幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

希猫 ゆうみ

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「大丈夫、僕が傍にいるよ。ハリエット」

ベッドに潜ったまま泣き続けている幼馴染をシーツ越しに撫で摩って励ましながら、僕はその心が少しでも癒されるよう絶えず願い続けずにはいられない。

ハリエットは可愛らしい少女だった。
甘やかされて育ったという見方もあるが、溺愛されるだけの愛くるしい存在だったのだ。
そんなみんなの大切なハリエットがフィンリー侯爵に見初められた時、誰しもが、大きな喜びと同時に不安を抱いた。

フィンリー侯爵は、一言でいえば大人すぎる。単純に年上というだけでなく、人生そのものが別格で、家庭人としてのイメージが沸かない人物だ。

そして冷淡で、冷酷な一面がある。
そうでなくては王国の為に戦い勝利を収めることはできなかっただろう。
事実、英雄だ。

だからハリエットの結婚相手として不足はなかった。
ハリエットに相応しい、立派な人物だった。

だがやはり、フィンリー侯爵は血を流し勝利した軍人であり、文字通り大人過ぎた。
彼の生と死の境を駆け抜け生き延びたという成熟した精神は、ハリエットを妻として対等に扱えるほど、柔軟ではなかったのだ。

一抹の不安。
それは、フィンリー侯爵が若く可憐なハリエットと結婚したのは、妻ではなく人形を欲したに過ぎないのではないかというもの。

その不安は現実となった。

「君は努力したよ。立派な侯爵夫人になれるよう、勉強していた。妻なんだから、愛を求めて当然だ。それを幼稚だなんて、本当に愛していたら思う訳がない。閣下は人を愛せない、寂しい人だったんだ」
「うっ、ふぇん……っ、んく」
「君のせいじゃないよ」

傷付いたハリエットの悲しみを思うと、彼女を差し置いて能天気に結婚などしていられない。

彼女は存在を否定され、人格を放棄するよう迫られ、それでも尚健気に愛を求め、そして捨てられた。

これほどの痛手を乗り越えるには、たくさんの愛情と慰めが必要だ。誰もがそうして立ち直り、再び前を向いて歩いている。人間はそうして生きてきた。

フィンリー侯爵には……そう、レイチェルのような高潔な精神を持った強い妻がお似合いだったのだ。
可憐なハリエットを傷つける必要はなかった。

「……」

結婚は、失敗してはならない。
たとえ人間的な成長が伴うとしても、深い傷が残る。

レイチェル……

彼女の強さは真夏の太陽のように厳しい。
だが、その正義感、理性、知性、公平且つ建設的な思考……レイチェルの資質の全てが尊敬に値する。恋ではなく、単なる敬愛であったなら、これほど苦悩しなかっただろう。

僕は、レイチェルを愛している。
僕の心にはレイチェルがいる。

併し、僕たちの運命は、交わらなかった。
悲しいけれどそれが現実なのだった。

「ふぇえん」

傷付いた可哀相なハリエットが、ベッドに突っ伏して泣いている。
その震える肩を摩りながら僕は……
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