S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

リメイク版

第1話 「リザレクション」

「アナタの運命を私にください」


　神々しい女神が手を差し伸べた。
　息をするのも困難な、満身創痍の青年にそっと優しく。

「死にたくないのなら手を取るのです。これは正統な契り。『交命の契り』なのです」

　鮮血に濡れた手を死に物狂いで伸ばしながら青年は言う。

「………生きたい、僕はまだ……生きたい」

　人は産まれる時、必ず加護を与えられる。
　この青年ネロにも与えられた加護、それは『幸運の加護』。
　文字通り、青年は非常に幸運だ。
　しかしそれは一時的であり、一つの幸運な出来事に遭遇すればその代償はあまりにも大きい。
　青年ネロが幸運になればなるほど周囲や自分自身に、想像を絶するほどの厄災が降り注ぐのだ。

　命も例外ではない。
　巨額の富を得れば、いや、得てしまったら身近な誰かが死んでしまう。
　だからこそ誰よりも幸運な青年ネロは、誰よりも不幸だった。

　こうして死にかけているのも、その幸運な加護が原因だ。
　望んでもいない力に翻弄された末に息絶えようとしているのだ。

　死。
　それは生命線の終着地、生きとし生けるものに与えられた抗うことのできない絶対的運命。
　しかし、それを目前にしてもなお青年ネロは抵抗の意を決して緩めない。
　彼が生きたいというのは、彼にはまだ遂げてない願望があったからだ。
　それは単純すぎる、至極当然の生存本能。

「この命がちっぽけなものではないことを……証明するために……」

　青年ネロはまだ手を伸ばしていた。

「証明するために？」

　女神は覚悟を確認すべく問い質した。
　すると死手前一歩だったのが嘘のように青年ネロは覚醒し、強大な力をその身に宿しながら叫んだ。

「…………この命、いくらでも捧げてやる！　僕を生かせ！　生かせてみせろ！」

　青年ネロの言葉に女神は驚きながらも小さく微笑み、彼の手を掴んだ。

「では契約は成立ですね」


　青年ネロの手を女神は引いた。
　それは死の境地から引き上げるためであり、番となった者を救うためでもあった。
　女神との契約はすなわち、これから如何なる時であろうと運命を共にすることである。


　彼らの物語は、いまここで再起する。