるべき命を代わりに産んだものとして送り出す習わしだ。
初産ながら妹は安産であり、頗る健康だ。王子を無事に育て上げることだろう。
妹は本当に元気である。
兄である俺が恐れる程度には頑丈すぎるところがある。
そういう意味でも俺はファロン王子を尊敬して止まない。
「さへゆしゃま……」
「!」
シンシアが寝言を洩らした。
そのまま、静かにふふっと笑う。
胸の奥がじわりと温まり思わず微笑んでしまう。
俺はシンシアの髪を指先で軽く撫で、暫くその愛しい寝顔を眺めていた。
あの晩、華麗な覚醒によって完璧にイゥツェル神教国の言葉を話せてしまえるようになったシンシア。
だが併し、その正しい発音で会話しようとする意識が妹の初産に向けての怒涛の忙しさの中でも維持されてしまい、余計に心労が祟ってしまったのだろう。
忠義に厚いシンシアに会話くらい手を抜けなどと言ってしまえばそれは侮辱になる。
傍で気を付けていたつもりだが、このように疲れ果て眠りこけてしまったシンシアを見ていると、本当につもりだったかもしれないと反省せずにはいられない。
だが、併し。
併しである。
「さへゆしゃま……チュ……」
「んんん」
可愛さに悶え苦しむ幸せな俺がここにいる。
さっきまでシンシアを扇いでいた扇で俺自身を扇ぎ、如何ともし難い感情を抑える為にもう片方の手で目を覆い天井を仰いだ。
「しょこは……ちゅべいまチュ……さへゆしゃま……」
夢の中で迄、俺の心配をしているのか。
「かちゅやくぼぉーち……ぱゆん……」
「はあっ!」
俺は耐えられなくなり、つい大声を上げた。
疲労困憊のシンシアはそれでも気持ちよさそうに眠り続け、時に可愛い寝言で俺を攻撃し、そして常に勝利した。
眠れぬ夜を過ごした俺は早朝引き裂かれる思いでシンシアの寝所を辞したが、此方に向かって歩いてくるやや不機嫌そうな妹に出くわし驚愕した。
「兄者」
「は、はい!?起きて平気なのですか……!?」
「否、眠い」
俺は言葉を失った。
眠いとかどうこう言っている場合ではないように思われるが。昨晩、産んだばかりである。緊急事態に近い。
「では安静に……」
「否、シンシアが倒れたと聞いて、心配で寝ておれん。兄者、貴様、シンシアの部屋の方から歩いて来ているではないか。シンシアに何をした。事の次第によっては兄者、今日で今世に別れを告げてもらわねばならぬぞ」
いつにも増して妹が恐ろしい。
俺は自分でも何を言ったか思い出せないくらい気が動転しながら妹を説き伏せ、なんとか床に就かせた。男の俺にも今の妹は絶対安静であるべきだと確信していた。
併し侍医が仰天するほど早く妹は回復した。
お産から三日後、妹は一人でセベトシュを行いシンシアの健康を祈願してから、王子の名を決める為占い始めた。
産まれたての王子の面倒を見ながら侍医が俺に妹の健康について宗教的な問いかけをしてきたので、一先ず豊穣の女神マールェンについて神話を語った。
「ほぅ。まぁゆぇん」
侍医が舌足らずでも可愛くはなかった。
次第に規則正しい寝息が聞こえ始め俺も安堵し一息ついた。
産まれて来たのは王子だった。
祭祀を司る姫が産まれるより事態は単純になった。
通例では七才、早ければ五才から巫女となる姫の場合、猶予は五年弱。だが王子となれば、修行の始まる七才までに両国の王位継承権についてのみ結論を出せばいい。
イゥツェル神教国のしきたりを尊重してくれるレロヴァス王国の懐の深さには度々感服する。
此方では王侯貴族の赤子に乳母をつけるようだが、俺たちの感覚では神聖な神の魂を受け継ぐ赤子に母親意外の乳は与えられない。病や死によって母親の乳を与えられない等の止むを得ない事情がある場合は、母親となる女の実子であるべき命を代わりに産んだものとして送り出す習わしだ。
初産ながら妹は安産であり、頗る健康だ。王子を無事に育て上げることだろう。
妹は本当に元気である。
兄である俺が恐れる程度には頑丈すぎるところがある。
そういう意味でも俺はファロン王子を尊敬して止まない。
「さへゆしゃま……」
「!」
シンシアが寝言を洩らした。
そのまま、静かにふふっと笑う。
胸の奥がじわりと温まり思わず微笑んでしまう。
俺はシンシアの髪を指先で軽く撫で、暫くその愛しい寝顔を眺めていた。
あの晩、華麗な覚醒によって完璧にイゥツェル神教国の言葉を話せてしまえるようになったシンシア。
だが併し、その正しい発音で会話しようとする意識が妹の初産に向けての怒涛の忙しさの中でも維持されてしまい、余計に心労が祟ってしまったのだろう。
忠義に厚いシンシアに会話くらい手を抜けなどと言ってしまえばそれは侮辱になる。
傍で気を付けていたつもりだが、このように疲れ果て眠りこけてしまったシンシアを見ていると、本当につもりだったかもしれないと反省せずにはいられない。
だが、併し。
併しである。
「さへゆしゃま……チュ……」
「んんん」
可愛さに悶え苦しむ幸せな俺がここにいる。
さっきまでシンシアを扇いでいた扇で俺自身を扇ぎ、如何ともし難い感情を抑える為にもう片方の手で目を覆い天井を仰いだ。
「しょこは……ちゅべいまチュ……さへゆしゃま……」
夢の中で迄、俺の心配をしているのか。
「かちゅやくぼぉーち……ぱゆん……」
「はあっ!」
俺は耐えられなくなり、つい大声を上げた。
疲労困憊のシンシアはそれでも気持ちよさそうに眠り続け、時に可愛い寝言で俺を攻撃し、そして常に勝利した。
眠れぬ夜を過ごした俺は早朝引き裂かれる思いでシンシアの寝所を辞したが、此方に向かって歩いてくるやや不機嫌そうな妹に出くわし驚愕した。
「兄者」
「は、はい!?起きて平気なのですか……!?」
「否、眠い」
俺は言葉を失った。
眠いとかどうこう言っている場合ではないように思われるが。昨晩、産んだばかりである。緊急事態に近い。
「では安静に……」
「否、シンシアが倒れたと聞いて、心配で寝ておれん。兄者、貴様、シンシアの部屋の方から歩いて来ているではないか。シンシアに何をした。事の次第によっては兄者、今日で今世に別れを告げてもらわねばならぬぞ」
いつにも増して妹が恐ろしい。
俺は自分でも何を言ったか思い出せないくらい気が動転しながら妹を説き伏せ、なんとか床に就かせた。男の俺にも今の妹は絶対安静であるべきだと確信していた。
併し侍医が仰天するほど早く妹は回復した。
お産から三日後、妹は一人でセベトシュを行いシンシアの健康を祈願してから、王子の名を決める為占い始めた。
産まれたての王子の面倒を見ながら侍医が俺に妹の健康について宗教的な問いかけをしてきたので、一先ず豊穣の女神マールェンについて神話を語った。
「ほぅ。まぁゆぇん」
侍医が舌足らずでも可愛くはなかった。
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