サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月26日 最後の探索がはじまる

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 ゲームの序盤で建国王の伝説を探しに入った水路は、もう道順もあやふやだ。遭遇する敵は倒すのが気の毒になるような激弱で、カナタとユーリは適当に躱しながら水路を奥へと進んだ。
 水路にはまだ操作に不慣れなプレイヤーがいて、ところどころですれ違う。システム上、助けを求められれば受けることができるが、こちらから勝手に助けることはできないようになっている。そもそも、初期プレイヤーは身分証明のほかにもレベル25に達するまでは会話機能が使えない。この水路はクリア推奨レベルが5といったところで、つまりは会話できる相手は見当たらない。
『どうやって探そうか?』
 こんなしょぼいダンジョンなのに今の装備は仰々しくてなんか恥ずかしい。そう身を縮めたユーリをなだめながら、カナタがマップを開く。初期ダンジョンはシンプルで、普通に進めば1時間もかからず奥まで到達するだろう。
『端から総当たりでもかまへん? 壁っちゅう壁を端から調べてみたいんやけど』
 言いながらもすでにユーリの手のひらが水路の壁に触れている。頷いたカナタも、ユーリとは反対側を調べながら奥へとゆっくり進んでいった。
『カナタ、夕飯とかどうする? 定期的に身体も動かしたほうがええと思うんやけど』
 水路の途中にある、資材置き場を丹念に調べながらユーリが振り返る。棚の隙間から飛び出してきたモンスターをヒョイと掴み上げ、軽く表へと投げ飛ばす。そもそも攻撃を受けたところで、ダメージも受けないのだから気楽なものだ。
『昨日、大量に食料は買い溜めてきたよ』
『俺も俺も。一緒やん。ダラダラなるのもアレやし、時間決めへん?』
 木箱の奥からわずかな金貨を見つけ、顔を見合わせて笑う。今さらアイテムを買う必要もなく、金は貯まる一方なのだ。
『この金が現実世界のだったらいいのになぁ』
 ぼやいたカナタに、現実でモンスターが出てきたらソッコー死んでまうわとユーリがつっこむ。こういうところも関西人ぽくて、ユーリは西の方に住んでいるんだろうなぁなんて考えた。
『ほな、基本は昼食べたらログインで、18時に夕飯と風呂休憩。あ、15時と22時にストレッチタイムとかどない?』
 プレイヤーが増えるのは夜間で、情報収集にしてもログイン時間をそこメインにするほうが効率がいい。
『ストレッチタイムってなにすんの?』
『長時間座りっぱなしになるし、身体動かさへんとあかんやろ? ログインしたままでもできるし、一緒にやろう』
 ニコニコと提案するユーリに、嫌とは言えず曖昧に頷くだけに留めた。正直、身体を動かすのは好きじゃない。
『じゃ、さっそく15時のストレッチな? ちょっと過ぎとるけど』
 明日からはアラームセットしとく。てきぱきと決めてしまったユーリが、資材置き場の中央に座り込んだ。カナタも、仕方がないと一定間隔の位置に座る。
 果たして、それはストレッチというよりも筋トレのそれだった。爽やかな声が、足を上げろやら、身体を捻ってやら次々指示を出してくる。
 アバターを動かしても意味がないので、コントローラーを持ったまま部屋の床で生身の身体を動かすことになる。おかげで、ゲーム内のカナタとユーリは奇妙な動きを繰り返す、間抜けな状態だ。
『痛い痛い! もう無理だって!』
『あと10秒。カナタがんばって。8、7……』
 ぜぇぜぇしているカナタとは逆に、ユーリの声は軽やかだ。きっと普段からこんなことをしているのだろう。ゲーマーのくせに筋トレ趣味とか、意識高い系かよ。そんな八つ当たりを飲み込みながら、翼はバカ正直に腹筋を引っ込めた。
『0! オッケー』
 その瞬間、一気に床へとへばりつく。膝がプルプルと震えていて、なんとも情けない様相だが、ゲーム内にはおかしな姿勢で座るカナタがいるだけだ。
『あと、1セット』
『ムリムリムリ! これ以上やったらコントローラ操作できない!』
 半泣きで叫ぶカナタに、ユーリの爆笑が重なる。運動不足やな。そうからかったユーリが、徐々に慣れていけばいいと、最後の1セットをひとりでこなしていった。
『……これ、毎日やるの?』
『もちろん。座りっぱなしは身体に悪いやん』
『そりゃそうだけど』
 軽く柔軟運動をするとか、伸びをするとかでいいじゃないか。そう喉元まで出かかったのを飲み込んで、代わりに「せっかくだからがんばってみる」そんないい子チャンな言葉が飛び出した。
 だって、しんどいのに楽しかったのだ。一緒に日常を過ごしているような、幸せな錯覚が起きたのだ。
 そのとき、視界の端に通知が光った。ほかのプレイヤーから話しかけられたのだ。視点を動かすと、資材置き場の入り口に恰幅のいい商人風のプレイヤーがお辞儀をしている。アバターの横には「デモドリカエル」というプレイヤーネームが表示されていた。
 通信を断る理由もなく許可すると、デモドリカエルが近寄ってきた。
『不思議な動きでしたけど、何をしてるんですか?』
 丁寧で落ち着いた声が、さも不思議そうに尋ねてくる。思わずユーリと顔を見合わせて恥ずかしさに天を仰ぐアクションをした。
『長時間プレイになるんで、ストレッチしてました』
 ユーリの返答に、デモドリカエルがなるほどと手を叩く。そんなアクションは手慣れているようでいて、どこかぎごちない。
『長く離れてるあいだに、新しいシステムが追加されていたのかとドキドキしました』
 恥ずかしそうに笑ったデモドリカエルが頭を掻いている。
『だから、「デモドリ」カエルさん、なんですか?』
『はい。発売当時に寝る間も惜しんでプレイして……でも、就職して忙しくなって少しずつプレイ時間も減って、気づけば10年以上もそのままになってたんです』
 伝説もまだ半分ほど集められていません。しんみりとしたデモドリカエルの声に、忘れかけていた寂しさが戻ってきてしまう。
『あんなにやり込んだのに、操作も忘れてしまうものですね。ちょうど連休だったので、できるところまで進めてみようとログインしたんです』
 だから、レベルが70もあるのにこんな場所からやり直していたのか。照れたようなデモドリカエルが、でっぷりとした腹を揺らして戦闘モーションをとっている。
『そうやったんですね』
 ユーリのしんみりとした声に、同じ感じ方をしたのだと分かってうれしくなる。
『おふたりは金紋章ですね。こんな場所にどうして?』
『俺たちは、最後の伝説を探したいと思って……』
 デモドリカエルが少しの沈黙のあと、アッと声を上げた。
『もしかして、4ちゃんの伝説の浪人の予言ってやつですか?』
 食い気味なデモドリカエルとは反対に、今度はカナタたちがキョトンとする番だった。
『伝説の浪人の予言? なんですか、それ。カナタ、知っとる?』
『ううん。だって、4ちゃんって今はもう閉鎖されてますよね?』
 4ちゃんはかつて栄えていたという大型掲示板だ。名前だけは知っているが、今はもうどこにも残っていない。
『はは。若いベテラン探索者さんですね。だったら知らなくて当然だ』
 知りたい? そう茶目っ気で聞いてくるデモドリカエルは、もうしゃべる気満々といった雰囲気だ。もちろん、カナタたちも知りたいに決まっている。ふたりでデモドリカエルを囲むように、輪を縮めた。
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