うしろめたいお兄様へ。

希猫 ゆうみ

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「あなた……!?」

母は私がウォルトンの愛人宣言を聞いた時より驚愕している。
私は母が卒倒するのではないかと心配になり、素早く寄り添って支えた。そうしながらも私の婚約破棄が認められない理由が何かしら母にありそうだということもまた頭の片隅で察していた。

聞きたくない話だ。
しかし、理由がわかりさえすれば次の手を打てる。

私は興奮したように顔を赤らめ汗をかき始めた母を凝視しつつ、覚悟を決めた。その私に父の冷たい声が降り注ぐ。

「私には三人の女がいた」
「──」

母が目を瞠り、私は息を止めた。
激昂していた頭と同時に心まで冷めていくのがわかった。

「……え?」

私は母の体に手を添えたまま父の方に振り返る。
父は相変わらず蒼白く美しい気取った髭面で薄気味の悪い灰紫の瞳を私に向けていた。

「お前の母ローレルは後妻だ」

それは知っている。
マスグレイヴ伯爵の最初の妻が病死したのは貴族社会でも周知されている事実だ。その後に母と出会い、再婚した。

母は後妻だ。私は後妻の娘だ。
けれど私は順調に社交界デビューを果たした。誰も何も言わなかった。うしろめたいことなど一つもない、只の後妻だからだ。

疑う必要はなかった、はずだった。

けれど……

「一人目の妻ビアトリスの体では跡継ぎが望めず、私はある未亡人と関係を持った。ライシャワー伯爵夫人だ」
「!?」

耳を疑った。
だが聞き捨てならない家名だった。

「彼女は男児を産んだ。だが丁度ビアトリスの死と重なり、私はどうしても認知する気になれなかった。彼女は息子を連れて私の元を去った」

今まで隠匿していたのも納得の過去に私は言葉を失っていた。

「ライシャワー伯爵家は亡き伯爵の従兄が継ぎ、彼女は追放され今も行方知れずのままだ」

酷すぎる。

「ビアトリスが死んだ時も、恋人が息子を連れ私を捨てた時も、傍で支え励ましてくれた少女がいた。今、母を支えるお前のように。そう、愛くるしいローレル。ライシャワー伯爵家に仕えていた子爵家の令嬢。春の麦畑のように太陽を浴びて煌めく金髪、瑞々しい翡翠の瞳。お前は本当に母親そっくりだ、フランシスカ」
「……!」

咄嗟に母から離れ、私は口を覆った。
両親への嫌悪感はそのまま私自身への嫌悪となり、酷い吐気に襲われていた。

全身から嫌な汗が噴き出し、相変わらず眩暈がした。
恐ろしい秘密を知らされてしまった。私は酷く穢れている。

「気の強いところも」

父は無感情な口調で私を揶揄った。揶揄ったのだと私は解釈したといった方が正しい。

これくらいでへこたれてくれるな。
そう言われた気がした。

「私は三人を同時に愛していた。一人は死に、一人は去り、一人は残り今も私の傍にいる。お前は愛されて生まれて来た。フランシスカ。お前はウォルトンと結婚し、いずれオリファント伯爵夫人になればいいんだよ。そして子どもを産みなさい」
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