サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月26日 最後の探索がはじまる

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『アーレジェが配信されてちょっと経ったころ、4ちゃんの攻略板に変な書き込みをするやつがいましてね。それが、同じIDをわざわざ使って、同一人物だって主張してるみたいな感じだったんです』
 そのころ、カナタはまだ生まれてもいない。この話からすると、このデモドリカエルという人は50代といった感じだろうか。
『ご存じでしょうけど、アーレジェは元々tsukiの個人制作ゲームで、もちろん攻略なんてものはないですから、プレイヤーたちが経験を持ち寄って攻略サイトを立ち上げていたんです』
 当初の話はもちろんカナタも知っている。アップデートを繰り返し、そのうちにゲーム会社ARCが設立されて今の形になっていったのだ。
 デモドリカエルがもったいぶるように一呼吸置いた。
『――伝説は101個ある』
『その101個目が最後の伝説ってことですか?』
 公式が発表している伝説はちょうど100個。プレイヤーが作る伝説は無数にあるが、金紋章の条件は公式からの100個を収集することだ。
『初期の伝説は多分30個くらいだったんですよ。それなのに、掲示板にときどき現れる伝説の浪人は「伝説は101個ある」って書き込んでまして……それ以外にも伝説の浪人は開発者しか知らないようなことを書き込んだり、tsuki本人じゃないかって噂でしたね』
 もっとも、真実は結局分からないままだ。デモドリカエルが懐かしそうにつぶやく。
『デモドリカエルさんも最後の伝説を探しに?』
 ユーリの質問にデモドリカエルが「まさか」と笑う。
『私は条件に達してないので、もし噂が本当だったとしても見つけられませんよ』
『条件?』
『はい。確か「すべての伝説を集めていること」「友好度マックスのパーティであること」「建国王の依頼をすべて達成していること」……ほかにもあったと思うんですけど、終始話題になっていたのはこの3つでしたよ』
 こともなげに読み上げたデモドリカエルに、ユーリとふたり絶句した。
『そんなん無茶や!』
『あはは。ですよね。あのころ、常に新しい伝説が生み出されてて、全部集めたとしても次の瞬間には未収集の伝説が出ていましたから』
『でも、有名な話なんですよね? どうして今は探してる人がいなくなったんだろ……』
 最後の伝説については今も公然の噂として引き継がれている。だけど、デモドリカエルがいとも簡単に読み上げた達成のための条件は、どれだけ探しても出てこなかったものだ。もちろん、デモドリカエルが適当な嘘をでっち上げた可能性もあるのだろうが。
『噂が白熱してたのは、発売からせいぜい5年程度でしたよ。そのくらいで、伝説の浪人は姿を消したし、いってる間に4ちゃんは閉鎖だし、ゲーム自体も規模が大きくなって、良くも悪くもアマチュアの未完成ぽさはなくなってしまいました』
 もちろん、システムが安定したおかげでさらに多くのプレイヤーがログインできるようになり、オープンワールドも広がっていった。その時代をまさに楽しんでいたのだろうデモドリカエルが、懐かしそうに語った。
 カナタがはじめてアカウントを作ったのは中学生になったタイミングで、そのときでさえ公式の伝説は70個を超えていた。それからも1年に1つか2つのペースで新しい伝説が増えていき、それはどれも高難易度に設定されていた。
『30年間、変わらない熱量で伝説を集め続けられる人は多分ほとんどいないでしょう。そして、今の世代のプレイヤーたちはエラーとバグに邪魔されながらも盛り上がっていた、雑多な情報を知る術がないですからね』
 そんな歴史を紡いできたゲームがあと少しで終わってしまう。改めて考えると、途方もない寂寥感に襲われる。
『100個目の伝説って、いつ実装されたっけ?』
『え、と……しばらく更新なかったよな? 確か、去年の……ゴールデンウィーク?』
 ちょうど1年前だ。久しぶりの更新にワクワクしながら、謎解きのような伝説を解き明かしていった。毎日コツコツと進めて、2ヶ月ほどはかかった気がする。
『カナタ。今やったら、デモドリカエルさんの言う条件……達成できるヤツ、結構おるかも……』
『そっか。ガチ勢は金紋章だし、建国王の依頼は金紋章いらないし……当然100個目の伝説も集めてるから……あとは』
 ――友好度マックスのパーティであること。
 恐らくそれがいちばん難しい。パーティは4人が一緒に旅をした時間に応じて友好度が高くなり、離脱する時間が増えると友好度が下がっていく。イベントをクリアしてしまった高レベル帯のプレイヤーは、単独でも支障がないため、自然とパーティに属さなくなっていくのだ。
『ミキニャとウワバミさん、来てくれるやろか』
『来てくれたとしても、どこに行ったらいいか分からないよ?』
 ここまで条件をクリアしているのに。悔しそうなユーリは、心底このゲームが好きなのだろう。カナタはといえば、伝説を探したいというよりも、伝説を探すユーリと一緒に旅がしたいだけだ。別に見つからなくたっていい。
『あ、すみません。夕食の時間だと呼ばれてしまいました。私はここでいったん失礼します』
 丁寧にお辞儀をしたデモドリカエルが、がんばってくださいねと締めくくる。
『デモドリカエルさん。おおきに!』
 ユーリが大きく手を振る横で、カナタも丁寧にお辞儀をした。
『あ、そうだ。伝説の浪人の最後のカキコは「灯台下暗し」でしたよ』
 なにか意味があるのかも知れませんね。それでは。
 今度こそデモドリカエルはお辞儀とともに姿を消した。
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