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なんとも言えない沈黙が続いていたが、遅かれ早かれ同じ事を訊くだろうと腹を決めて私は兄に尋ねた。
「監獄長というお役目はどうされるんです?」
「王子がうまくやる」
第三王子アベル殿下が監獄長に?
「……」
否、そうとは限らない。
この場合、王子が国王との折衝を担ってくれるという意味と取っていいだろう。
「……」
難しい相手に余計な借りを作ってしまった。
しかし悔やんでも時は戻らない。ある種の運命として受け入れ、前だけを向いて対処していくしかないのだ。
「そうですか。御迷惑をお掛けしました」
「それで、話って?」
「……ああ」
私は困惑に鈍った頭を動かし、理性的に務める。
「お兄様は私たちの出自について私よりお詳しいようでしたので、その辺りをお伺いしたく思いまして」
「お前、妹だろ?その口調やめろよ」
「……」
囚人ではなかったが、兄は貴族として生きて来たわけでもない。
元より爵位を継ぐのであれば家庭教師が必須となるのだ。私がここで少しばかりの心構えをさせてもいいだろう。
「お兄様。この先マスグレイヴ伯爵という生き方をなさるなら、貴族としての礼節を──」
「わかってるよ。今はいいだろ」
「あ、はい」
兄の鉄の意志にこんなところで抵抗しても無駄に疲れるだけだ。私は割り切ることにした。
「私はこの年まで母が元々愛人だったなんて知らなかったのよ?お兄様はなんでも知ってるわけ?」
「お、いいな。気楽にやろうぜ」
「……」
軽い後悔を私は無視して兄に質問を重ねる。
「私の名前も把握していたの?」
「伯爵令嬢だからな。何処のダレソレなんてことは把握しておかなきゃ仕事にならんだろ」
王国直轄の監獄を治めてきた兄である。
貴族でなくとも貴族社会を把握していても当然といえば当然だった。
「それじゃあ、私が押し掛けた時……」
「ああ。うわ来たかって思った。それがどうした?」
「乗り気ということは、いつか父から爵位を奪うつもりでいたの?」
「いいや?」
「それならどうして」
即座に対応したのだろう。
押し掛けた私がそこまで尋ねるのは些か憚られた。
兄が軽やかに笑った。
「なんだよ。もう引き取っちまったんだから大事にしろよ」
「でも、その……立派なお役目だったでしょう?」
「檻の外も中も変わらない。処刑されなくたっていずれ死ぬし、人里で生きてるわけでもないしな」
大違いのような気もするものの、ここで否定して気まずくなるのは避けたい。
「そういうものなのね」
「ああ。爵位をぶら下げたいじらしい妹の顔を見りゃイチコロだろ、そんなの」
「そ、そうなの。そうかもね。まあ、伯爵業は息苦しいかもしれないけれど、檻ほどじゃないわよ」
「だろうな」
「お父様を恨んでないの?」
「……」
兄が虚空を睨み沈黙する。
聞かなければよかった。
兄の立場を考えれば心情を察して然るべきであり、不躾に聞く必要はなかったのに。
私はもう少し、考えてから発言するということを覚えるべきだ。
甘やかされて育った私にとって、兄を迎えての新たな生活は大きすぎる変化と言っていいだろう。私も変わるべきなのだ。
それに、私たちは兄妹。
身勝手な親たちの元に生まれた者同士、手を取り合い力を合わせて生きていかなくては。
何が起きようと、父ではなく兄の味方でいる。
私は強く決意した。
「迎えに来たのがお前じゃなくマスグレイヴ伯爵だったら、殺したかもな」
「……」
「冗談だよ」
決意とは、心を揺るがせないということだ。
「……」
難しい。
「監獄長というお役目はどうされるんです?」
「王子がうまくやる」
第三王子アベル殿下が監獄長に?
「……」
否、そうとは限らない。
この場合、王子が国王との折衝を担ってくれるという意味と取っていいだろう。
「……」
難しい相手に余計な借りを作ってしまった。
しかし悔やんでも時は戻らない。ある種の運命として受け入れ、前だけを向いて対処していくしかないのだ。
「そうですか。御迷惑をお掛けしました」
「それで、話って?」
「……ああ」
私は困惑に鈍った頭を動かし、理性的に務める。
「お兄様は私たちの出自について私よりお詳しいようでしたので、その辺りをお伺いしたく思いまして」
「お前、妹だろ?その口調やめろよ」
「……」
囚人ではなかったが、兄は貴族として生きて来たわけでもない。
元より爵位を継ぐのであれば家庭教師が必須となるのだ。私がここで少しばかりの心構えをさせてもいいだろう。
「お兄様。この先マスグレイヴ伯爵という生き方をなさるなら、貴族としての礼節を──」
「わかってるよ。今はいいだろ」
「あ、はい」
兄の鉄の意志にこんなところで抵抗しても無駄に疲れるだけだ。私は割り切ることにした。
「私はこの年まで母が元々愛人だったなんて知らなかったのよ?お兄様はなんでも知ってるわけ?」
「お、いいな。気楽にやろうぜ」
「……」
軽い後悔を私は無視して兄に質問を重ねる。
「私の名前も把握していたの?」
「伯爵令嬢だからな。何処のダレソレなんてことは把握しておかなきゃ仕事にならんだろ」
王国直轄の監獄を治めてきた兄である。
貴族でなくとも貴族社会を把握していても当然といえば当然だった。
「それじゃあ、私が押し掛けた時……」
「ああ。うわ来たかって思った。それがどうした?」
「乗り気ということは、いつか父から爵位を奪うつもりでいたの?」
「いいや?」
「それならどうして」
即座に対応したのだろう。
押し掛けた私がそこまで尋ねるのは些か憚られた。
兄が軽やかに笑った。
「なんだよ。もう引き取っちまったんだから大事にしろよ」
「でも、その……立派なお役目だったでしょう?」
「檻の外も中も変わらない。処刑されなくたっていずれ死ぬし、人里で生きてるわけでもないしな」
大違いのような気もするものの、ここで否定して気まずくなるのは避けたい。
「そういうものなのね」
「ああ。爵位をぶら下げたいじらしい妹の顔を見りゃイチコロだろ、そんなの」
「そ、そうなの。そうかもね。まあ、伯爵業は息苦しいかもしれないけれど、檻ほどじゃないわよ」
「だろうな」
「お父様を恨んでないの?」
「……」
兄が虚空を睨み沈黙する。
聞かなければよかった。
兄の立場を考えれば心情を察して然るべきであり、不躾に聞く必要はなかったのに。
私はもう少し、考えてから発言するということを覚えるべきだ。
甘やかされて育った私にとって、兄を迎えての新たな生活は大きすぎる変化と言っていいだろう。私も変わるべきなのだ。
それに、私たちは兄妹。
身勝手な親たちの元に生まれた者同士、手を取り合い力を合わせて生きていかなくては。
何が起きようと、父ではなく兄の味方でいる。
私は強く決意した。
「迎えに来たのがお前じゃなくマスグレイヴ伯爵だったら、殺したかもな」
「……」
「冗談だよ」
決意とは、心を揺るがせないということだ。
「……」
難しい。
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