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4月18日 サ終のおしらせ
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だれも声を出さない。多分、出せないのだ。カナタがそうであるように。
『ミキニャ、今日はもう落ちるニャ……』
呆然としたミキニャの声と同時に、猫耳のアバターが消えた。気づけば酒場のプレイヤーが減っている。
『儂にも気持ちの整理をする時間が必要じゃ』
ウワバミのアバターが消える。テーブルはカナタとユーリのふたりだけになっていた。
今日はなにをする予定だったっけ? 公開されている伝説はもう集め終わっていて、みんなでプレイヤーたちが作ったおもしろ伝説を探していた。そう、せっかくなら4人で新しい伝説を作ってみようかなんて相談している途中だった。
『終わっちゃうんだ……』
やっと声になった自分の言葉に、息が止まるかと思った。冗談じゃなく、この世界が翼のすべてを占めていたのだ。
『外、行かへん?』
すでに立ち上がったユーリが穏やかに誘ってくれる。酒場を出て街中を進み、震える指先で操作した先は、ハーミット城の中にある泉だ。
『レオマの神殿、行きたいんやけど』
ええかな? 遠慮がちなユーリに呆然としたまま頷いて、泉の中へと足を踏み入れる。まばゆい光に視界が奪われると、次の瞬間にはまったく違う景色が広がっていた。
神殿の門をくぐれば、豊かな水が溢れる噴水が月の光にキラキラと輝いている。公式からのお知らせを知らないのか、数人のプレーヤーが神殿のなかに入っていた。
懐かしいな――。
強ばっていた心がほんの少し動き始める。
『ここでカナタが声かけてくれたん覚えとる?』
もちろん。あれはもう3年も前だ。
『うん。神殿の扉が開けられなくて、ユーリが立ち往生してた』
『だって、神官の祈りが必要やなんて知らんかったもん』
あのころのカナタはひとりで冒険することが多くて、パーティが必要なイベントは単発でメンバーを募ってクリアしていた。交流を継続することが怖くて、ひとりでレベルを上げていく内にタイミングをなくしていたのだ。
『夜中やったし、ログインしてる人もあんまおらんし……そういや、カナタはなんであんな時間にログインしとったん?』
覚えとる?
そんなこと、忘れるはずがない。深夜というにも遅すぎて、明け方に差し掛かる午前4時過ぎだった。
『あのころ、就職したばっかでしんどくて、なんか嫌になっちゃってて……ログアウトしたら朝になって仕事行かなきゃって、逃げてたんだよ』
そんなことしても、逃げられるわけないのに。
『やることもなくて、月夜草でも集めようかなってここに来て……』
そしたら、神殿の入り口でうろうろしているユーリを見つけたのだ。そのアバターに思わず声をかけた。普段だったら無視されるかも知れないと、初見プレイヤーには怖くて声なんかかけられないのに。
だって、アレックスにそっくりだったのだ。嫌で嫌で仕方なかった社会人生活の中での唯一の癒やしが、ときどきコンビニで見かけるアレックスだったから。もちろん、現実世界のアレックスに声をかけるなんて不可能で、だからゲームでならと勇気を出した。
――なにか困ってますか?
迷って、そう話しかけた。
疲れでぼんやりしていた頭が一気に興奮して、心臓がバクバクと脈打っていた。
ゲーム内では、アカウントに身分証明を登録している成人だけが、会話機能を使える。それも、話しかけて相手が許可した場合だけだ。カナタのプロフィールはほとんどが空白で、普通ならあやしいと拒否されてもおかしくなかった。
それでも、藁にも縋る思いだったのか、ユーリはすぐ会話に応じてくれた。
――神殿に入れへん。ジブン神官? 一緒に入ってくれへん?
大剣を背負った金髪碧眼の戦士から聞こえた関西弁がミスマッチで、張り詰めていた緊張が一気に解けたのを覚えている。
――いいよ。祈りの歌の伝説集めに来たの?
――そうやねん。これでメインの伝説コンプリートやから。
そう胸を張ったユーリの胸元には銀紋章があった。一緒になかに入って、出てきたときにはユーリの紋章は金に変わっていた。
――なぁ。一緒に最後の伝説を探さへん?
神殿を出ると、空が白んできていた。ゲーム内の時間は、現実の時間とリンクしている。ログアウトして、仕事に行く準備をしなければいけない時間だ。
――最後の伝説? それってただの噂だろ?
――噂やけど、ホンマかも知れんやん。制作者tsukiが仕込んだ、最後の伝説。あるんやったら見つけたい。
晴れ晴れとしたユーリの誘いに、一も二もなく飛びついた。ネットでは有名な噂だったのだ。
【ARK LEGENDには完全クリアの条件として、制作者tsukiが作った最後の伝説が存在する】
それから、これまで以上に翼の生活の大半がARK LEGENDになった。仕事での憂鬱なんかどうでもよくなって、ユーリと伝説を探すための時間をいかに作るかを考える。効率のいい業務遂行方法を選んでいくうちに、おのずと仕事にも慣れていった。人付き合いができなくても、気にならなくなった。
だって、ゲームの世界に行けばそこにはユーリがいて、一緒に冒険ができるのだ。そのうちにミキニャとウワバミが仲間になって、最後の伝説探しが生活の主軸になっていた。
『ミキニャ、今日はもう落ちるニャ……』
呆然としたミキニャの声と同時に、猫耳のアバターが消えた。気づけば酒場のプレイヤーが減っている。
『儂にも気持ちの整理をする時間が必要じゃ』
ウワバミのアバターが消える。テーブルはカナタとユーリのふたりだけになっていた。
今日はなにをする予定だったっけ? 公開されている伝説はもう集め終わっていて、みんなでプレイヤーたちが作ったおもしろ伝説を探していた。そう、せっかくなら4人で新しい伝説を作ってみようかなんて相談している途中だった。
『終わっちゃうんだ……』
やっと声になった自分の言葉に、息が止まるかと思った。冗談じゃなく、この世界が翼のすべてを占めていたのだ。
『外、行かへん?』
すでに立ち上がったユーリが穏やかに誘ってくれる。酒場を出て街中を進み、震える指先で操作した先は、ハーミット城の中にある泉だ。
『レオマの神殿、行きたいんやけど』
ええかな? 遠慮がちなユーリに呆然としたまま頷いて、泉の中へと足を踏み入れる。まばゆい光に視界が奪われると、次の瞬間にはまったく違う景色が広がっていた。
神殿の門をくぐれば、豊かな水が溢れる噴水が月の光にキラキラと輝いている。公式からのお知らせを知らないのか、数人のプレーヤーが神殿のなかに入っていた。
懐かしいな――。
強ばっていた心がほんの少し動き始める。
『ここでカナタが声かけてくれたん覚えとる?』
もちろん。あれはもう3年も前だ。
『うん。神殿の扉が開けられなくて、ユーリが立ち往生してた』
『だって、神官の祈りが必要やなんて知らんかったもん』
あのころのカナタはひとりで冒険することが多くて、パーティが必要なイベントは単発でメンバーを募ってクリアしていた。交流を継続することが怖くて、ひとりでレベルを上げていく内にタイミングをなくしていたのだ。
『夜中やったし、ログインしてる人もあんまおらんし……そういや、カナタはなんであんな時間にログインしとったん?』
覚えとる?
そんなこと、忘れるはずがない。深夜というにも遅すぎて、明け方に差し掛かる午前4時過ぎだった。
『あのころ、就職したばっかでしんどくて、なんか嫌になっちゃってて……ログアウトしたら朝になって仕事行かなきゃって、逃げてたんだよ』
そんなことしても、逃げられるわけないのに。
『やることもなくて、月夜草でも集めようかなってここに来て……』
そしたら、神殿の入り口でうろうろしているユーリを見つけたのだ。そのアバターに思わず声をかけた。普段だったら無視されるかも知れないと、初見プレイヤーには怖くて声なんかかけられないのに。
だって、アレックスにそっくりだったのだ。嫌で嫌で仕方なかった社会人生活の中での唯一の癒やしが、ときどきコンビニで見かけるアレックスだったから。もちろん、現実世界のアレックスに声をかけるなんて不可能で、だからゲームでならと勇気を出した。
――なにか困ってますか?
迷って、そう話しかけた。
疲れでぼんやりしていた頭が一気に興奮して、心臓がバクバクと脈打っていた。
ゲーム内では、アカウントに身分証明を登録している成人だけが、会話機能を使える。それも、話しかけて相手が許可した場合だけだ。カナタのプロフィールはほとんどが空白で、普通ならあやしいと拒否されてもおかしくなかった。
それでも、藁にも縋る思いだったのか、ユーリはすぐ会話に応じてくれた。
――神殿に入れへん。ジブン神官? 一緒に入ってくれへん?
大剣を背負った金髪碧眼の戦士から聞こえた関西弁がミスマッチで、張り詰めていた緊張が一気に解けたのを覚えている。
――いいよ。祈りの歌の伝説集めに来たの?
――そうやねん。これでメインの伝説コンプリートやから。
そう胸を張ったユーリの胸元には銀紋章があった。一緒になかに入って、出てきたときにはユーリの紋章は金に変わっていた。
――なぁ。一緒に最後の伝説を探さへん?
神殿を出ると、空が白んできていた。ゲーム内の時間は、現実の時間とリンクしている。ログアウトして、仕事に行く準備をしなければいけない時間だ。
――最後の伝説? それってただの噂だろ?
――噂やけど、ホンマかも知れんやん。制作者tsukiが仕込んだ、最後の伝説。あるんやったら見つけたい。
晴れ晴れとしたユーリの誘いに、一も二もなく飛びついた。ネットでは有名な噂だったのだ。
【ARK LEGENDには完全クリアの条件として、制作者tsukiが作った最後の伝説が存在する】
それから、これまで以上に翼の生活の大半がARK LEGENDになった。仕事での憂鬱なんかどうでもよくなって、ユーリと伝説を探すための時間をいかに作るかを考える。効率のいい業務遂行方法を選んでいくうちに、おのずと仕事にも慣れていった。人付き合いができなくても、気にならなくなった。
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