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16(バレット)
人生稀に見ぬ最悪の一日だ。
どちらか片方ずつであればまだよかったが、マスグレイヴ伯爵令嬢の〝お迎え〟も王子乱入で台無しである。
他の王子ならまだましだったが、そもそも上の王子二人は此処へは来ない。
妹かもしれないマスグレイヴ伯爵令嬢は美しいに違いないが気が強く、小柄なせいか見た目もどこかポメラニアンのようで愛嬌がある。ここまで来る胆力もさることながら、脱獄に怖気づきもせず独自の籠城スタイルで対処した点も含め、存在自体に俺は掛け値なしの好感を抱いた。
フランシスカ。
これが、俺の妹か。
なるほど。
……と、王子さえいなければ貴重な初対面の時間を大事に丁寧に過ごしたかったが、来てしまったからには現実を受け止めるしかないだろう。
フランシスカが来てしまったのと同じように。
できることなら一生存在すら悟られなかったほうがよかったのだろうが、起きた現実は変えられない。
「殿下。ご勘弁を」
「馬鹿を言うな。おおぅ、可愛いじゃないか。どうだ、お前。予想より美人じゃないか?」
「……」
死ね。
死んでくれ。
俺はアベル王子の存在を呪った。
一瞥すると、フランシスカは怒りと蔑みを込めた視線をこちらに注いでいたが、目が合うとそれも逸らされてしまった。
アベル王子があけっぴろげに喜びながらフランシスカと距離を詰める。
フランシスカは静かに憤ったまま伯爵令嬢らしいカーテシーで応じている。
状況は全く面白くなかったが、内心、子爵家の成り上がり令嬢を母に持っていても充分な教育が施されたようで感心した。俺の存在も含めて過去をひた隠しにしたからには、マスグレイヴ伯爵という奴は随分と本気でフランシスカを育て上げたのだろう。
可愛がっていただろうに、俺を連れて来いとは。面白くないを通り越して不快だ。
しかも理由が修道院ときた。
だったらフランシスカが追い詰められないよう気を付けてやればよかったものを……
「頭を下げてないで顔を見せてくれ。小さいんだからまずきちんと立って。監獄長ご自慢の岸壁の令嬢を生で拝めるとは今日を選んだ甲斐があったというものだ。なあ、バレット。ほれ、ほれほれ、フランシスカ。立て立て」
殺してくれ。
フランシスカ、噛み殺せ。
王子を殺れなきゃ俺を殺れ。
「……」
ゆっくりと姿勢を元に戻して直立したフランシスカはアベル王子ではなく俺を睨んでいる。
「おおぅ」
俺たちの険悪な空気を面白がるアベル王子が心底王子でなければいいのにと思わずにはいられない。王子じゃなけりゃ、せめて殴れる。
フランシスカがアベル王子に再び頭を垂れた。
「お初にお目にかかります、私はマスグレイヴ伯爵令嬢フランシスカという者でございます」
どちらか片方ずつであればまだよかったが、マスグレイヴ伯爵令嬢の〝お迎え〟も王子乱入で台無しである。
他の王子ならまだましだったが、そもそも上の王子二人は此処へは来ない。
妹かもしれないマスグレイヴ伯爵令嬢は美しいに違いないが気が強く、小柄なせいか見た目もどこかポメラニアンのようで愛嬌がある。ここまで来る胆力もさることながら、脱獄に怖気づきもせず独自の籠城スタイルで対処した点も含め、存在自体に俺は掛け値なしの好感を抱いた。
フランシスカ。
これが、俺の妹か。
なるほど。
……と、王子さえいなければ貴重な初対面の時間を大事に丁寧に過ごしたかったが、来てしまったからには現実を受け止めるしかないだろう。
フランシスカが来てしまったのと同じように。
できることなら一生存在すら悟られなかったほうがよかったのだろうが、起きた現実は変えられない。
「殿下。ご勘弁を」
「馬鹿を言うな。おおぅ、可愛いじゃないか。どうだ、お前。予想より美人じゃないか?」
「……」
死ね。
死んでくれ。
俺はアベル王子の存在を呪った。
一瞥すると、フランシスカは怒りと蔑みを込めた視線をこちらに注いでいたが、目が合うとそれも逸らされてしまった。
アベル王子があけっぴろげに喜びながらフランシスカと距離を詰める。
フランシスカは静かに憤ったまま伯爵令嬢らしいカーテシーで応じている。
状況は全く面白くなかったが、内心、子爵家の成り上がり令嬢を母に持っていても充分な教育が施されたようで感心した。俺の存在も含めて過去をひた隠しにしたからには、マスグレイヴ伯爵という奴は随分と本気でフランシスカを育て上げたのだろう。
可愛がっていただろうに、俺を連れて来いとは。面白くないを通り越して不快だ。
しかも理由が修道院ときた。
だったらフランシスカが追い詰められないよう気を付けてやればよかったものを……
「頭を下げてないで顔を見せてくれ。小さいんだからまずきちんと立って。監獄長ご自慢の岸壁の令嬢を生で拝めるとは今日を選んだ甲斐があったというものだ。なあ、バレット。ほれ、ほれほれ、フランシスカ。立て立て」
殺してくれ。
フランシスカ、噛み殺せ。
王子を殺れなきゃ俺を殺れ。
「……」
ゆっくりと姿勢を元に戻して直立したフランシスカはアベル王子ではなく俺を睨んでいる。
「おおぅ」
俺たちの険悪な空気を面白がるアベル王子が心底王子でなければいいのにと思わずにはいられない。王子じゃなけりゃ、せめて殴れる。
フランシスカがアベル王子に再び頭を垂れた。
「お初にお目にかかります、私はマスグレイヴ伯爵令嬢フランシスカという者でございます」
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