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第一部
No.20 連れ去り
しおりを挟む「つーかさ、よくんな花言葉とか知ってるよな、男のくせに」
俺が呆れていうと
「国入るときいろいろもらったパンフレットに書いてあったんだよ」
ルカは苛立ち気味に返す。
ドレットは、一人買ってきた魚の身をすりつぶし球状にして棒に三つさし、油で揚げたものを、黙々と食べていた。
俺たちの真後ろで
「これ! って思う奴いないなぁ」
ハシントが不満をこぼし
「外れだなぁ、この国」
トレンツも文句をたれる。
「これならお前の一人勝ちだな」
俺がルカに向かっていうと
「どうかな?」
ルカがあっさりいった。
「あーあ、こんなことならメイドの子の誘い受けときゃよかった」
溜め息混じりにいったハシントに
「お前、好みじゃないからってこっぴどく振ってたくせに」
ドレットが振り向きもせず、最後の一個になった魚のすり身を上げたものをほおばりながらいう。
「紳士的に断っただろー」
ハシントのそんな調子のいいような返事が返ってきて
「あれのどこが」
ドレットが最後の一口を飲み込んでほとほと呆れた。
「メイドって今日の仕事の屋敷の?」
ルカが後ろを振り向いてハシントに尋ねた。ラナ語で。
「あぁ、そりゃみんな美人ちゃ美人だったけど年上ばっかでさ、誘ってくれたのも見た目は若かったけど三十路だぜ三十路!」
ハシントもラナ語でいきりたっていった。
「八歳しか違わないじゃん」
トレンツとルカが同時にいって
「おまえらなぁ、他人事だと思って。俺はいっても二歳上までなの。それ以上はもう十分楽しんだから結構っ!」
ハシントがラナ語で断言した。
「へぇ」
「ふーん」
二人の弟が大して興味なさそうにいう。
「そういや、トレンツ兄(にい)アナイスのとこの女の子にお土産頼まれてなかった?」
ルカが思い出したようにいって
「あ!」
トレンツも思い出したようにいう。
お土産? そういや俺も誰かに・・・・・・。まぁ、いっか。
「いいんだよ、ものなんてありすぎても困りもんだろ?」
トレンツがハハハと笑いながらいって
「なにまた三股とかしてバレたの?」
ルカがラナ語で訊ねた。
「もともと俺は誰とも付き合ってなかったっての! むこうが勘違いしただけ」
トレンツが悪びれる様子もなくいって
「最悪だな」
ドレットがぼそりと一言。それには俺も同意する。
「それより弟よ、俺はお前が心配だな。彼女欲しけりゃ紹介するぞ」
ハシントがラナ語でルカに言い寄り
「そうそう、興味ないって、そんなんじゃゆくゆくはそこの青いでくのぼうみたいになっちまうぞ」
トレンツのその言葉に
「誰がでくのぼうだ」
ドレットが一応反論する。
「それより兄貴たちこそ本命見つけて落ち着けば」
ルカがどうでもいいといわんばかりにいって
「本命が見つかればなぁ」
二人の兄は嘆くかのようにいった。
ドレットが花火を見ながら
「いやぁ、恋の季節だね」
ラナ語でいって
「どうかな」
俺は吐き捨てるかのようにぼそりとつぶやいた。
でもま、こういうイベントのときって彼女欲しいとか思うわな。・・・・・・あいつといったらそれなりに楽しかったかな? そんなことを考えながら歩いていると、やけにカップルが目についた。
ドンッ。
いきなり大きな音がして、空を仰ぐと空は流星群のように光がとどこおりなく星のように流れていた。人々の歓声があたり一帯に広がる。
目の前を見ると、十字路になっていた。正面、左右の道から人という人が流れていく。俺は、ふと遠くの正面を見た。
来たところとあまり変わり映えのない露店などが立ち並んでいた。家族、カップル、子供たち。様々な人が来る中、俺は思わず
「えっ?」
そう口にしてしまった。目をつぶってもう一度見る。頭を振って確かめても、間違いないようだった。
「どした?」
ドレットが不思議そうに俺を見て
「見つけた」
俺はそれだけいう。ドレットが余計に首をかしげる中
「なぁ、一番最初に女の子誘えば勝ちなんだよな?」
俺がハシントたちに振り返って
「やらないんじゃなかったの?」
ルカが目を丸くする。
「そりゃ、そういったけど」
トレンツがそういってハシントと目をあわせる。
それを見た俺は
「誰がやらないなんていったよ」
そういい終わるや否や駆け出した。
目標は十字路のちょうど真ん中で一人きょろきょろしていた。そして俺からすると右を見て、何を見たか目を見開いてびっくりしていた。まぁ、そんなことどうでもいい。
目標まであと、五メートル。でも、あいつはまだ気づいていないようだ。
・・・・・・目標までもう
「おい、行くぞっ!」
ゼロメートル。
俺はそいつの左手を右手で掴むと、強引に連れ出した。とりあえず左折してしまう。
冷たい手は何もいわない。あの時と同じように。
* * * * *
「セラ、これやらない?」
イノセンシオが指差したのは、ルージュフィッシュを一分以内で網ですくうというゲームの屋台。長方形の細長い水槽には、掌サイズの魚がうようよ泳いでいた。ほとんどの魚が赤色だが、ところどころ金や銀が混じっている。この魚はとても素早くて、一度網に入れても自力で出てしまうというほどだ。毎年イノセンシオは自力か従者に頼み、最低一匹は持ち帰り屋敷の水槽で飼っている。これはうまくいけば、人間の顔ぐらいの大きさになりイノセンシオはそれが楽しいらしいのだ。
「私は、遠慮します」
苦笑いで私がそういうと
「じゃあ、ごめん。俺だけやるね」
「それでは、私は少し先をいっていますね」
「え?」
「大丈夫ですよ。あそこの十字路あたりにいますから」
そういって私は少し先の十字路を指差した。
「わかった。迷子にならないでよ」
イノセンシオが心配そうに言って
「そこまで子供じゃありませんよ」
私はそういってイノセンシオをあとにした。
ふぅ、やっとひとりになれた。とはいってもほんの少しの間。
左右の店をちらちらと見ながら、私は肩を落とす。みなどれも軽食とはいえなそうな食べ物屋ばかり。
お腹すいたなぁ。でも、てきとうに買って後悔したくないし。
そんなことを考えていると、もう十字路の真ん中についていた。どっちに行くんだろう? もし私が決めていいなら、決めさせてもらおう。
そう思いながら、右を見て左を見て、私は左からやってくる光景に驚きを隠せなかった。周りに溶けこんでいるように見えるが、私の目から見たら明らかに従者を引き連れたベナサール様ご一家。見間違うはずもない。
ど、どうしよう。こんなところで、もし見つかりにでもすれば。
まだ、こちらには気づいていないようだし、に、逃げなきゃ。
そう思い、体を正面に向き直したまさにそのときだった。
「おい、行くぞっ!」
そういわれ、左手を少し痛いくらいの強さで握られいきなり走り出された。とっさのことにわけがわからず、私もつられて走ってしまう。幸いなことに、ベナサール様たちとは逆の右の方向に。
手を引くものの後ろ姿は見覚えがあった。走るたびに揺れるセミロングほどの黒髪。
・・・・・・えっと、どうなってるんですかね?
思ったが口にはしなかった。
なんか、出遭ったときみたい。
思わず笑みがこぼれる。そして、彼を見た。自分より背が高く、そこまで太くはないがたくましいと思えるような後ろ姿。
また自然と笑みがこぼれた。空では、色とりどりの花が咲き乱れていた。
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※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。
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