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第6章 ー精霊願の日編ー
クロスオーバー2
しおりを挟む人を殺す。
という経験はない。
それでも記憶の片隅でだけ覚えていた。
肉を素で切り裂く感覚を。
幼少期までの記憶はあるのに。
経験がないはずなのに、感触が残っているのだ。
瞼を開けたネロ。
そこには新たな旅路の軌跡が広がっていた。
不確かな過去のことなんていい。
さぁ、進もう。
――――
帝国軍、軍服の集団が待っていた。
リンカが嫌味のある顔をしていたがジュリエットはその上をいく表情を彼女にむけた。
「リンカさん、問題ごとはナシだからね」
「わっ、わかっているわよ!」
彼女らがそんなやりとりをしている間、ネロは代表者と名乗る帝国軍『空を飛ぶ船』の船長に詳しいことを聞いた。
ここに呼ばれたのは優秀な者だけ。
招待状は各国に送られる。
半分以上が搭乗を拒否してしまったと船長は言った。
それなのにポジティブそうに笑った。
上着の襟が顔の半分を隠していたから、どういう顔なのかは分からなかったが悪い人ではないことは人柄からして分かった。
「ほかに招待された奴らはもう全員乗り込んでいるから、燃料やらを補充したらすぐに出発するぞ」
「はい、ではよろしくお願いしますね」
丁寧に頭を下げる。
続くようにジュリエットが、慣れない様子のリンカが頭を下げた。
荷物を帝国兵の乗員に預けてから乗り込む。
甲板には人影はなかった。
皆、部屋にいるのだろうか。
そう思いながらネロは広い船内を歩き回る。
リンカたちは自室に荷物を置いてくるといっていったん別行動である。
船の内部は大勢のクルーを想定していたのか部屋が有り余っていた。
酒場やカジノになりそうな空間。
さらに奥には大浴場があった。
お湯は沸いていないけど、心が躍っていた。
混浴ではない。
しっかりと女子用と男子用で分かれている。
一緒に船に乗り込むことになった人たちと、ここで汗や汚れを流すのだ。
どんな人がいるのだろうか、楽しみにしながらネロも指定された自室に行こうとした。
その途中、誰かとぶつかってしまう。
ぶつかった人は何かを落とした。
すぐさまネロは落とし物を拾い上げた。
亀裂のある指輪だ。
「すみません、不注意でした!」
落とし物を返しながら謝る。
だけどぶつかった男性は穏やかにほほ笑んだ。
「あ、いや僕もぼーっとしてたから。ごめんね」
視線を男性の顔に向ける。
思わず声を漏らす。
その顔には見覚えがあった。
ずっと昔、懐かしい記憶がよみがえる。
「―――父さん?」
忘れるはずがない。
燃え盛る故郷で、消えたはずなのに。
死んだはずの父親が目の前にいた。
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