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「私はマスグレイヴ伯爵令嬢フランシスカ。此処に父マスグレイヴ伯爵の書状もあります。どうぞ検めてください」
政治的な手続きは私にはわからずその権限もない為、父が交渉に必要と思われる要綱を書状にしてくれている。
「……はぁ」
やる気がないのではない。
伯爵令嬢という場違いな存在に戸惑っているのだ。
私は屈強な門番を余すところなく観察し、逞しい腕が書状を畳んだ瞬間に用件を伝えた。
「ここにバレットという名の男がいるはずです。私はその妹です。早急に面会の場を整えてください」
「一先ずこちらへ」
急な来訪とはいえ伯爵家の令嬢を無下にはできないようで、私は丁重に応接室へと通された。
政治犯を収監しているとあれば、処刑を見届ける為に王族や高官が訪れもするだろう。私が通された一室は小ぶりで簡素ながら格調高い調度品で整えられた賓客用の部屋に違いなかった。出された紅茶も一級品だ。
ニックスたちは建物に入るところで既に別室に誘導されている。
面会まで待機ということだろうか。
まず釈放させる為の交渉が必要なのか。
それとも、非嫡出子だろうと伯爵家の血筋だから囚人と言えども待遇は悪くなく、このような応接室での面会になるのだろうか。
静寂の中で待機していると、緊張も相まってあれこれと考えこんでしまう。
費用は……持参金で足りるわよね……?
足りない場合、あの吸血鬼は用立ててくれるかしら。
私がそんなことを考えていると重い足音が近づいて来て、扉の前で止まった。吸い寄せられるように私は扉を注視する。
扉が開くと、そこには青年の姿があった。
背が高く屈強そうで、精悍な顔つきながらどことなく洗練された雰囲気も兼ね備えている。
交渉相手にしては若い。看守にしては小奇麗で正装に近い気がする。
制帽から短い赤褐色の髪が覗いている。御令嬢の話を聞いてやって追い返せと命じられたのだろうか。
監獄のことなど何も知らないので私は彼がどのような役職にある人物なのか全く想像できなかった。
私は腰を上げた。
彼は制帽を外し私を見つめた。
黒く縁どられた碧い瞳が私を捉える。
品定めするような鋭い眼光に一瞬怖気づく。
「……」
違う。
これは確実に品定めされている。
世間知らずの令嬢が何をしに来たと言わんばかりの空気を感じる。
「監獄長のヘイズです」
若い監獄長に驚いたが、もっと驚いたのは重くざらついた声音が意外にも優しさすら感じさせる響きを持っていたことだ。私は一瞬の油断を悟られないよう気を引き締めた。
しかしこの年齢で監獄長とは若すぎる。
恐らく貴族だろう。王都直轄の監獄だから役職にもそれ相応の身分が求められて然るべきだ。
「私はマスグレイヴ伯爵令嬢フランシスカです。大至急、兄バレットとの面会を要求いたします。兄は無実の罪で長年このヴァルカーレ監獄に閉じ込められておりまして、私は身元引受人として──」
そこまで言った時。
ヘイズ監獄長がふと笑いを洩らした。
冷笑に近いが直接的な悪意は感じない。
精悍な顔立ちの監獄長が苦虫を噛み潰したような複雑な苦笑を浮かべていると理解した瞬間、私の心臓が激しく脈打ち、全身から妙な汗が噴き出した。
私はとんでもない勘違いをしていたようだ。
黒く縁どられた碧い瞳が容赦なく私を貫いた。
「俺がバレット・ヘイズ。腹違いのお前の兄だ」
政治的な手続きは私にはわからずその権限もない為、父が交渉に必要と思われる要綱を書状にしてくれている。
「……はぁ」
やる気がないのではない。
伯爵令嬢という場違いな存在に戸惑っているのだ。
私は屈強な門番を余すところなく観察し、逞しい腕が書状を畳んだ瞬間に用件を伝えた。
「ここにバレットという名の男がいるはずです。私はその妹です。早急に面会の場を整えてください」
「一先ずこちらへ」
急な来訪とはいえ伯爵家の令嬢を無下にはできないようで、私は丁重に応接室へと通された。
政治犯を収監しているとあれば、処刑を見届ける為に王族や高官が訪れもするだろう。私が通された一室は小ぶりで簡素ながら格調高い調度品で整えられた賓客用の部屋に違いなかった。出された紅茶も一級品だ。
ニックスたちは建物に入るところで既に別室に誘導されている。
面会まで待機ということだろうか。
まず釈放させる為の交渉が必要なのか。
それとも、非嫡出子だろうと伯爵家の血筋だから囚人と言えども待遇は悪くなく、このような応接室での面会になるのだろうか。
静寂の中で待機していると、緊張も相まってあれこれと考えこんでしまう。
費用は……持参金で足りるわよね……?
足りない場合、あの吸血鬼は用立ててくれるかしら。
私がそんなことを考えていると重い足音が近づいて来て、扉の前で止まった。吸い寄せられるように私は扉を注視する。
扉が開くと、そこには青年の姿があった。
背が高く屈強そうで、精悍な顔つきながらどことなく洗練された雰囲気も兼ね備えている。
交渉相手にしては若い。看守にしては小奇麗で正装に近い気がする。
制帽から短い赤褐色の髪が覗いている。御令嬢の話を聞いてやって追い返せと命じられたのだろうか。
監獄のことなど何も知らないので私は彼がどのような役職にある人物なのか全く想像できなかった。
私は腰を上げた。
彼は制帽を外し私を見つめた。
黒く縁どられた碧い瞳が私を捉える。
品定めするような鋭い眼光に一瞬怖気づく。
「……」
違う。
これは確実に品定めされている。
世間知らずの令嬢が何をしに来たと言わんばかりの空気を感じる。
「監獄長のヘイズです」
若い監獄長に驚いたが、もっと驚いたのは重くざらついた声音が意外にも優しさすら感じさせる響きを持っていたことだ。私は一瞬の油断を悟られないよう気を引き締めた。
しかしこの年齢で監獄長とは若すぎる。
恐らく貴族だろう。王都直轄の監獄だから役職にもそれ相応の身分が求められて然るべきだ。
「私はマスグレイヴ伯爵令嬢フランシスカです。大至急、兄バレットとの面会を要求いたします。兄は無実の罪で長年このヴァルカーレ監獄に閉じ込められておりまして、私は身元引受人として──」
そこまで言った時。
ヘイズ監獄長がふと笑いを洩らした。
冷笑に近いが直接的な悪意は感じない。
精悍な顔立ちの監獄長が苦虫を噛み潰したような複雑な苦笑を浮かべていると理解した瞬間、私の心臓が激しく脈打ち、全身から妙な汗が噴き出した。
私はとんでもない勘違いをしていたようだ。
黒く縁どられた碧い瞳が容赦なく私を貫いた。
「俺がバレット・ヘイズ。腹違いのお前の兄だ」
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