うしろめたいお兄様へ。

希猫 ゆうみ

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「な……っ」

頭にカッと血が上り、眩暈がした。
私は自分が卒倒しそうになっていると自覚して、拳を握りしめ理性を繋ぎ止め、若干前屈みになりつつ父を睨む。

「何故ですか?」
「座りなさい」

父も私が卒倒しそうだと判断したらしく、婚約破棄を認めない理由を言う代わりに目で椅子を示した。
私は拳を開きドレスの襞を握り直し足を踏ん張り父を睨んだ。

「結構です。お父様、御自分が男だからってウォルトンの味方をする気でいらっしゃるの?」
「性別は関係ない」
「では味方するのね?」

烈しい怒りに喉が震え叫び出す寸前だったが私は耐えていた。伯爵令嬢たるもの、父親に対して怒鳴り声を上げるなど不作法もいいところだ。

ウォルトンとの婚約破棄を認めさせる為にも、私には一つの落ち度もあってはならない。

「ローレルを此処へ」

父が控えていた執事に母を呼ぶよう命じた。
伯爵家同士の婚約を解消するに当たり、一家で話し合うのは当然と言えば当然だ。そして母は私の味方だ。私に加勢して父を説得してくれる。願ったり叶ったりだと私は安堵した。

母が少し驚いた顔で執務室に入ってくる。普段立ち入ることのない領主の仕事場へ足を踏み入れたので、何事かと緊張しているようだった。

私は勢いで母も睨んだ。

母は、未来の私。それくらい私たち母娘はそっくりだった。ふんわりと柔らかく広がる金髪と翡翠の瞳。特徴的なそれらのパーツ以外を以てしても、刻んだ年月以外は全て同じに見える。

それに比べて父は……私はこの不気味な程に美しく氷のように冷たい男の血が私の体にも流れているという事実が不思議でならない。

「──という経緯で、フランシスカが婚約破棄を申し出た」

私に代わり父がウォルトンとの一幕を母に伝える。

「……?」

私は母の表情に違和感を覚えた。
一緒に憤慨してくれるだろうと予想していた母の態度は全く別のものだった。押し黙り、父の次の一言を緊張の面持ちで待っているのだ。

意外だった。
両親が夫婦として円満か冷え切っているかというより、父が人間離れした氷の彫刻じみていることを考慮すれば、二人は丁度いい関係に落ち着いていると娘の私の目には映っていた。

当然、主従関係でもない。

だから母の、従順ともいえる姿勢で父の発言を恐る恐る待っている姿が腑に落ちなかったのだ。

「却下した」

父は父らしく結果を報告する。
すると、母は──

「……!?」

私は見てしまった。
見たくせに自分を誤魔化しても仕方ない。

母は確かに安堵していた。

その母が次の瞬間、驚くほど狼狽え蒼褪めることになる。
それは父のこんな一言がきっかけだった。

「いい機会だ。娘に理由を教えてやろう」
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