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4月18日 サ終のおしらせ
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『まだ見つけられてないのにサ終とか……』
そう、唐突に公式から発表されたお知らせは、ARK LEGENDというゲームが終了するというものだったのだ。それも、終了までひと月もない唐突なもので――。
ここがなくなれば、翼の生きる理由がなくなるくらいの絶望なのに。
『そやから、伝説探すの最後まで付き合ってくれへんかな?』
いつもより硬いユーリの声が、緊張を伝えてきた。
『サ終5月10日やったやん? ちょうどゴールデンウィークあるから、そやから……』
長い休みならまとまった時間が取れる。深いダンジョンも再調査できる。最後まで足掻いて、伝説を探したい。真剣なユーリの訴えに、ちくりと罪悪感を覚えた。
なぜなら、翼は最後の伝説に興味はあるが、そこまでの執着はない。ただ、終わりのないゲームの中でユーリと冒険を続けたいだけだ。こんな風にサ終が決まった今は、むしろ伝説なんか見つからないほうがいい。少しでも長く、ユーリと冒険がしたいのだ。
『カナタ。俺に付き合ってください。お願いします』
大きな身体が90度にお辞儀をする。ガチャリと大剣が音を立てた。
『もちろん、いいよ。そんな畏まらないでよ』
カナタならきっとこう答えるはずだと、内心の黒い心を隠した。そして、うれしそうに顔を上げたユーリをまっすぐに見つめる。現実でだれかと目を合わせることなんかできないのに、ここでなら自分でも自信をもって人と向かい合える。
『俺からもお願いがあるんだけど』
『なんでも聞くわ!』
勢い込んだユーリの返事に、思わず笑ってしまう。どんなことでも聞く、そんな安請け合いができるくらいには信用してくれているのだ。それがうれしくて、少し苦しい。
『もし、途中で伝説を見つけても……最後まで一緒にいてくれる?』
この世界が消える最後を、ユーリと一緒に迎えたい。もう二度と会えなくなるのだから、せめて。
『もちろんや。最後の瞬間までここにおるよ』
胸を叩いたユーリにありがとうと笑いかける。
もっと自分に自信があれば、現実のユーリを知ろうと思えたかも知れない。違うゲームで会おうと誘えたかも知れない。だけど、それは現実の田中翼を知られることだ。翼がオンラインでプレイしているゲームはARK LEGENDだけで、今から違うゲームを始めたとしてもサ終までにフレンド機能は使えない。これは近年、未成年の犯罪被害防止のために作られた制限で、身分証明と正式なプレイ時間がゲームにおけるフレンド登録解放の条件になっているからだ。
現実の自分をさらすなんてできるはずがない――。
『カナタはゴールデンウィークの休みってどないなん?』
『うちはカレンダーどおりだから、あいだの平日は有休取るつもり』
幸い、不摂生をしても身体だけは丈夫で、病欠することもなく有休は溜まるばかりだ。有休申請は総務部の人とのやり取りが面倒で使っていなかったが、そこはもうどうでもいい。ユーリと最後に過ごすためなら、ゴールデンウィークをぜんぶ繋げる有休申請で白い目を向けられたって構わない。
『俺も。5月1日だけは打ち合わせがあるんやけど、リモートやし』
ユーリのことは成人してることだけは確かで、ほかはほとんど知らない。年齢も、男か女かも、結婚や恋人がいるかも、どんな顔をしているのかも。詮索しないことがネトゲのマナーだと翼は思っている。
翼とカナタはまったくの別人だ。きっとユーリもそうなのだろう。だから、ゲームが終わればそれでお終いだ。アレックスそっくりのユーリはいなくなって、翼はまたときどきコンビニで会うアレックスにドキドキするだけの毎日に戻る。
それだけだ。
『食料買い込んで、一歩も家から出ぇへん! 絶対見つける!』
『絶対って、なんにも分かんないのに』
『いっこ、気になることあんねん。もうちょい詳しく調べとくし期待しといて』
『オッケー。俺もちょっと死ぬ気で仕事片付けるから』
『同じく俺もや。しばらくログインできへんかも』
さすがに責任を投げ出すほどの無責任にはなれそうにない。ユーリも同じ価値観だということが少しうれしかった。
『カナタはいつから入れるん?』
『26日から6日までは絶対。サ終の10日が土曜だから、7日は出勤するけど大丈夫そうなら8と9は有休取るよ』
『じゃあ、26日に酒場で』
『うん。ミキニャとウワバミさんも声かける?』
ふたりきりでずっと行動するのはどこか後ろめたい。せめて他の人がいれば、罪悪感も薄れるし、余計なことを口にしてしまうリスクも減るだろう。そう、カナタはただユーリと同じ空間にいられるだけで満足なのだから。
『もし、会えたら誘うってことでどうやろ? もしかしたら、もうプレイ嫌になっとるかも知れんし』
『そっか。それもそうだよな……』
終わってしまうことが決まったゲームだ。ミキニャもウワバミもレベルカンストで特にやるべきこともない。真偽のわからない探索を、日常を潰してまでやろうとは思わないかも知れない。
『じゃあ、また』
『うん。おやすみ』
おやすみなさい。
ぷつりと世界が暗転して、真っ暗闇にまたゲームタイトルのロゴが浮かび上がる。
現実世界のVRヘッドセットを外すと、翼は茫然自失でチェアにもたれかかった。電源の落ちたディスプレイには、カナタとは似ても似つかない陰キャな男が薄らと映っている。
これが現実だ。
「いやだ……終わるなよ……」
だって、あの世界が消えれば、あとにはこの無様な自分しか残らない。
こんな自分なんかいらない。自信に満ちたカナタでいたいのに……。
「やだよ……」
そう、唐突に公式から発表されたお知らせは、ARK LEGENDというゲームが終了するというものだったのだ。それも、終了までひと月もない唐突なもので――。
ここがなくなれば、翼の生きる理由がなくなるくらいの絶望なのに。
『そやから、伝説探すの最後まで付き合ってくれへんかな?』
いつもより硬いユーリの声が、緊張を伝えてきた。
『サ終5月10日やったやん? ちょうどゴールデンウィークあるから、そやから……』
長い休みならまとまった時間が取れる。深いダンジョンも再調査できる。最後まで足掻いて、伝説を探したい。真剣なユーリの訴えに、ちくりと罪悪感を覚えた。
なぜなら、翼は最後の伝説に興味はあるが、そこまでの執着はない。ただ、終わりのないゲームの中でユーリと冒険を続けたいだけだ。こんな風にサ終が決まった今は、むしろ伝説なんか見つからないほうがいい。少しでも長く、ユーリと冒険がしたいのだ。
『カナタ。俺に付き合ってください。お願いします』
大きな身体が90度にお辞儀をする。ガチャリと大剣が音を立てた。
『もちろん、いいよ。そんな畏まらないでよ』
カナタならきっとこう答えるはずだと、内心の黒い心を隠した。そして、うれしそうに顔を上げたユーリをまっすぐに見つめる。現実でだれかと目を合わせることなんかできないのに、ここでなら自分でも自信をもって人と向かい合える。
『俺からもお願いがあるんだけど』
『なんでも聞くわ!』
勢い込んだユーリの返事に、思わず笑ってしまう。どんなことでも聞く、そんな安請け合いができるくらいには信用してくれているのだ。それがうれしくて、少し苦しい。
『もし、途中で伝説を見つけても……最後まで一緒にいてくれる?』
この世界が消える最後を、ユーリと一緒に迎えたい。もう二度と会えなくなるのだから、せめて。
『もちろんや。最後の瞬間までここにおるよ』
胸を叩いたユーリにありがとうと笑いかける。
もっと自分に自信があれば、現実のユーリを知ろうと思えたかも知れない。違うゲームで会おうと誘えたかも知れない。だけど、それは現実の田中翼を知られることだ。翼がオンラインでプレイしているゲームはARK LEGENDだけで、今から違うゲームを始めたとしてもサ終までにフレンド機能は使えない。これは近年、未成年の犯罪被害防止のために作られた制限で、身分証明と正式なプレイ時間がゲームにおけるフレンド登録解放の条件になっているからだ。
現実の自分をさらすなんてできるはずがない――。
『カナタはゴールデンウィークの休みってどないなん?』
『うちはカレンダーどおりだから、あいだの平日は有休取るつもり』
幸い、不摂生をしても身体だけは丈夫で、病欠することもなく有休は溜まるばかりだ。有休申請は総務部の人とのやり取りが面倒で使っていなかったが、そこはもうどうでもいい。ユーリと最後に過ごすためなら、ゴールデンウィークをぜんぶ繋げる有休申請で白い目を向けられたって構わない。
『俺も。5月1日だけは打ち合わせがあるんやけど、リモートやし』
ユーリのことは成人してることだけは確かで、ほかはほとんど知らない。年齢も、男か女かも、結婚や恋人がいるかも、どんな顔をしているのかも。詮索しないことがネトゲのマナーだと翼は思っている。
翼とカナタはまったくの別人だ。きっとユーリもそうなのだろう。だから、ゲームが終わればそれでお終いだ。アレックスそっくりのユーリはいなくなって、翼はまたときどきコンビニで会うアレックスにドキドキするだけの毎日に戻る。
それだけだ。
『食料買い込んで、一歩も家から出ぇへん! 絶対見つける!』
『絶対って、なんにも分かんないのに』
『いっこ、気になることあんねん。もうちょい詳しく調べとくし期待しといて』
『オッケー。俺もちょっと死ぬ気で仕事片付けるから』
『同じく俺もや。しばらくログインできへんかも』
さすがに責任を投げ出すほどの無責任にはなれそうにない。ユーリも同じ価値観だということが少しうれしかった。
『カナタはいつから入れるん?』
『26日から6日までは絶対。サ終の10日が土曜だから、7日は出勤するけど大丈夫そうなら8と9は有休取るよ』
『じゃあ、26日に酒場で』
『うん。ミキニャとウワバミさんも声かける?』
ふたりきりでずっと行動するのはどこか後ろめたい。せめて他の人がいれば、罪悪感も薄れるし、余計なことを口にしてしまうリスクも減るだろう。そう、カナタはただユーリと同じ空間にいられるだけで満足なのだから。
『もし、会えたら誘うってことでどうやろ? もしかしたら、もうプレイ嫌になっとるかも知れんし』
『そっか。それもそうだよな……』
終わってしまうことが決まったゲームだ。ミキニャもウワバミもレベルカンストで特にやるべきこともない。真偽のわからない探索を、日常を潰してまでやろうとは思わないかも知れない。
『じゃあ、また』
『うん。おやすみ』
おやすみなさい。
ぷつりと世界が暗転して、真っ暗闇にまたゲームタイトルのロゴが浮かび上がる。
現実世界のVRヘッドセットを外すと、翼は茫然自失でチェアにもたれかかった。電源の落ちたディスプレイには、カナタとは似ても似つかない陰キャな男が薄らと映っている。
これが現実だ。
「いやだ……終わるなよ……」
だって、あの世界が消えれば、あとにはこの無様な自分しか残らない。
こんな自分なんかいらない。自信に満ちたカナタでいたいのに……。
「やだよ……」
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