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墓地での貴重な時間を過ごしてから私はできる限りレジナルドと行動を共にするよう心掛けた。
現在、互いへの理解と敬意とある種の友情で維持している私たちの関係に取り立てて問題はない。
しかし私が健康体で跡継ぎを産む為の時間は限られており、春が来る度に別荘へ避難することを鑑みると、夫レジナルドとより親密な関係になるのは早いに越したことはないという結論を得たからそうしている。
「ん?どうした」
「あなたの傍で過ごそうと思って」
「ふん。寂しいわけでもあるまいに」
「あなたに生理的嫌悪は無いけれど性的興奮も今のところないのよ」
「何を藪から棒に」
「近くにいた方が親密度が上がって早めに興奮できるかもしれないでしょう」
「いつまでも若くはないからな」
「ええ、そう。だから私が傍にいても気にしないで日頃の作業を続けて」
「邪魔な時は率直にそう言おう」
「ええ。その時は迅速に退避する」
「了解した」
こういうことをし始めてからだろう。
まるで幼い子ども同士の小さな恋を見守る心優しい大人たちのような微笑みが四方八方から向けられるようになってしまったのは。
それはバラクロフ城内に留まらず、人目に触れればいつもだった。
何しろ私たちは先祖の悲恋という前提を背負っての歴史的結婚をした夫婦なのだ。
だが他人の余興に成り下がろうと関係ない。
寧ろ空想の夢物語を下敷きに他人を眺めて幸福感を得られるという人々がいるとは、実に平和な世界ではないだろうか。
そういうわけで仲睦まじい夫婦として扱われるようになった私たちバラクロフ侯爵夫妻は、バラクロフ侯爵夫妻として初めて聖夜の大舞踏会に招かれ王都へと赴いた。
「親戚が集うわね」
有象無象の老いたる乙女たちの餌食にならないよう、二人の王子が特別な通路と居室を整えてくれているという。
「破格の扱いだな」
「御祖父様の頃は引き裂かれたのだから、バラクロフ侯爵も出世したわね」
「それは嫌味か」
「あら、そう聞こえた?」
「否。冗談だ」
「もう少し面白いのを言ってみて」
こういうことを話していると侍女のジェマが喜ぶ。
ジェマの笑顔を見ると私も気分が晴れる為、彼女を喜ばせる為に敢えて夫レジナルドを揶揄って遊ぶ技も覚えた。
それはさて置き。
宮殿までの旅は普通で、つまり普通とは特別な問題がなく快適で楽しかったという意味なのだが、いざ宮殿に着くと私の中に細々と流れる血が反応したのか荘厳な高揚感が沸き上がった。
「ん?顔つきが変わったぞ。まさかついにデスティニー妃殿下を亡き者に」
「冗談でもやめて。悲恋再び待ったなしよ」
「はは」
「笑い事じゃないから」
そんな物騒なナカムツマジイ会話をしていると、王太子エヴァレット殿下が意気揚々と現れた。
「やあ、ようこそバラクロフ侯爵夫妻。こちらへ」
なるほど、破格の扱いである。
そしてほぼ他人にしか思えない遠くの親戚、曾祖母の長兄の玄孫であるエヴァレット殿下が、高貴な笑顔を貼り付けたまま有無を言わせぬ勢いで私たち夫婦を特別に用意された居室へと案内してくれる。
そこでついに、私は対峙した。
「妻を紹介しよう」
王太子妃殿下グレイス。
私たち夫婦の居室を整え待っていたという美しい妃殿下が、嫋やかに振り向いた。
「やっとお会いできましたね。バラクロフ侯爵夫人──フェルネ」
「……」
いずれこの国の王妃となるグレイス妃殿下。
艶めく黒髪を真珠で飾り、嫣然と微笑む妖艶な美女。
我が親戚の王太子殿下はこういう趣味だったのかと実に興味深い気持ちにさせられることこの上ない。
「どうぞ仲良くしてください」
グレイス妃殿下が眩しい程の笑みを浮かべ、煌めく濃いエメラルドの瞳で私を見据えた。
現在、互いへの理解と敬意とある種の友情で維持している私たちの関係に取り立てて問題はない。
しかし私が健康体で跡継ぎを産む為の時間は限られており、春が来る度に別荘へ避難することを鑑みると、夫レジナルドとより親密な関係になるのは早いに越したことはないという結論を得たからそうしている。
「ん?どうした」
「あなたの傍で過ごそうと思って」
「ふん。寂しいわけでもあるまいに」
「あなたに生理的嫌悪は無いけれど性的興奮も今のところないのよ」
「何を藪から棒に」
「近くにいた方が親密度が上がって早めに興奮できるかもしれないでしょう」
「いつまでも若くはないからな」
「ええ、そう。だから私が傍にいても気にしないで日頃の作業を続けて」
「邪魔な時は率直にそう言おう」
「ええ。その時は迅速に退避する」
「了解した」
こういうことをし始めてからだろう。
まるで幼い子ども同士の小さな恋を見守る心優しい大人たちのような微笑みが四方八方から向けられるようになってしまったのは。
それはバラクロフ城内に留まらず、人目に触れればいつもだった。
何しろ私たちは先祖の悲恋という前提を背負っての歴史的結婚をした夫婦なのだ。
だが他人の余興に成り下がろうと関係ない。
寧ろ空想の夢物語を下敷きに他人を眺めて幸福感を得られるという人々がいるとは、実に平和な世界ではないだろうか。
そういうわけで仲睦まじい夫婦として扱われるようになった私たちバラクロフ侯爵夫妻は、バラクロフ侯爵夫妻として初めて聖夜の大舞踏会に招かれ王都へと赴いた。
「親戚が集うわね」
有象無象の老いたる乙女たちの餌食にならないよう、二人の王子が特別な通路と居室を整えてくれているという。
「破格の扱いだな」
「御祖父様の頃は引き裂かれたのだから、バラクロフ侯爵も出世したわね」
「それは嫌味か」
「あら、そう聞こえた?」
「否。冗談だ」
「もう少し面白いのを言ってみて」
こういうことを話していると侍女のジェマが喜ぶ。
ジェマの笑顔を見ると私も気分が晴れる為、彼女を喜ばせる為に敢えて夫レジナルドを揶揄って遊ぶ技も覚えた。
それはさて置き。
宮殿までの旅は普通で、つまり普通とは特別な問題がなく快適で楽しかったという意味なのだが、いざ宮殿に着くと私の中に細々と流れる血が反応したのか荘厳な高揚感が沸き上がった。
「ん?顔つきが変わったぞ。まさかついにデスティニー妃殿下を亡き者に」
「冗談でもやめて。悲恋再び待ったなしよ」
「はは」
「笑い事じゃないから」
そんな物騒なナカムツマジイ会話をしていると、王太子エヴァレット殿下が意気揚々と現れた。
「やあ、ようこそバラクロフ侯爵夫妻。こちらへ」
なるほど、破格の扱いである。
そしてほぼ他人にしか思えない遠くの親戚、曾祖母の長兄の玄孫であるエヴァレット殿下が、高貴な笑顔を貼り付けたまま有無を言わせぬ勢いで私たち夫婦を特別に用意された居室へと案内してくれる。
そこでついに、私は対峙した。
「妻を紹介しよう」
王太子妃殿下グレイス。
私たち夫婦の居室を整え待っていたという美しい妃殿下が、嫋やかに振り向いた。
「やっとお会いできましたね。バラクロフ侯爵夫人──フェルネ」
「……」
いずれこの国の王妃となるグレイス妃殿下。
艶めく黒髪を真珠で飾り、嫣然と微笑む妖艶な美女。
我が親戚の王太子殿下はこういう趣味だったのかと実に興味深い気持ちにさせられることこの上ない。
「どうぞ仲良くしてください」
グレイス妃殿下が眩しい程の笑みを浮かべ、煌めく濃いエメラルドの瞳で私を見据えた。
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