S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

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第1章 ー愚者編ー

第18話 『災いを齎す七大使徒、襲来』

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「ーーーうん? なにか聞こえたような……?」

『深追の森』を抜けて、塀で囲まれた村を目前。
 突然、背後の森から声が聞こえて足を止める。
 だけど、完全に人の声ではない。
 モンスターの鳴き声だ。

「ネロ、足を止めなくてもいいわ。そろそろ村に到着するから」

 ミミを抱えながら気持ち良さそうにモフモフしているリンカに、背中を強引に前へと押し出された。

「ご、ごめん」

「ふにゃ~……帰りたくないよぉ」

 悔しそうに言いながらも、リンカの撫で撫でに喉を鳴らして気持ち良さそうにしているミミ。

 流石はリンカ、器用だけあって撫でるたびにミミが気持ちよさそうにしている。
 リンカも満足しているし、ミミも満足にしている。
 なんだか、とても微笑ましい光景だ。

 と言いたいところ、ボクらが悠長にしていられるのは今だけだ。
 村を囲む塀の門に辿り着くとそこには、猫耳を生やした誰得だよ状態のゴッツイ見張り役の男性が2人、槍を手にやってきた。

 ミミを目にすると、2人揃って嬉しそうな声を発した。
 その表情は堅いまんまだけど。

「よくぞ、ご無事に帰還してきたぞミミ!」

「ああ……! 村長が多大な心配をなさっていたぞ!」

 強張った顔で男性らはミミを見ながら言う。
 それでもミミは顔を青ざめていた。
 さっそうとリンカの背後へと、ひょこっと姿を隠してしまった。

 ボクも、ミミとリンカの前に出る。
 いつでも応戦できるように、体のあらゆる部分に武器を隠し持っている。
 リンカも同様に靴の中とかに刃物を忍ばせていた。

『開門!!』

 男性はボク達では理解出来ないであろう獣人語を大きな声で塀の反対側に向かって叫ぶ。
 少しして門が開くと、何事もなく村の通過を成功した。




 ※※※※※※




「ダメだ……トレスがこの状態じゃ依頼は続行出来ない。村へと一旦引き返そう」

 すでに身も心もボロボロに朽ち果ててしまったトレスを抱えながら、深刻そうな様子でサクマは言った。

「……」

「そ、そうだね……」

 このままトレスをほったらかしにして依頼を続けたりしたら、彼の命にも関わってしまう事態が起こりかねないかもしれない。

 心から心配しているのはカレンだけで、サクマとアリシアは非常に面倒くさそうにしていた。
 一方のジュリエットは、いつも通りに無言で荷物の整理に取り掛かっていた。

「ジュリエットも、どう思う?」

 急にサクマから意見を聞かれて手を止めるジュリエット。
 冷たい眼差しはなるべく抑えながら、サクマの方へと振り返った。

 彼にはあまり恨みはない。
 困った表情のサクマを見て分かるけど、トレスの言う通りに行動しただけの被害者だろう。
 だけど、彼とも仲良くやる気は全くもってない。

「……異論はないわよ」

 それだけ言うと、ジュリエットは荷物の整理へと戻った。
 そもそもトレスが死のうが生きようが、ジュリエットにとってはどうでもよかった。

 死ねとまでは言わない。
 けど、彼には鉄槌が必要だ。

(不幸な男ね。ネロくんが居なきゃ、冒険者なんてロクにやっていけないくせに……)

 ジュリエットには全て分かっていた。
 トレスの深刻なまでの運の無さと、ネロの異常なまでの幸運値によって自分たちが助けられていた事を。

 ネロ自身も気がついていない様子だったが、彼には特殊な能力がもう1つ備わっている。

 幸運値を自分だけではなく周囲の人にも反映、すなわち幸運を分け与えることが彼には可能である。
 発動条件は、対象に信頼と仲間意識、守護してやりたいという感覚を意識した時だ。

 そもそもこのパーティが結成された当初は『落ちこぼれの鏡』と呼ばれるほど、欠点だらけで有名なパーティだった。
 そんな底辺なパーティがS級なんかに昇格できるはずもない。

 だけどネロが加入したのがきっかけで、パーティメンバー達の能力が急激に上昇し始めた。

 普段なら失敗を続出させるはずのカレンやアリシア、超不幸なトレスでさえ成功が目立つようになって、収入も倍に増えていって、次第に上級者の仲間入りをしたのだ。
 それもたったの1年間という短期間で。

 ジュリエットは最初から気づいていた。
 自分ら『漆黒の翼』が成り立っていた理由が全て、戦闘ではサポート役にしか回れないネロのおかげなんだと。
 トレスの不運も収入も名誉も、全てネロの存在があるからこそである。

 いつも仲間から酷く罵られ、こき使われてもなお笑顔を絶やさずに働くネロにいつの間にか、ジュリエットは『信頼』から『大好き』という感情が芽生えるようになっていた。

 ネロは自分より能力が劣っている、だからこそ守るべき対象としてジュリエットはネロをいつしか『一緒に居てやりたい』『支えてやりたい』と感じていた。


 胸に手を当てながらジュリエットは、指にはめている指輪に小さくキスをする。

「ネロくん、また貴方に会えるのなら……ずっと………………

 ドゴォォォオォオォオン!!!!!!!!!!!

「キャッ!!?」


 小声で呟いていたジュリエットの言葉を妨げるように、どこか遠くから強い衝撃と大きな爆発音が鳴り響いた。

 目を瞑り身構えるジュリエットだったが、迎ってくる強い衝撃に耐えられず、吹き飛ばされてしまう。

「チッ! 何やっているのよバカ!」

 衝撃で吹っ飛んでしまったジュリエットを受け止めるため、両手を合わせたカレンは土に魔力を流して、壁を錬成した。
 ジュリエットはカレンの錬成した壁に受け止められる。

 衝撃がやってくるのを一足早く察知していたカレンは衝撃に備えるため、野営に高い土の壁をさらに錬成して周囲を囲む。

 おかげで怪我を負わずに済んだものの、外に置いていた荷物が湖の方へと吹っ飛んでいってしまう。
 特にトレスの大切にしていた貴重品が入っている荷物が。

「くっ! なんなのよ、この衝撃は……まさか襲撃!?」

「いや、多分対象は俺らではなく森の奥にいる何かだ!!」

 崩れてい土の壁を避けながらサクマは、ポケットから方位磁針を取りだす。
 ユラユラと揺れる赤い針を目で追う。

「えっと、この方角は……『獣人の村』の方!?」

 彼の持つ方位磁針の赤い針は丁度、今回のクエストの依頼者達の住処としている村の方にまっすぐ向けられていた。

 確かではないが、村の方角で何かしからの出来事が勃発している。
 それはきっと、よからぬ事がだ。

「こんなの私たちだけじゃ対処できないわよっ! ひとまず、この件はほっといて王都のギルド本部に報告するしか……」


 強い恐怖に駆られながら動揺するカレンは、自分達の身を優先させる為の提案を口にする。

 仕方なくそれに同意しようと、アリシアとサクマは頷こうとした。
 けど、その提案を無視するようにジュリエットは、村の方へと走っていく。

「ちよっと! 何処に行くのよジュリエット!!! 待ちなさい!!」

「うっさいわね!!」

 呼び止められようが、ジュリエットは構わず1人で森へと入ってしまった。

(この感覚?  私は知っている、ずっと側に居た私になら分かるこの温かい感覚………もしかして)

 ジュリエットは僧侶の服装である長くて白いローブを脱ぎ捨てながら、なにかしらの期待を胸に走り続けた。

 そんな彼女の赤い瞳から、涙が浮かんでいた。




 ※※※※※※




「よくぞお帰りなさいましたね、冒険者の方々よ」

 村を通過したボクらを待ち構えていたのは、ミミの叔父である村長。
 背後で控えている母のユーフェルトと父のペドラムだ。

 いや……彼らだけではなかい。
 鋭意な槍を構えている、戦闘に特化していると言われている獣人達らも数10人ほど、物騒なお出迎えをしてくれた。
 それもかなりの殺気も交えてだ。


「報酬はギルドの方へと振り込んでおきましょう。さあ……ミミをこちらに」

 今、目の前で笑っている村長の様子がおかしいと感じ取っているのは、ボクだけではないはずだ。
 背後で既に戦闘モードに突入の準備を済ませている、女盗賊のリンカが何よりの証拠だ。

 一方、ミミは涙目でブルブルと大きく震えながら、顔を青ざめている。
 この状況、ボクが出した答えは。

「分かりました」

 リンカの眉がびくりと動いた。
 無理もない、こんな物騒な奴らに易々と小刻みに震えているミミを受け渡すことを了承したのだから。

(なに馬鹿な事を言っているのよ!  この子の話を聞いていなかった?   
 あんな野蛮な連中にこの子を引き渡しても、ミミの無事は保証できないわよ!)

「……………しっ」

 納得いかなくボクに耳打ちをするリンカを制したのは、この場で存在を認識されていないフィオラだった。

 フィオラの表情から、なにも感じ取れない。まるでボクに全ての状況を委ねるかのようだ。

 イラつきながらも、リンカは黙り込んだ。
 それを確認してから、ボクは話を続けた。

「その前にまず、質問をしてもよろしいでしょうか?」

 なるべく慎重に相手の気に障らないように聞いた。
 すると村長は、髭の生えた顎を撫でながらニヤリと笑った。

「ふむ、いいでしょう。答えられる範囲ならばお答えしましょう。けど質問が終わり次第、ミミをこちらに引き渡して貰いますよ?」

「ええ、承知しています。ではまず……」

 ボクは背後で震えているミミへと近づき、彼女の身長に合わせるように腰を曲げて、耳元で小さく呟く。

(安心して……キミの思うような悪い結果にしないから)

(ニャ……?)

 ミミに優しく笑いかけて、なるべく彼女の心配そうな表情をほぐしながら、その手を取った。

 余裕な表情を固定させた村長へと向き直り、ボクはミミの腕をすべてを覆った袖をめくった。
 そして、強いめ問い詰める。

「『この痣』は何なんでしょうか!  見るからに魔物ではなく人の手によりって負ったような怪我なんですけど?   偽りなく答えてくれるでしょうか?」

「…………」

 槍を持つ獣人らの殺気が増していくのを感じたが、脅威ではない。
 いざかかってくれば、手加減しながら薙ぎ倒せばいいだけの話だ。

 耳を傾けながら返答を待つが、村長は知らん顔で笑った。

「さあ?   私では到底検討もつきませぬなぁ。ミミの自傷行為なのか……はたまた何かの手によるモノなのか」

「しらばっくれるなっ!!」

 村長の他人事のような態度が気に食わず、強めの声がボクから発せられていた。
 いつも通りのボクらしくない姿に、待機していたリンカとフィオラが驚く。

「ふふ……なにをでしょうか? 私にはさっぱり貴方の怒りの理由が解らない」

「なにも知らず……ミミの事情を何も知らずにノコノコと貴方の前に現れて、質問をしているのだと思っているのか!?  これはこの子の自傷行為によって負った怪我ではない!」

「しかし、彼女は魔力の出力により暴走してしまう事が多々ある。気がつかずに自らを手にかける事だって……

「ミミからお前らのしてきた事、真実を全て聞いているんだ!!」

 ボクは村長の言葉ではない、ここで誰よりも痛々しい思いをしたミミの言葉を、ボクは信じることにした。
 たとえそれが全て偽りであろうと。

 大体、さっきから村長の様子がおかしい。
 何かに取り憑かれたかのように全員、瞳が非常に虚ろである。

「根拠はあるんですか?  ないなら戯言です。いいからとっとと彼女を渡しなさい。さもないと……」

 村長のそばで待機していた槍を構える獣人達が前へと踏み込む。
 ボクは咄嗟に武器の短剣を手に取り、背後にいるフィオラを見ながら声で頼んだ。

「フィオラ!!」

「うん!」

 鞘から抜いた短剣がフィオラの吹いた息に反応して、巨大な結晶の剣へと姿を変えていった。

 そのまま、立派な姿に生まれ変わった自分の武器の切っ先を村長へと突きつける。

「ーーーーお前は、いったい何者なんだ!!?」

 気がつけば村長の姿はもう、そこには無かった。

「ふふふ……まさか、気がつかれるとは思いませんでしたよぉ。ここまで勘の鋭い若造はかの勇者エリーシャ殿以来ですよ」
  

 村長は指をパチンと鳴らした。
 すると突然、霧のように濃い靄が周囲に満映する。同時に周囲の風景は元の禍々しい形を取り戻していった。
 幻影魔法だ。

「な、何よコレ……?」

 気づけば、村は荒廃した姿をみせる。
 獣人もおろか、人の気配が全く感じとれない。

 この場に居るのは、ボクらの目の前に佇む元凶である悪魔の姿をした1人の男だけ。

 額には殺傷能力のある黒いツノ、赤混じりの黒い鋭い牙、人間と大差ない体型、黒いローブに胸の紋章。
 魔王軍の紋章である。

「ーーーーお前は!!!」

「ネロっ!?」

「ネロ様!!」

 身なりのいい男は背筋を伸ばしながら、手を腰に回して姿勢よく立った。

 まるで自分が攻撃されないと言わんばかりに。
 だけどボクは、既に奴の元にめがけて『女神の加護』で包まれてるいる剣を手に突進していた。

「私をご存知あるようですね。そうです!  私は魔王軍! 魔王様に直属仕えているーー七大使徒ーーの1人『第六使徒ビリー・ゼバブ・ベロフィーク』であります。それでは私を知る愚かな少年よ! 貴方は誰でしょう!!?」

 答えはもう決まっている。 
 ボクはあの日、村を葬られた悲劇を忘れたりはしていない。
 奴は過去、ボクの目の前で両親を殺した。
 エリーシャを傷つけた。

 到底、許される行為ではない。

「お前に故郷を奪われた復讐者だ!!!!」

 尋常の肉眼では到底追えないであろう速さで至近距離まで接近した。
 ビリーとの距離をわずかに詰めたところで復讐心、憎悪、怒りという想いを一撃に込める。

「ふふふ、愚者めっ!」

「ーーーーーー!!!?」

 余裕をみせる奴の表情を最後に、肉がはち切れんばかりの強烈な衝撃がボクを襲った。
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