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第2話 「孤独の教室でメインヒロインと遭遇」
しおりを挟む魔術学院生活が二年目になった。
相変わらずの不変的な教室だ。
教室の後ろの席で、寝たフリをしながら周りを覗くように見回す。
いつものグループらが楽しげに雑談していた。
陽キャのグループ、陰キャのグループ、女子グループ、男子グループ、優秀なグループ、オタクのグループ、様々だ。
個性のある者がいれば、そうでは無い者もいる。
どこにも所属していない無個性な俺もその一人だ。
別に陽気な連中らのことが気になったわけではない。
「楽しそうだな」ぐらいしか思っていないからだ。
誰かに対して、意味のない嫌悪感を抱くのは捻くれている人間のやることだ。
俺もその一人であることは変わらない。
何故なら教卓前の机に群がっている主人公リュート様のハーレムグループに無性に苛立っていたからだ。
「リュートくん! 次の休み時間、お昼一緒に食べよ!」
「もちろん一緒に食べてやるよライザ、だからそんなくっつくなよ」
「ずるいです。私もリュートさんの為にお弁当を作ったのですから混ぜてください」
「ユキナ、弁当なら自分のを持ってきているから……けど、せっかく作ってきてくれたならご馳走になるけどさ」
「嬉しいです!」
クラスの人気者の風紀委員ユキナにまで好かれているせいで男子たちは嫉妬の目をリュートに向けていた。
ま、彼はそれを気にするほど繊細な奴じゃないから視線の意図を永遠に理解することはないだろう。
そういう鈍感な奴だ。
「私を差し置いて他の女の子とお食事だなんて、風上に置けないわね。バツとして私も連れていきなさいリュート」
上流貴族のお嬢様エミリアもがリュートに夢中だ。
なんか、美少女たちとのイチャイチャつき度が過ぎているようにも見えるが日常茶飯事なので俺含めてクラスメイト達は皆、慣れた光景である。
ちなみにアレは一部でしかない。
一年間でリュートは学院にいる様々なヒロインとのフラグを立たせているのだ。
なんて残酷なことを、と思う。
クラスメイトだけに限らず交流の少ない女の子にも愛されるとなると、それはもはや狂気だ。
不幸になってしまうヒロインがあまりにも多すぎる。
ただでさえ鈍感系の主人公だというのに、ヒロインズたち全員が挑めば玉砕する子が現れてもおかしくないだろう。
リュートはそれを考えているのか?
否、キスをされてもその子の好意に気づけない馬鹿なので全員を幸せにだなんて無理だ。
ライザもその一人だ。
ああ、なんでよりにもよってリュートを選んだのか疑問でしかない。
俺の知らない間に何かしらのイベントが起きたに違いない、じゃなければ好きで留まるはずだ。
ただライザのは好きというより、愛しているだ。
どうしようもなく愛しているのだ、リュートを。
好きだった子が知らない間に他の男を愛している光景なんて辛いだけだ。
同じクラスなら尚更、毎日が地獄に等しい。
しかもリュートは彼女の分かりやすい好意にすら気づかないのでムカついて仕方がない。
授業が終わった放課後。
「……やれやれ」
幸せの絶頂にいるかのような笑顔でそう言いながらヒロインたちと学生寮に帰っていくリュートを見届ける俺の心は完全に憎悪で満ちていた。
だが、俺がどうこうしたところで敵わない相手だ。
魔王を討つほどの奴に真正面から挑めば、瞬きの動作だけで砂埃になってしまう。
なので影で動けずにいるヘタレのままのモブを演じる。
存在そのものが空虚で、俺は一生なにも言えずに影の中で死んでいくのだろう。
それが嫌なはずなのに、なんとかしたいはずなのに、何かに怯えて一歩進めずにいる自分がいた。
葛藤の末、誰にも気づかれず教室に取り残された俺は冷静さを取り戻し、帰ることにした。
授業に使った魔術書を抱え、教室を後にしようとする。
トビラを開け廊下に出ようとした瞬間、誰かとぶつかってしまった。
相手は「キャッ」と驚くように声を上げ、床に倒れこんだ。
「ご、ごめん」
慌てて謝り手を差し伸べる。
「いえ……こちらこそ教室にもう誰も居ないと思っていたから注意不足だったわ。ごめんなさ……あっ」
モブなので他人から透明人間として扱われのは慣れている。
悲しくはない、はずなのに。
見上げてきた彼女と視線が交差する。
彼女は何かに気づいたかのようにこちらを見つめ、そのまま無言になり固まってしまう。
よく見れば、この女の子見覚えしかないぞ。
小柄で妖精のように可愛い容姿。
艶やかな短髪と、緑色の瞳。
魔王討伐に貢献した最強の魔術師ドロシーさんじゃないか。
しかも、我らがハーレム主人公リュートがどのヒロインにもなびかないというのに、唯一奴が好意を寄せている絶対無ニの存在。
この物語のメインヒロインだ。
「あれれ、ヘリオスくんじゃない」
名前を口にされ、目を大きく見開く。
何故、どうして、なにゆえ俺の名前を存じ上げているのか、分からないまま思考停止してしまう。
蚊帳の外にも居ない空虚な人物だぞ、俺は。
だがこのメインヒロインは俺を知っていた。
まさか、この出会いが物語の歯車を大きく狂わせるターニングポイントになるとは、主要人物たちと俺には知る由もなかった。
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