魔法使いの同居人

たむら

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この中に魔女がいる

9話

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 まどろみの中、不快な音が耳に響く。しばらくは無視してみたが、しつこく響く喧騒に観念し、身体を起こした。ぼやける視界を合わせるために目を擦ると、薄暗い部屋の様子が目に写る。見慣れないレイアウトに思考が迷子になるが、すぐに無人島の館に来ていたことを思い出す。

 音の正体はノックだった。誰かが外から俺の部屋を叩いている。一定でないリズムがなおさら苛立ちを募らせてくる。

 俺は力の入らない身体に鞭を打ちカーテンを開けた。窓の外はあいかわらずの嵐だった。朝日は雲に遮られ、強風により木々がうごめいている。この島に助けがやってくるのはまだまだ先になりそうだ。

 掛け時計を見ると、すでに十一時を回っていた。
 重い足に鞭を打って扉の前にたどり着くと、「どちら様?」と訪問者に尋ねる。

「あたしです。夜子です」

 それを聞いて鍵を下ろす。すぐに自分の無警戒さに気が付いたが、その前にドアは開かれていた。

「おはようございます」

 寝起きの俺と違い身支度の整った夜子が挨拶をしてくる。頭の上では結った髪の毛が揺れていた。

「……おはよう」

 振り絞るように返事をするのがやっとだった。疲れているせいか、唇が思うように動かず、くぐもった声になってしまった。

「入っていいですか?」

 そう言いつつも、俺の返事を待つことなく夜子が部屋の中へ上がり込んできた。女子中学生を自室にあげることに社会的に問題ないだろうかと不安を覚えたが、世間の目の届かない孤島の中だと考えればどうでもよくなった。

 彼女は乱れた布団が敷かれているベッドに何の抵抗もなく腰かけると、世間話のような気軽さで言った。

「一ノ瀬さんが部屋で殺されていました」

 一瞬で頭が覚醒した。緊張が全身を駆け巡り、呼吸が乱れる。言葉が喉の奥でつっかえ、口からは声にならない声が断続的に漏れるのみだった。動揺するな。そう意識するほど身体も表情も堅くなっていくのがわかる。

 俺は強く目を瞑ると、深く息を吐き出す。呼吸を繰り返すことで、少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。

「どんな状況だった?」
「一ノ瀬さんの従弟と同じですね。ベッドの上で心臓を一突きです。苦しむことはなかったでしょう」
「そうか。それは何よりだ」

 言ってから、そんなわけがあるか、と心の中で自分自身に指摘を入れる。

「一応言っておきますが、あたしがやったんじゃありませんからね? あたしは魔女ですが、犯人ではないです」

「わかっているよ」と言いかけて言葉を飲んだ。ここで理由もなく彼女を疑わないことは、逆に怪しまれるのではないかと思ったからだ。代わりに「だといいな」と曖昧な返事を返す。

「朝食を取りに応接室へ向かう途中、一ノ瀬さんの部屋の前を通ったときに嫌な予感がしたんです。魔女の直感的なやつかもしれません。そこで試しに一ノ瀬さんの部屋をノックしてみたんです。いくら待っても反応が無かったのでドアノブを捻ってみたところ、鍵は掛かっていませんでした」
「今回は密室ではなかったわけだ」
「はい」

 夜子が頷く。本人は神妙に話しているつもりかもしれないが、ぴょこぴょこ跳ねるちょんまげにシリアスな空気が薄まっていく。

「その時点で何が起きているかは察しがつきました。案の定ベッドの上には胸から血を流して死んでいる一ノ瀬さんがいたわけです。部屋の中は綺麗に整理されていて、揉みあった形跡はありませんでした。あたしなりに室内を調べてみましたが、不審な点や犯人の手掛かりはなかったです。現場はそのままの残してますので、赤峰さんも見ますか?」
「いや、やめておく。俺が行ったところで何ができるわけでもないし、短い時間とはいえ、知り合いだった人の死体なんて見たくない」
「そんなこと言わずに。せっかくの機会じゃないですか」
「遠慮してるわけじゃない」

 一ノ瀬千花の死体を前に冷静さを保てる自信はなかった。取り乱すのがわかっているのだから、行ったところでいいことなんてあるはずがない。

 俺は椅子に腰を下ろしてから、次のすべき行動について考える。自分が連続殺人事件にたまたま巻き込まれた一般人だとしたらと想像を巡らせてみる。

「とりあえずここにいない二組に一ノ瀬のことを伝えよう。どうせ部屋から出てきてくれないだろうけど、扉越しに会話くらいならできるはずだ」
「異議なしです」

 俺たちは部屋を出た。
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