サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月26日 最後の探索がはじまる

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 カナタは初期ストーリーで訪れたハーミット城に到着した。確か王様の演説中から始まって、プレイヤーが伝説の探索者に選ばれるのだ。イベント中には自由に動けなかった広場を隅から順に調べていく。王の信頼も厚い探索者は、城内への出入りも自由だ。
 シンプルな城内マップをしらみつぶしに調べ、王の間にたどり着いた。ここで王から伝説を探すように頼まれ、旅の支度をするため街に向かう。その途中で、牢に入れられる直前に逃げ出した盗賊がプレイヤーの目の前に現れる。それが最初の戦闘だ。
 ストーリーを思い出しながら、順に城内を歩く。そのあとは捕縛ギリギリで逃げた盗賊を追って、地下水路へと向かう。水路への出入口は数ヶ所あって、最初に使えるのは北の城壁から路地を入っていったところだ。
 先日ユーリと入った水路は、ストーリーの中盤以降でしか入れない。
 初期イベントということもあって、水路内には逃げる盗賊の痕跡が分かりやすく残されている。カナタはまず、その痕跡を再度辿ることにした。
「懐かしいなぁ……」
 中学1年の夏休みだった。歳の離れた兄からもらったお下がりのパソコンに、ARK LEGENDが入っていた。
 学校は楽しくなかった。強いやつとつるんで馬鹿騒ぎすることがステータスな同級生男子に同調することもできず、気づけばやや孤立した地味でおもしろくない男子という位置づけになっていた。
「……あ、やなこと思い出した……最悪だ」
 水路に現れる敵はどれも初期レベルで、金紋章のカナタには襲いかかっても来ない。だから、余計に考える余裕がでてしまう。
 日直ノートの提出を終えて荷物を取りに教室へと戻った。数人の男子がたむろっていた。教室に入ってきた地味な同級生を見るや、楽しそうな顔でその手にあった雑誌を見せつけてくる。
 ――陰キャな田中くんにいいもの見せてやろうか。
 笑い声が響く。背後から羽交い締めにされ、背けた顔の前にそれを押しつけられた。
 ――やめ……気持ち悪い!
 裸の男女が絡まる写真には、女性の局部が大きく写されていた。それは一応モザイクがかけられていたものの、その形を想像するには充分で、翼はそのグロテスクさに雑誌を払いのけた。
 ――なに言ってんだよ。おまえホモかよ。
 頭の中が真っ白になって、とにかく教室から逃げ出した。
「そーだよ……ホモだよ。悪かったな」
 そんなこと今でも口に出すなんてできない。ただ、からかいを無視する程度には図太くて、反応もない陰キャを構いつけるのも面白くなかったのか、いじめられるようなことにはならなかった。
 ただそれをきっかけに、ARK LEGENDのなかで表には出せない自分自身を作ったのだ。
 理想の見た目、理想の行動。やればやっただけ強くなって、ゲームの中だけが翼のすべてだった。カナタは、翼がなりたかった自分だ。だけど、結局翼は地味で根暗な男のままで、どんどん理想との乖離が大きくなっていった。
 ゲームの世界があれば生きていける。そう、それだけが心の支えだったのに。
「もう、ずっとここにいれたらいいのにな……」
 水路を奥へと進んで、盗賊を追い詰めた行き止まりまでやってきた。ここで、はじめてのボス戦があって、勝つと城の兵士たちが盗賊を連行していく。この奥が城側からは入れなかった地下牢への階段と繋がっているのだ。
 地下牢には出してくれと繰り返ししゃべるだけのNPCが閉じ込められている。鉄格子の牢屋の奥は、城への階段に繋がる扉があるが、一方通行でこちらから城に出ると戻ってこられない。
「そういや、妖精の鍵って使えるのかな……」
 ストーリーの終盤で手に入る妖精の鍵は、イベントに関わらないあらゆる扉を開けることができる。ただ、牢屋の中に宝箱でもあれば戻ってきたのだろうが、ここにはなにもなかった。
 NPCの罪人がいる牢屋と、いない牢屋。そのうち扉が閉ざされているのが5ヶ所。手前の鉄格子から順に鍵を開け、なぜか初期にしか使わない薬草と少しの金貨を拾った。
 最後の部屋は入ったものの特になにもなさそうだ。
「やっぱり、そうそう上手くはいかないか」
 苦笑いで部屋の中を端から調べていく。
「ここだけベッドがあるのって、それなりの地位の人とか入れるためだったのかな……けど、そういうイベントもなかったし……」
 ゲーム内のことだから、ベッドのシーツも見た目はきれいなままだ。こういう、一カ所だけ不自然さのある状況は、イベント発生の予兆になっていることが多いはずなのに。
 諦めきれずに、再度部屋を探し回る。視点を変えて天井を見渡し、意味のない場所でジャンプをしてみる。
 そのうちに、時折発生する小さな「パキッ」という音に気づいた。
「壁の、ここと……ここ?」
 特定の石壁を押すと小さな引っかかり音がする。カナタはかがみ込むと、床までを丹念に調べていった。埃が積もったベッドの下が、なぜか淡く光っている。地下にあるこの場所に光が入ることはない。
「動くかな……?」
 半信半疑でベッドを押してみると、それはいとも簡単に動いた。効果だろうか、色の違う床が姿を見せる。その部分を丹念に調べると、そこでも小さな引っかかり音が聞こえた。
 ドクドクと心臓の音が大きくなっていく。少なくともここにはなにかがあって、それはまだ誰も経験していない。
「押す順番? それか、まだ鳴る場所あるかな?」
 音の鳴る場所は壁に2ヶ所と床に1ヶ所。条件のパーティであることを踏まえれば、4ヶ所あるかも知れない。
「けど、さすがに天井は調べられないし……あとは、鉄格子?」
 牢屋の入り口に戻って、開きっぱなしの鉄格子をまた調べる。
「なんにもないよな……」
 つぶやきつつ、妖精の鍵で開けた鉄格子の鍵穴を覗き込んだ。
「あれ……これ……」
 頑丈な鍵の底になにかくぼみがある。ひっくり返すと、それはどこかで見たような形をしていた。
「金紋章だ」
 ものは試しと、カナタが持つ金紋章をそのくぼみにはめてみる。すると、小さな地響きとともに、牢屋の一角の床が消失した。
「ってことは、ほかのとこも」
 引っかかり音の鳴る壁に駆け寄り、妖精の鍵をかざす。すると、そこにも同じように金紋章型のくぼみが現れた。入り口に戻って自分の金紋章を外そうとする。
「え、まじで……これ取れなくなってる?」
 紋章をはめる場所は残り3ヶ所。友好度マックスのパーティであること……さっきミキニャと別れたばかりのパーティはまだ友好度がマックスだった。
「早く教えなきゃ……!」
 慌てて地下水路から戻ると、城下町は夜の闇に沈み込んでいた。現実世界の時刻とゲーム世界はリンクしている。集中してたせいでどれだけ時間が経ったかも分からない。メニュー画面を呼び出すと、時刻はすでに夜中の3時を過ぎていた。
「今、誰がいる!?」
 フレンドメニューを開くと、ウワバミはすでにログアウトしていて、自動行動のミキニャも一緒に停止中、ユーリは――。
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