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第11話 「必要とされる為に」

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 ———将来性のない子犬ちゃん。


 私がエドナと知り合ったのは見世物小屋の中。
 まだ獣耳が生えており玩具として扱われていた時である。

 鉄格子の向こうには男と女の子。
 親子だろう。
 高貴な風貌からして貴族だ。
 おいしい料理、ふかふかのベット、温かいお家。

 なに不自由のない人生を送ってきたであろう女の子がこちらに指をさして親に告げた。

「私、コレ欲しい」

 常闇の見世物小屋で私は公爵家に引き取られた。
 令嬢エドナのペットとしてだ。


 連れていかれたコディントン本邸の宮殿は、私の想い描く幸福そのものが詰まった場所だった。
 生まれた時から魔族の奴隷として扱われ、見世物として扱われようと、いつしかその恐怖が終わることを毎日のように願っていた。
 エドナたちのような人ではない。
 別種族の魔族なのだ。

 宮殿につくなり、そこに住んでいる人たちにまともな扱われ方をされる筈もなく、侮蔑の眼差しを向けらたまま。

「私のペットに酷いことしないでね、皆んな」

 エドナは庇ってくれた。
 私を魔族であることを知りながら、幼い彼女は周りの人の植え付けられた差別思想を否定した。

 嬉しかった。
 この子に守られたことが。

「……子犬だからね」

 だけど違ったのだ。
 子供ゆえの無知は残酷なものである。
 あくまで私はペット。

 地下の牢に放り込まれた。
 それはエドナの手によって。
 困った顔をするだけで彼女の側についていた男達に殴られてしまう。

 せっかくエドナ嬢に住処を与えられたから感謝をしろ、幸福じゃないはずがない。

 エドナや宮殿の人たちの気分を損ねてしまうと地下が閉ざされ一週間は放置される。
 飲まず食わず、栄養失調になっても彼らには関係のないことだった。
 死んだら、代わりを買えばいいだけ。
 私は常に孤独だった。



 五年後。

 宮殿での私の扱われ方が変わった。
 地下牢ではなく、普通の部屋を用意されたのだ。
 周りからの差別的な眼差しがいつしか消え、完璧とまではいかないけれど人として扱われるようになったのかもしれない。

 十二歳になった私をエドナは妹のように接するようになり公爵家の当主も彼女を姉のように慕えとの言葉を受ける。

 町で歩くことを許可され、よくエドナとお買い物に行ったり演劇を観にいったり、それこそ周りからは仲良の良い姉妹のように見られるほどだ。

 エドナは十四歳。
 当時、私への酷い扱いを謝ってきたことがない。
 忘れていたのなら仕方がない、彼女もまだ幼い女の子だったからだ。
 そう思っていた。

 町を歩く国民には笑顔で手をふり、誰も見ていないところで彼らの悪口を言う。
 気に入らない人を社会的に陥れたり、スラム街が居場所の貧乏な人々たちの家屋を取り壊したり、とにかく性悪女に育ってしまったのだ。

 公爵家の当主からもいい噂は聞かない。
 親がアレなら子供もこうなるのは必然的である。

 ちなみに私は充実してきた部屋の中でさまざまな書物を読みあさって、魔術を独学で学んだ。
 自分で言うのもなんだけど才能はあった。
 たった一年で魔術師の域に到達していたのだ。

 エドナの性格からは目を瞑れば、私は孤独ではなくなっていた。
 そんなある日。

 エドナは宮殿に彼氏を招き入れた。
 当主が外出しており、宮殿にはほとんど使用人もいなくて静かな日のことだ。

 エドナは彼氏を溺愛していた。
 長年も異性とは無縁の私には羨ましく見えた。
 いや、そんな事よりも幸せなエドナの顔が見れて私は幸せを感じていた。
 姉の幸福を祈るのも妹の役割だ。
 祝福をしてあげるのも束の間、エドナが席をはずしたところを見計らって、私は彼女の彼氏に襲われた。

 容姿を気にいった。
 エドナなんかよりも可愛い。
 そんなくだらない理由で彼氏はエドナを差し置いて私と行為に及ぼうとしたのだ。

 魔術で反撃してやった。
 私を辱めようとしたことへの怒りではない。
 エドナの想いを踏み躙ったことへの怒りである。

 私はエドナの彼氏を半殺しにしてやった。
 戻ってきたエドナがその光景を目の当たりして卒倒しそうになったが支えてやりながら、ことの経緯を説明する。

 これで解決だ。
 楽観的に思っていた私にエドナは殺意をむけた。
 獣耳を刃物で両方切られ、頭からダラダラと血を流す私を彼女は容赦のない追撃を何度も何度も繰り返した。
 信じてくれなかったのだ。

 魔術での反撃は簡単だ。
 だけど私には、とてもそんなことが出来なかった。
 殺される前に逃げればいい。

 窓から飛び降り、風魔術で衝撃を抑える。
 エドナや宮殿の人たちに追われないぐらい遠くまで逃げなくてはと、満身創痍で私は宮殿から去った。

 ふたたび孤独になった私は魔法使いとして旅をしていた。
 目的なんかない、孤独な旅。
 人との関わり合いは怖い。
 触れ合いたくない。

 あの日のトラウマから人との関わりを断絶した私は偶然、盗賊に襲われていた商人とその家族と遭遇して、なにも考えずに助けやったのだ。

 盗賊を追い払い、その場から私もとっとと離れようとしたけれど、商人とその家族に呼び止められて感謝をされた。

 やりがいが私の孤独心を埋めた。
 初めて必要とされている気がしたのだ。


 世界でも認められる豊かな土地。
 平和町に私は訪れた。
 魔獣を引き寄せるというマッチの形をした魔道具を手にして、魔獣を追い払って英雄を演じた。

 人の笑顔を見るだけで幸せだ。
 人を救うだけで心が安らぐ。
 私はもう孤独ではない。

 それなのに、それを邪魔する旅人が現れた。

 許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない。

 私の安らぎと平穏を邪魔する者なら排除してやる。
 誰かに、必要とされる為に———
 

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