魔法使いの同居人

たむら

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この中に魔女がいる

2話

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「何だってこんなことになったんだろうな」

 独り言というより、周囲に同意を求めるように神藤は言った。
 大学生ということで、この部屋の中では最年長となる彼は、みんなの意見を合わせることで気持ちを一つにしようとしたのかもしれない。

 しかし頷いたのは、彼の同伴だという眼鏡の女性だけだった。

 俺たちは応接室と呼ばれる二十畳程の部屋にいた。部屋の真ん中には縦長の机があり、そのうち三辺に黒革のソファーが置かれている。俺たちはそれぞれ適当な場所に腰かけた。

 俺が座ったのは入口の真向いに位置するソファーだ。左手側には神藤と彼女の大学生カップル、右手側には親戚同士でここに訪れたという高校生くらいの男二人組が座っていた。

 俺の隣では、死体として発見された女性のいとこである楓夜子が、まるで前日の惨劇などなかったかのようにレトルトカレーを頬張っている。こんな状況で食事ができる神経に呆れを通り越して感心する。

 部屋の中には大きな二つの本棚があり、分厚い英語で書かれた本がきれいに並べられていた。堅苦しそうな重厚な本だが、英語の筆記体が読めない俺にはどんなタイトルなのかはわからなかった。筆記体が読めたところでわかったかと言われれば自信はない。

 色とりどりに飾られた本棚は読書のためというよりインテリアとして置かれているような印象を受け、実は中身は白紙なのではないかと邪推してしまう。

「一度状況を整理してみよう」

 スプーンを机に置いて神藤が言う。
 隣の彼女が神藤に倣って自分もスプーンを置く。彼女というより、兄をマネする妹のように見えた。

 初対面の人間で即席チームを組まなくなってしまったこの場面において、リーダー気質の年上男性という存在は有難かった。統率役の奪い合いや押し付けが発生すると、関係の希薄な共同体などすぐに分解してしまう。満場一致で彼をリーダーに置けたことは、少なくない安心感があった。

「俺たちはいま、東館に隔離されている。本来であれば一階からでも二階からでも扉を通れば西館へ行けるところが、どちらの扉も向こう側から施錠されている状態だ。窓ははめ殺しで、出入口も扉の向こうにある以上、館から出ることもできない。完全に閉じ込められているってわけだ」

 聞いていた全員が固まり、一様に浮かない表情を浮かべている。改めて自分たちの置かれた状況を思い知らされ、気持ちが沈んでいるのだろう。

 こうなることを予期していた俺ですら不安な気持ちでいっぱいなのだから、何も知らなかった彼らの心痛はそれ以上のはずだ。

「これからどうしましょうか?」

 俺と同い年くらいの男が律儀に挙手してから発言をした。

 自分以外の人間が積極的な発言してくれたことにホッとしたのか、神藤は安心したように笑みを浮かべる。

「そうだな。ここからの脱出方法を探ってみると言うのはどうだろう。鍵が掛けられているとはいえ、強引にタックルすれば突き破れるかもしれない」
「そんなやわな扉には見えませんでしたよ。きっと身体の方が先に壊れちゃいます」

 男がやんわりと否定する。

「それに館から出たところでここは無人島です。救助の船がしばらく来ない以上、館から出たところで島からは抜け出せません。閉じ込められた場所が館か島かの違いでしかないです。それにここには食料も寝る場所もあるわけで、出ていくメリットはないと思います」
「思いついたまま言ってみただけさ。俺も本気じゃない」

 神藤は苦笑いする。

「結局、本島から助けが来るまでここで待機する以外に手はなさそうだな」
「ほかにも出来ることはありますよ」

 俺が言うと全員の視線が集まった。人から注目されるのは慣れておらず、居心地が悪い。

「出来ることとは?」
「『魔女』を探し出すことですよ」

 全員の表情が一斉に強張った。部屋の中に緊張が走る。
 楓夜子だけは、他人事のように俺を覗いていた。

「あの男の言葉を信じているのか? 『魔女』なんているわけないだろ」
「私もそう思う」

 神藤の彼女がか細い声で同意した。
 それに続くように他の人間も神藤の意見に賛同しだす。

 俺だって魔女なんてものを本気で鵜呑みにしているわけではなかった。

 それでも「絶対にありえない」と断言することができない奇妙な感覚がこの館には漂っていた。何が起きても不思議じゃない。そんな気配を感じてならない。

 とはいえ、気配なんか曖昧な理由で人を説得することができないことはわかっていた。俺は力なく笑い、「そうですよね」と答えるしかなかった。
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