S級パーティから追放された幸運な僕、女神と出会い最強になる〜勇者より先に魔王討伐を目指す〜

灰色の鼠

文字の大きさ
1 / 62
第1章 ー愚者編ー

第1話 『幸運なボクS級パーティから追放される』

しおりを挟む
 

「キミをここに呼んだのは他でもない。
 今日限りでキミはクビだ」

 ある日、酒場に呼ばれたボクは『漆黒の翼』という名前が非常にダサい実力派パーティ、そのリーダーであるトレスさんの追放宣言にあんぐりと口を開けていた。

「え、あの唐突に何なんですか……?  クビって、僕なにかしたのですか?」

 あまりの驚きと、トレスさんの迫力に言葉が詰まってしまった。
 一方のトレスさんは、僕に思考の整理の猶予も与えないかのようにテーブルを破壊する勢いで叩いた。
 彼はそこから身を乗り出し、恐ろしい視線でボクを睨みつける。
 周囲で食事を取る客達の注目がこっちの方に集まってきた。

「は?  お前とぼけているつもりなのか?」

 それでも構わずトレスさんは続けた。
 同時に彼から放たれる威圧が重々しくて、返す言葉が遮られてしまう。
 まるでボクを喋らせる気がないようだ。
 知っている、これが昔からの彼の得意の手口である。

「それはつまり、今まで俺らのお荷物になっていたことも?  俺らがどれだげお前のために世話を焼いていた事も?  お前が、役立たずのタダ飯喰いだってこともか?」

 自覚はあまりない。頑張ってきたつもりだったのに、何故だろう。
 トレスさんの発する言葉が、次々とボクの胸に深々と突き刺さっていった。
 睨みつけられる視線も精神的に苦痛だ。

 しかし、それは彼だけではないようだ。

 テーブルを囲む仲間《パーティ》。この場にいない1人は除いて、メンバーの全員がボクに非難の眼を注いでいた。

 そう、全員だ。
『漆黒の翼』のパーティは全員、ボク含めて6人。

 勇者としての候補を待つ最強の剣闘士であるパーティのリーダー『トレス』。 
 彼の腰の鞘に収められた聖剣はこの世で最も貴重とされている鉱石により作り上げられた代物だ。

 あらゆる物質を生み出せる錬金術師筆頭の『カレン』(トレスさんにゾッコン)。

 この世界の果てにいる幻獣ドラゴン、フェニックスをも従える幻獣テイマーの『サクマ』(カレンちゃんにゾッコン)。

 あらゆる属性魔法、精霊魔法を駆使する魔道士の『アリシア』(サクマさんにゾッコン)。

 いつかは壮大な修羅場が繰り広げられそうなパーティにちょこんと、影薄く兎のように投下されている超絶幸運値の高いボクこと『ネロ・ダンタ』である。

 仲間が全員とても心強い。
 けど脅威にしたりはしたくない恐ろしいパーティメンバーらに、鋭い眼光を向けられてしまい震えながらボクは縮こまっていた。

「サイクロプス戦で逃げ回りながら、たったのかすり傷程度の怪我で泣き叫んでいるヤツがどうして、そんな仲間ヅラが出来るのかしらねぇ~? なーんだか不思議でたまらないわ」

 爪をいじりながら、まるで話題に眼中が全くないような仕草でカレンちゃん。
 だがその言葉が痛い。


『サイクロプス戦』
 ギルドの特級の依頼『サイクロプス討伐』。準備万端で挑んだ難易度高のクエストだ。

 問題はなかったはず。
 パーティの皆は無傷で順調に迷宮を進んでいた。
 それに、疲れをみせていたのはバックアップのボクだけで、周りは汗一滴もこぼしていない。

 数時間の探索で、異様な迫力を放つサイクロプスをなんとか発見したが、想像を絶する程に強力な魔物な為だった為か、戦闘は苦戦を強いられてしまった。

『ラック』ステータスの幸運値がMAXなだけのボクは、言われるまでもなく足手まといなので、後方のフォローとして配置された。
 役には立とうとしたものの、そう順調にはいかず、テンパったりの連続だった。

 けど、役割には専念したつもりである。

 主にアリシアさんやサクマさんに回復薬の受け渡し、背後から攻めてくる雑魚の処理をも(倒しきれない分、嫌々アリシアさんが殲滅)担当していた。

 確かにお荷物のような存在なのだが、彼らの荷物を運んでいるのは実際ボクの方だ。
 おかげさま毎日のように肩が凝って堪らない。

 だけど、トレスさんやサクマさんという男性陣に怒られたくないので仕方がない。
 無茶な頼みごとでも断ろうとせず、なるべく承諾してきた。
 それなのに、やはりその程度じゃダメだったというのか?

「……考え抜いて至った結論はよ、戦闘では役立てないザコは必要ないって……トレスが言ってた」

 呆れながらペットであるチビドラゴンに餌を与えているサクマさんが口を開いた。
 一見微笑ましい光景に見えるが、彼の口から吐き出される言葉が1つ1つにダメージを受けてしまう。

 そして気付かされた。
 ボクはこのパーティにとって完全な無能なんだと。
 自覚はしていない、しようとしなかっただけかもしれない。
 けど面と向かって言われると、とてもじゃないが否定できない。

「……ああ」

 打ちひしがれたボクは座っていた椅子から倒れて床に尻もちをついてしまった。

 テーブルに座る仲間達を見るが、ボクよ期待を反して誰しもが動こうとはしてくれなかった。
 手を差し伸べようとしてくれる仲間など1人としていない。
 そこにはただーー

「そ、それでもさ。ボクだって精一杯みなさんに迷惑が掛からないようにわきまえて……」

「精一杯だって? そんなもの、報われたことなんてないじゃないか!」

 苛つきながらトレスは地団駄を踏んだ。
 流石は勇者候補の一人か、地に足が着いた時の振動がここまで伝わって思わず立ってしまった。

「そうよそうよ!  1番努力して精一杯頑張っていたのはトレスよ?  せっかく報われてきた人のパーティを台無しにすることが、アンタには出来るのかしら?」

 後ずさるボクを面白おかしそうにジト目で見つめ、周りに同調しながらカレンちゃんはボクに言葉を突き刺してくる。
 同時に、そばにいたアリシアが無言で頷きカレンちゃんに同感。

 胸から腹元までが孕まれたかのような、そんな感覚が伝わってきた。
 涙を決して流してはいけない、鼻をすすりながらボクは言葉を探す。

「やっぱりボクは本当にもう……皆さんからは必要とされていない存在なんですか?」

「お前を必要としたことなど今まで一度もない。これまでも、これからもだ」

 枯れてきた声をグラスに注がれた水で潤わせ、口を拭ってからトレスさんは続けた。

「正直、他とは比べられぬ程の幸運を持ったキミに最初は期待していたさ。
 けど裏切られたのはお前ではない、俺達だ。 夜な夜な後悔したさ、お前をパーティに入れてしまった愚かな自分を。他の仲間たちに迷惑をかけてしまった行いを。そして………お前という存在にな!!」


 いつの間にか彼は、ボクのすぐそばまで距離を詰めていた。
 反応する前にトレスさんは拳を握りしめて、それをボクの顔面に叩きつける。

 一瞬、気が失いそうだったが意識は消えない。
 しかし、巨大な針に刺されたかのような激痛が口の中を襲い、同時にボクは酒場の外まで吹っ飛ばされてしまった。

 視界がボヤけて、口の中きら鉄の味がする。
 済ませた耳に聞こえるのは喜びの声を上げて「やれ! やれ!」と観戦するパーティメンバー達だ。

 気がつけば駆け寄ってきたトレスさんに襟を掴まれ強引に立たされる。
 トレスさんがサクマさんにアイコンタクトを取ると、サクマさんはボクの装備を一式を外し始めた。

 抵抗できるような状態ではないボクは重装備を外されていき、そのまま酒場の外の大通りにむかって無造作に放り投げられてしまった。

「ぐはっ!」

 大通りなので通行人が多い。
 なのにどうしてだろうか?  どうして目を合わせてもこんなに、人が通り抜けて行く?

 ボクに気がついても声を掛けようとする者など、1人として居なかった。

「お前、いやネロ・ダンタ!
    お前とはもうこれっきりだ!! 2度と俺らの前に姿をみせたりするな!  もしまた、俺らの前に現れることがあったら殺してやる!!」


 トレスの言葉に、怒りと殺気が混じっていた。

 言い返せる言葉が思いつかない。
 握りしめた拳の隙間から血がポタポタと垂れ、噛んだ唇から熱く鉄臭い液体が流れる。
 笑う彼等を睨みつけようとしたが、ボクは彼等に背中を向けることに決めた。

 そしてそのまま、その場から逃げた。

 背後から、奴らの醜い笑い声が聞こえてくる。
 ボクはできるだけ彼等の声が届かないように、必死に耳を塞いでみせた。

「うぅ………」

 気づいたら、あまりの自分の無力さに泣いてしまっている自分自身がいた。

 人混みをかき分け、つまずいて倒れても、ボクはとにかく奴らから逃げるために走り続ける。

 目的は特にはない。
 ある運だけを頼りに、ボクは無我夢中で街の外へと出て行った。


 すると、復讐の業がどこからか胸の奥から発火し始める。
 そして、いつかヤツらに復讐してみせると夜空にむかってボクは嘆いたのだった。

「……ああああああああああああああ!!!!」

 はちきれそうな声が静寂な空間を歪んだ。

 自分を裏切った奴らへの憎しみ、無力な自分に対しての怒り、あの場に居なかったもう一人の仲間の前から去った悲しみ。
 様々な感情が心の中で1つへと収束していき、虚ろになりゆくボクは改めて実感した。



 ーーボクには仲間と呼べる存在が一人として居ないんだと。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...