サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

文字の大きさ
7 / 72
4月25日 冒険の準備

2

しおりを挟む
 結局、タイムカードの刻印は20時を過ぎていた。あれから、翼が有休で長期連休に入ると知ったほうぼうから、大量の伝票がやってきたのだ。月末までだと頼まれては、断ることもできない。
「3時間も残業するとか不覚すぎる……」
 ともあれ、休暇前の業務はすべて片付けた。これで心置きなく家にこもってゲームができる。
「スーパーは確か9時閉店だよな……コンビニでいっか」
 とにかく、明日からの引きこもりに向けて食料等々を調達しなければならない。いつものコンビニは時間帯のせいか弁当もほとんど残っておらず、翼はかたっぱしからインスタント麺と冷凍食品をカゴに入れていった。
「あとは、一応エナドリと……アイスも買っとこ。足りなきゃ最悪、宅配でもいいし」
 大量に買い込んだカゴは重みで腕が痛いほどだ。もういいだろうとレジを振り向いたところで、金色の頭が横切った。
 アレックスだ。いつ店内に入ってきたんだろう。買い物に集中しすぎて気づいていなかった。今日はもう帰るところなのか、同僚たちは一緒じゃない。そして、ちらりと見たアレックスの買い物も翼と似たようなラインナップだ。
 こんな短期間で会えるなんてラッキーすぎる。心で神様に手を合わすと、推しを堪能するためそっと移動した。
「アレックスも明日から休みなのかなぁ……」
 アレックスなら、長期休みにちょっと海外へ……なんてのがしっくりきそうだ。それでも、自分と似たり寄ったりな買い物にちょっとした親近感を覚えてうれしくなってしまう。
「あ、そういやシャンプーなかった……」
 どうしようか。いつも日用品はドラッグストアで買っている。コンビニには旅行用程度の小さなセットしかないうえにとんでもなく割高だ。翼ごときの髪に有名ブランドのシャンプーなんか必要ない。だが、数日前からだましだまし薄めて使っていたシャンプーは、すでに出がらしを通り越して泡も立たない。
 今からこの荷物を持ってドラッグストアへ? いや、無理。脳内ですっぱり諦めると、翼は棚から一番安いシャンプーとコンディショナーのセットをカゴに放り込んだ。
「帰ったらImazonで注文しよ」
 翼が悩んでいるうちに、アレックスがレジに並んでいた。こんなラッキーがあっていいのかとドキドキしながらそのうしろに並ぶ。
 ――うわぁ。やっぱ背高いなぁ。180は軽くあるよな……筋肉もすげぇ。触りてぇ……ってさすがにそれは妄想でもダメなやつじゃん。けど、なんかいい匂いする。香水っぽくはないよな。てか、金髪むっちゃサラサラ。つうか、前のオッサンどれだけ公共料金溜め込んでんだよ。いや、もっと時間かかっていい、アレックスの近くにいれるなんて滅多にないし。けど、ヤバいコレ、腕が限界かも。
 紙パックの麦茶5本に、山盛りの食料を入れたカゴ2つ分の重量は伊達じゃない。プルプルし始めた腕に最後の力を振り絞る。床に置こうかとも思ったが、さすがにプライドが邪魔をした。
 ――うー早く終われよー……いや、まだ終わらなくていいかなぁ。
 葛藤に先頭客の背中を睨んでいると、やっと会計を終えた客がレジを離れた。ホッとすると同時に残念な気分が押し寄せる。
 そのとき、前に進むかと思ったアレックスが振り返った。
「よかったらお先にどうぞ」
 にっこりと笑いかけられ、とっさに動けなかった。
「重そうなので」
 そうレジを指してくれるアレックスのカゴも、翼とあまり変わらない。違うのは、アレックスの太い腕はそれを軽々と持っていることだ。
「いや、あの……あ、ありがとうござい……ます」
 バカみたいにどもって、なんとかおかしな会釈をした。ギクシャクとカゴを持ち上げ、めんどくさそうなバイトがバーコードを読み取るのを呆然と見つめる。
 5,682円です。バイトの声にボーッとしたまま携帯端末の決済アプリを提示し、パンパンに詰まった袋を3つ持ち上げる。
「……ありがとうございました。お先です……」
 辛うじてそう口にしてレジから離れた。
「お気を付けて」
 アレックスの声が背中にかかる。少し低い、落ち着いた声だ。振り返ってもう一度会釈をすると、アレックスが手を振っていて、翼はフワフワした気分のままコンビニをあとにした。
 今日はなんていい日なんだろう。これはここしばらく仕事をがんばった自分へ、神様からのご褒美に違いない。まさか、あのアレックスと会話ができるなんて。しかも紳士で優しくて……。
「うわぁぁぁ! なんでもっとまともにしゃべれなかったんだよ、俺ぇ! あんなの不審者じゃん! 『いえ、大丈夫です。お気になさらず』とか返してたら、もうちょっと近くにいれたかも知れねぇのに!」
 マンションの部屋に戻り、限界の腕から袋を床に投げ出すと、翼は帰路に溜め込んでいた感情を一気に吐き出した。
「俺のバカ。わかってるけど……けど、サイコーの日だよ。なんだよ、明日死ぬのか? いいよ死んでも、本望だよ!」
 ぶつくさ言いながら、小さな冷蔵庫に買い込んだ食料品を無理やり詰め込み、入りきらない菓子類は棚に片付ける。
「とにかく! 今日はさっさと寝て疲れを取る! 明日からはずっとユーリとゲームできるんだし!」
 そう、ユーリはアレックスそっくりなアバターで、それなりに付き合いも長くこっちとは普通に会話もできる。自分は実のところ結構恵まれているんじゃないのだろうか。
 しっかりと泡立つシャンプーでシャワーを済ませ、忘れないうちにとネットでいつものシャンプーを注文する。いい日のお祝いだと、ちょっとお高いカップ麺を選んで夕食を済ますと、翼はさっさとベッドに潜り込んだ。
 いつになく全力で仕事を突っ走っていたせいで、気力も体力も限界だったのだ。ちょっとSNSでも……そう端末を手にしながら、翼は次の瞬間には寝落ちしていた。

 夢の中で、コンビニのレジにアレックスが並んでいる。そのうしろに並びながら翼は大きく深呼吸をした。会計を済ませたアレックスが店を出る。翼もまた会計を済ませて店を出ると、そこにはなぜかアレックスが待っていた。
 ――こんばんは。よく会いますね。
 話しかけられ真っ白になったところに、なぜか口が勝手に動いた。
 ――いえ、初めてですけど?

「っなんでだよ!!!!!」
 叫んだ自分の声に飛び起きた。カーテンからは朝の日差しが差し込んでいる。カクカクとベッドボードの時計を見ると、時刻はすでに9時を過ぎていた。
「12時間近く寝てんじゃん……なのに、疲れた……」
 起きる間際の夢のせいだ。せっかくアレックスが話しかけてくれたのに、なんで嘘なんかついたんだ。
「くっそー……続き見れるかな……今度は絶対……」
 絶対どうしようか。夢なんだからなんだってありだ。つまり、翼の希望する展開になるとは限らない。
「や、夢でも傷つきそうだし、続き見なくていいかも……」
 虫ケラを見るような目で見下ろされたら立ち直れないかも。それなら、ただ遠くから見ているだけのほうがずっといい。
「とにかく、今日から休み! さっさと朝メシ食ってログインしよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

アルカナの英雄は死神皇子に嫁ぐ

BL
難攻不落と言われたアルカナ砦を攻略し、帝都に名が届くほどの軍功を上げた辺境国王の庶子リセル。しかし英雄として凱旋したリセルを待ち受けていたのは、帝国の第三皇子ジュノビオの不可解な求婚だった。 実直皇子×お人好し美人 ※ほかのサイトにも同時に投稿しています。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

処理中です...