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41(レジナルド)
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辿り着いた緩衝地帯は通り過ぎるのが憚られる状態だった。
襲撃か天災を受けたかのような荒れようであり、目に映る村人は満遍なく疲労困憊の様相を見せている。畑は全て枯れ、疫病か干ばつが疑われた。だが村人に目立った病状は見られない。
はたして何が起きたのか。
「!」
妻フェルネが私の手首を掴んだ。
さすがのフェルネも村の荒れように恐れをなしたのかと思ったが、違った。
「いた」
「何?」
「いたわ。そこ」
フェルネの顎に導かれ小窓から目を凝らし私は衝撃を受けた。
目的の人物が確かにそこにいたからだ。
「双子か。なるほど、似ているな。と言うより最早あれは同一人物」
「ヒルダよ。停めて!」
珍しくフェルネが声を荒げる。
「馬鹿を言うな。危ないぞ」
「あなた何しに来たの?私が危険に飛び込むなら道連れよ」
「落ち着け、フェルネ。どんな病が蔓延しているか定かではない」
「平気よ。私の鼻が安全を確信してる」
見かけたら所在地を王家に報告するだけのはずが、予定変更を余儀なくされた。
フェルネに忠実なジェマが一早く馬車を飛び降り、フェルネに手を差し伸べ下りるのを助ける。
「……」
フェルネの春季旅行用の馬車と、迎えに来た私の馬車。御者を含めれば健康な男は私を含め三人。有事の際にも対処可能。
村には助けが要るだろう。
私は妻フェルネに続き馬車を下りた。
見慣れない馬車を警戒してか村人たちの視線が注がれる。その中でグレイス王太子妃殿下の双子の妹でしかないであろう女が私たちを睨みつけ声を上げた。
「誰?何の用?」
声まで同じ。
延いては敵意を向けられ内心怯む程の迫力であった。
「殺すなら殺しなさいよ。失うものがないんだから恐くないわ」
「何があったの?」
「!?」
さも旧知の間柄の友人に対して天気を訪ねるかのような簡素な声かけで、フェルネが暫定ヒルダに寄り添う。
「あんた誰よ」
暫定ヒルダは憤怒している。
深いエメラルドの瞳は憎悪の炎を燃やし、今にも爆ぜそうだ。
しかしフェルネは動じなかった。更にはジェマも動じなかった。
私も動揺はしていない。そしてこの事態を妻に一任するのは本望ではない。
「私は通り掛かりのバラクロフ侯爵レジナルドだ。妻との旅行の帰りだが、気が向いて遠回りしてみたらこの惨状を目にし、協力を申し出る為に馬車を下りた。大丈夫か?」
「ああそう、ありがとう。貴族は嫌いなの。どうぞお構いなく旅行を続けてくださいな」
まるでグレイス王太子妃殿下から乱暴にあしらわれているような錯覚を受ける。さてどうしたものかと逡巡していると、フェルネが暫定ヒルダの腕を掴んだ。勇猛果敢、或いは無謀。だがそんな妻に少なからず私の胸は高揚した。
「王太子妃殿下があなたを探してる」
率直すぎやしないだろうか?
暫定ヒルダは眉を顰めた。
「は?何の話?」
「ヒルダ。妃殿下はあなたの保護を望んでいるのよ」
「……人違いよ。でもお気遣いありがとうございます。ほら、ドレスが汚れてしまいますから、もうお構いなく」
追い返したいのか暫定ヒルダは態度を軟化させ懐柔に切り替えた。しかしフェルネには通用しない。
「嘘じゃない。私はバラクロフ侯爵夫人フェルネ。パートランド伯爵の一人娘です。だから王家があなたを保護する為に探しているのというのは本当の話で──」
「え!?あのフェルネがバラクロフ侯爵家に!?」
暫定ヒルダが貴族でしか知り得ない情報を元に表情を変え驚いている。その後、しれっと真顔になり全てなかったことにしようと試みてはいるが、私は思った。
ほら、ヒルダじゃないか……と。
「怪我人は?食べ物は足りているの?そもそも何があったのよ。なんだかこの村はとってもけむ……グッフ、煙いのよ──ッキュン!」
「!?」
フェルネのくしゃみに驚いたヒルダが今度は只単に態度を軟化させ、ジェマに拭かれるフェルネを心配し始める。
「ああ、畑を焼かれたのよ。塵がね……だ、大丈夫?」
「ウェッキュン!だいっ、キュン!じょうっ、キュン!ブフキュン!!」
「……」
自身が捜索対象であることより王家の血を引き埃を被った悲恋を背負うフェルネのくしゃみに気を取られているヒルダの隙に私は迅速に滑り込んだ。
「何処の襲撃だ。敵国か?」
「ううん」
フェルネのくしゃみに気を取られているヒルダが屈託なく首を振る。
「ついこの春までサディアスっていう疫病みたいな男が住んでたんだけど、貴族だったみたいで、迎えが来てついでに畑を焼いていったの」
その名はフェルネのくしゃみさえ塞き止め、私たちの時を止めた。
「ウッキュン!」
くしゃみが一早く時を動かす。
フェルネが無言でジェマから布を受け取り、自身の手で鼻を押さえ改めてヒルダを見つめる。
「そう。そでば大変だったわね゛」
内心動揺しているかもしれないが涙目で喘いでいるのは別の抗い難い理由がある為、判断し難い。
ヒルダが疲れたように冷笑した。
襲撃か天災を受けたかのような荒れようであり、目に映る村人は満遍なく疲労困憊の様相を見せている。畑は全て枯れ、疫病か干ばつが疑われた。だが村人に目立った病状は見られない。
はたして何が起きたのか。
「!」
妻フェルネが私の手首を掴んだ。
さすがのフェルネも村の荒れように恐れをなしたのかと思ったが、違った。
「いた」
「何?」
「いたわ。そこ」
フェルネの顎に導かれ小窓から目を凝らし私は衝撃を受けた。
目的の人物が確かにそこにいたからだ。
「双子か。なるほど、似ているな。と言うより最早あれは同一人物」
「ヒルダよ。停めて!」
珍しくフェルネが声を荒げる。
「馬鹿を言うな。危ないぞ」
「あなた何しに来たの?私が危険に飛び込むなら道連れよ」
「落ち着け、フェルネ。どんな病が蔓延しているか定かではない」
「平気よ。私の鼻が安全を確信してる」
見かけたら所在地を王家に報告するだけのはずが、予定変更を余儀なくされた。
フェルネに忠実なジェマが一早く馬車を飛び降り、フェルネに手を差し伸べ下りるのを助ける。
「……」
フェルネの春季旅行用の馬車と、迎えに来た私の馬車。御者を含めれば健康な男は私を含め三人。有事の際にも対処可能。
村には助けが要るだろう。
私は妻フェルネに続き馬車を下りた。
見慣れない馬車を警戒してか村人たちの視線が注がれる。その中でグレイス王太子妃殿下の双子の妹でしかないであろう女が私たちを睨みつけ声を上げた。
「誰?何の用?」
声まで同じ。
延いては敵意を向けられ内心怯む程の迫力であった。
「殺すなら殺しなさいよ。失うものがないんだから恐くないわ」
「何があったの?」
「!?」
さも旧知の間柄の友人に対して天気を訪ねるかのような簡素な声かけで、フェルネが暫定ヒルダに寄り添う。
「あんた誰よ」
暫定ヒルダは憤怒している。
深いエメラルドの瞳は憎悪の炎を燃やし、今にも爆ぜそうだ。
しかしフェルネは動じなかった。更にはジェマも動じなかった。
私も動揺はしていない。そしてこの事態を妻に一任するのは本望ではない。
「私は通り掛かりのバラクロフ侯爵レジナルドだ。妻との旅行の帰りだが、気が向いて遠回りしてみたらこの惨状を目にし、協力を申し出る為に馬車を下りた。大丈夫か?」
「ああそう、ありがとう。貴族は嫌いなの。どうぞお構いなく旅行を続けてくださいな」
まるでグレイス王太子妃殿下から乱暴にあしらわれているような錯覚を受ける。さてどうしたものかと逡巡していると、フェルネが暫定ヒルダの腕を掴んだ。勇猛果敢、或いは無謀。だがそんな妻に少なからず私の胸は高揚した。
「王太子妃殿下があなたを探してる」
率直すぎやしないだろうか?
暫定ヒルダは眉を顰めた。
「は?何の話?」
「ヒルダ。妃殿下はあなたの保護を望んでいるのよ」
「……人違いよ。でもお気遣いありがとうございます。ほら、ドレスが汚れてしまいますから、もうお構いなく」
追い返したいのか暫定ヒルダは態度を軟化させ懐柔に切り替えた。しかしフェルネには通用しない。
「嘘じゃない。私はバラクロフ侯爵夫人フェルネ。パートランド伯爵の一人娘です。だから王家があなたを保護する為に探しているのというのは本当の話で──」
「え!?あのフェルネがバラクロフ侯爵家に!?」
暫定ヒルダが貴族でしか知り得ない情報を元に表情を変え驚いている。その後、しれっと真顔になり全てなかったことにしようと試みてはいるが、私は思った。
ほら、ヒルダじゃないか……と。
「怪我人は?食べ物は足りているの?そもそも何があったのよ。なんだかこの村はとってもけむ……グッフ、煙いのよ──ッキュン!」
「!?」
フェルネのくしゃみに驚いたヒルダが今度は只単に態度を軟化させ、ジェマに拭かれるフェルネを心配し始める。
「ああ、畑を焼かれたのよ。塵がね……だ、大丈夫?」
「ウェッキュン!だいっ、キュン!じょうっ、キュン!ブフキュン!!」
「……」
自身が捜索対象であることより王家の血を引き埃を被った悲恋を背負うフェルネのくしゃみに気を取られているヒルダの隙に私は迅速に滑り込んだ。
「何処の襲撃だ。敵国か?」
「ううん」
フェルネのくしゃみに気を取られているヒルダが屈託なく首を振る。
「ついこの春までサディアスっていう疫病みたいな男が住んでたんだけど、貴族だったみたいで、迎えが来てついでに畑を焼いていったの」
その名はフェルネのくしゃみさえ塞き止め、私たちの時を止めた。
「ウッキュン!」
くしゃみが一早く時を動かす。
フェルネが無言でジェマから布を受け取り、自身の手で鼻を押さえ改めてヒルダを見つめる。
「そう。そでば大変だったわね゛」
内心動揺しているかもしれないが涙目で喘いでいるのは別の抗い難い理由がある為、判断し難い。
ヒルダが疲れたように冷笑した。
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