転生先は背後霊

高梨ひかる

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目が覚めたら背後霊だった。
そういう状況になったことがあるやつがどれくらいいるだろうか。
多分俺くらいだと思う。普通、天国とかいくだろうしな?

ということで、翌日である。
もしかしたら数日経ってるかもしれないがわからんので、意識があるから翌日である。
下には相変わらず病気の男の子が一人。
世話をしているらしきメイドさんが二人。
すやすやと寝ている男の子はだいぶ顔色がよくなっていて、お世話しているメイドさんも心なしか楽しそうに周りに待機している。
そんな状況である。

俺はといえば、また普通に浮いていた。
浮いてはいるが、変わったことが一つだけ。

『なんか紐がくっついてる』

墜落して気を失った(?)せいなのか、目が覚めたら上に戻っていたが何故か足には紐がくっついている状況になっていた。
足裏から伸びた謎の紐はそのまま男の子の心臓に伸びていて、とてもへんてこな状況である。
うん、なんだろうねこれ。
とりあえず移動には困らないのだが、距離が開けばあくほど紐が細くなっていくので、距離を取り過ぎたらプツンと切れそうだ。
そして切れたらどうなるかは予測するしかないが、明らかに心臓にくっついている紐をぶっちぎったら下の男の子がどうにかなりそうであるのは俺でもわかる。
ということで仕方なくふわふわと男の子の近場に浮いている状態だ。

どのくらい移動できるかはもう試していて、敷地内くらいならば特に問題なさそうだというのはわかっている。
敷地内といえども、一部屋がそれはもう数人を収納しても広々としているくらいなのだから当然ながら家屋もお屋敷。
パッと見俺が通っていた高校くらいの広さはあるので、まぁ身分高そうな家ではあるよな。
中世っぽい感じなので、俺が理解できる身分制度なのかどうかもわからんが。

浮いてるだけだと暇なので、メイドさんの話を聞いたり気分転換に庭へ出てみたり厨房にお邪魔したりして数日。
ようやく俺は現状況がわかってきた。

まずこの家であるが、身分的に言うと公爵家のおうちらしい。
旦那様が元王弟だそうで、奥様も伯爵家から嫁いできた良家のお嬢様。
王政も落ち着いていて、現状は近隣諸国と平和条約を締結済みで戦争も特になく、今は隣国の侵略戦争にさらされないだけの力をつけている状況。
そんな見るからに平和だった公爵家の悲劇は、世継ぎが生まれた5年前に始まった。

男の子の病気は魔力欠乏症。
突然かかる病で解決策は特になし。
成長すればするほど何かに魔力を吸われ成長が維持ができなくなって息が止まる――。
そんな難病を生まれながらに患っていたそうだ。

そもそもがこの魔力欠乏症、両親ともに魔力が強い人間だと割とかかって産まれてくることが多いといわれる原因不明の病なのだそうで。
ひたすら魔力回復ポーションを与えることで赤子の段階では生命維持していたが、日に日に魔力が成長していくにつれ魔力の吸われる速度が上がり、末期状態だったのが俺がぽこんと現れる前日のことだったようだ。

そのまま看取るだけという状況で何故か神への祈りが通じたのか、男の子の容態は安定。
魔力は吸われ続けているが魔力が成長に回るようになり、病気は治っていないのだがそれ以上に何かに魔力供給されている状態になっている、とのことだった。

その後半の何かって間違いなく俺だよね??
俺は魔力タンクか何かなんか?
まあ吸われ続けて存在がなくなるのかもしんないけど、そもそもがなんで俺ここにいるのって感じだしなあ。
消えるなら消えるで仕方なくない?
と特に痛みもないのでそのままにしている現状である。

で、このお話ツッコミどころが2点。
魔力を吸う何かってそもそも何さってところと。
魔力がある世界ってここ異世界ですよねーというところである。

うん、霊のまま異世界に転生(?)とか、ツッコミどころしかないよねー。
どうせなら男の子に成り代わるとかそっちが転生って言うんじゃないの? という感じである。
とはいえ、俺は庶民も庶民で公爵家のお世継ぎ様になりたいかというとそうでもない。
なんかその転生先はめんどくさいからご遠慮したいなって感じである。

案外そんな俺のズボラーな意識により男の子を乗っ取るみたいな転生はしなかったのかもしんないな。
そう思いながら俺はふよふよと浮いて時間をやりすごすのであった。

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