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この中に魔女がいる
3話
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そもそもの発端は、灰谷と名乗る男が語った『魔女』の話だった。
突然の人が死んで途方に暮れていた俺たちの前で、男は淡々と語りだした。
遡ること数百年前、魔女と呼ばれる女がいた。
魔女は人間には不可能な様々な魔法が使えた。住民のけがを瞬く間に直したという話から、地元の有力者を呪い殺したなどといった悪い話まで、噂話は枚挙にいとまがなかった。人々は魔女に尊敬と畏怖の念を抱いていたという。
あらゆる困難を魔法で乗り越えてきた魔女も老いには勝てず、七十歳を過ぎると自宅で寝たきりになることが多くなった。近いうちに最後の時が来ることは誰の目にも明らかだった。
しかし、魔女は残していた最後の力を振り絞り最後の魔法を使った。それは他人の身体を乗っ取る魔法だった。
彼女がターゲットに選んだのは、度々自宅に呼び寄せていた庭師の若い女だった。女の身体を魔法で奪うと、魔女の元の身体は眠るように動かなくなった。そしてそのまま、庭師として魔女は新しい生を手に入れたのだった。
それ以降、魔女は別の身体を転々として、今日まで生きながらえてきた。
魔女に狙われるのは決まって若者だという。性別は男女どちらのケースもあるが、女であることが多いらしい。そして奪った身体が二十五歳前後になると、また別の身体に移る。
なぜ二十五歳という期限が設けられているのかは定かではない。一つの説として、魔女オリジナルの身体とは違い、一般人の身体で魔法を使うには、人間の身体能力が最盛期を迎える二十五歳前後でなければならないのではと考えられている。
そんな風に魔女の説明を終えた後、灰谷は自らを『魔女狩り』と名乗った。
魔女狩りは、その名の通り魔女を見つけ出して始末することを目的としているという。世界中に数多存在する魔女狩りの多くは、魔女に恨みを持つものによって構成されている。灰谷も祖先の因縁から、先祖代々魔女狩りを務めているとのことだった。
「俺はあの女を追ってここまで来た」
死体となった女性を指して灰谷は言う。
彼女は魔女狩りの組織によって魔女の容疑がかけられていた。対象の監視と観察のため、灰谷はこの旅行に参加したらしい。
そしてその疑いは彼女の死をもって確信となった。二十代半ばという年齢。死因不明の傷一つない遺体。それらが彼女が魔女であったことを指し示していた。
一方でそれは別の問題が発生したことを意味する。
魔女はいったい誰の身体に乗り移ったのかという問題だ。
これまでの情報から、乗っ取られた身体は二十代前半未満の者であることは間違いない。しかし、この館の中には候補となる男女が八人もいたのである。
「お前達の中に魔女がいるはずだ」
ひとしきり説明を終えると、灰谷は俺たちを値踏みするように見まわした。鋭い視線に場の空気が凍り付く。堀の深い男の顔が迫力を何倍にも増幅させていた。
まさに蛇ににらまれた蛙の状態だった俺たちを見かねて、その場にいた老夫婦が灰谷と俺たちの間に割って入ってくれた。
「魔女だとか魔法だとか、君は本気で言っているのか? 人が死んだというのに、冗談だとしたらあまりに悪質だ」
後に続くように他の大人たちもその意見に同調してくれた。いじめっ子からわが子を守る親のように、男の前に立ちはだかる。
大人たち全員に抗議されても灰谷は落ち着いていた。こうなることはわかっていたかのように、自分を非難する大人たちをただ黙って見ていた。ようやく非難の声が収まりかけたとき、灰谷はゆっくりと口を開いた。
「本島からの連絡船がすぐに来ない以上、時間の猶予は幾分ある。俺は時間をかけて魔女を見つけ出せればいい」
そういって部屋から出てこうとする。ドアノブに手を掛けたところで灰谷は振り向いて言った。
「気を付けることだ。入れ替わった直後の魔女は気性が荒い。過去にも新しい身体を手に入れた魔女に何十人という人が殺されたという例がいくつもある」
灰谷の捨て台詞は翌日現実のものとなる。
一人で館に宿泊していた二十代の男性が死体となって見つかったのである。今度の死体は前日のものとは異なり、死亡した原因がはっきりしていた。胸に包丁が突き刺さっていたのだ。
館の使用人の証言から、凶器は厨房にあった包丁ということが判明した。一人目の事件はまだ他殺ではない可能性も残っていたが、今回はあきらかな殺人だった。
ここは孤島だ。自分たち以外の人間がいない以上、この中に犯人がいることは明らかだった。
この事件をきっかけに、昨日まで俺たちをかばってくれた大人の態度が変わった。灰谷の予言も手伝ったのだろう、俺たち若者メンバーに対する不信感は隠しきれていなかった。その目は犯人は俺たちの中にいると決めつけていた。
「二十五歳未満の人間は東館に隔離しよう。こちら側から鍵をかければ、この館から出ることはできない。船がやってくるまでの間はそれで乗り切れるだろう」
灰谷の提案を大人たちは黙認した。子供を閉じ込めるという判断はあくまで灰谷がしたという立場を取ったまま、結局は俺たちを排除したかったのだ。
そうして夫婦が連れていた赤ん坊を除き、若者は隔離されることとなった。
東館から出るための一階と二階の扉は灰谷によって施錠された。
扉が閉じる間際、灰谷は俺たちに向かって言った。
「お前たちの中にいる魔女を見つけ出せたら、ここから出してやる。見つけることができたら午後零時ちょうどに一階の扉をノックしろ。魔女であることを証明でき次第、魔女以外の者は解放してやる」
突然の人が死んで途方に暮れていた俺たちの前で、男は淡々と語りだした。
遡ること数百年前、魔女と呼ばれる女がいた。
魔女は人間には不可能な様々な魔法が使えた。住民のけがを瞬く間に直したという話から、地元の有力者を呪い殺したなどといった悪い話まで、噂話は枚挙にいとまがなかった。人々は魔女に尊敬と畏怖の念を抱いていたという。
あらゆる困難を魔法で乗り越えてきた魔女も老いには勝てず、七十歳を過ぎると自宅で寝たきりになることが多くなった。近いうちに最後の時が来ることは誰の目にも明らかだった。
しかし、魔女は残していた最後の力を振り絞り最後の魔法を使った。それは他人の身体を乗っ取る魔法だった。
彼女がターゲットに選んだのは、度々自宅に呼び寄せていた庭師の若い女だった。女の身体を魔法で奪うと、魔女の元の身体は眠るように動かなくなった。そしてそのまま、庭師として魔女は新しい生を手に入れたのだった。
それ以降、魔女は別の身体を転々として、今日まで生きながらえてきた。
魔女に狙われるのは決まって若者だという。性別は男女どちらのケースもあるが、女であることが多いらしい。そして奪った身体が二十五歳前後になると、また別の身体に移る。
なぜ二十五歳という期限が設けられているのかは定かではない。一つの説として、魔女オリジナルの身体とは違い、一般人の身体で魔法を使うには、人間の身体能力が最盛期を迎える二十五歳前後でなければならないのではと考えられている。
そんな風に魔女の説明を終えた後、灰谷は自らを『魔女狩り』と名乗った。
魔女狩りは、その名の通り魔女を見つけ出して始末することを目的としているという。世界中に数多存在する魔女狩りの多くは、魔女に恨みを持つものによって構成されている。灰谷も祖先の因縁から、先祖代々魔女狩りを務めているとのことだった。
「俺はあの女を追ってここまで来た」
死体となった女性を指して灰谷は言う。
彼女は魔女狩りの組織によって魔女の容疑がかけられていた。対象の監視と観察のため、灰谷はこの旅行に参加したらしい。
そしてその疑いは彼女の死をもって確信となった。二十代半ばという年齢。死因不明の傷一つない遺体。それらが彼女が魔女であったことを指し示していた。
一方でそれは別の問題が発生したことを意味する。
魔女はいったい誰の身体に乗り移ったのかという問題だ。
これまでの情報から、乗っ取られた身体は二十代前半未満の者であることは間違いない。しかし、この館の中には候補となる男女が八人もいたのである。
「お前達の中に魔女がいるはずだ」
ひとしきり説明を終えると、灰谷は俺たちを値踏みするように見まわした。鋭い視線に場の空気が凍り付く。堀の深い男の顔が迫力を何倍にも増幅させていた。
まさに蛇ににらまれた蛙の状態だった俺たちを見かねて、その場にいた老夫婦が灰谷と俺たちの間に割って入ってくれた。
「魔女だとか魔法だとか、君は本気で言っているのか? 人が死んだというのに、冗談だとしたらあまりに悪質だ」
後に続くように他の大人たちもその意見に同調してくれた。いじめっ子からわが子を守る親のように、男の前に立ちはだかる。
大人たち全員に抗議されても灰谷は落ち着いていた。こうなることはわかっていたかのように、自分を非難する大人たちをただ黙って見ていた。ようやく非難の声が収まりかけたとき、灰谷はゆっくりと口を開いた。
「本島からの連絡船がすぐに来ない以上、時間の猶予は幾分ある。俺は時間をかけて魔女を見つけ出せればいい」
そういって部屋から出てこうとする。ドアノブに手を掛けたところで灰谷は振り向いて言った。
「気を付けることだ。入れ替わった直後の魔女は気性が荒い。過去にも新しい身体を手に入れた魔女に何十人という人が殺されたという例がいくつもある」
灰谷の捨て台詞は翌日現実のものとなる。
一人で館に宿泊していた二十代の男性が死体となって見つかったのである。今度の死体は前日のものとは異なり、死亡した原因がはっきりしていた。胸に包丁が突き刺さっていたのだ。
館の使用人の証言から、凶器は厨房にあった包丁ということが判明した。一人目の事件はまだ他殺ではない可能性も残っていたが、今回はあきらかな殺人だった。
ここは孤島だ。自分たち以外の人間がいない以上、この中に犯人がいることは明らかだった。
この事件をきっかけに、昨日まで俺たちをかばってくれた大人の態度が変わった。灰谷の予言も手伝ったのだろう、俺たち若者メンバーに対する不信感は隠しきれていなかった。その目は犯人は俺たちの中にいると決めつけていた。
「二十五歳未満の人間は東館に隔離しよう。こちら側から鍵をかければ、この館から出ることはできない。船がやってくるまでの間はそれで乗り切れるだろう」
灰谷の提案を大人たちは黙認した。子供を閉じ込めるという判断はあくまで灰谷がしたという立場を取ったまま、結局は俺たちを排除したかったのだ。
そうして夫婦が連れていた赤ん坊を除き、若者は隔離されることとなった。
東館から出るための一階と二階の扉は灰谷によって施錠された。
扉が閉じる間際、灰谷は俺たちに向かって言った。
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