15 / 72
4月26日 最後の探索がはじまる
8
しおりを挟む
「起きてるじゃん!」
急いで掲示板に書き込むと、カナタは東の市場へと走り出した。しばらく走ってしばらく歩く。神官であるカナタの体力ゲージがさほど高くないせいだが、それでも現実世界の翼の体力よりずっと高い。
メイン通りを駆け抜け、路地裏の貧民街へと足を踏み入れる。初期は油断していると金品を掏られてしまう嫌な場所だったが、今となってはなにも怖くない。
向かいから、この時間には珍しくプレイヤーが近づいてくる。道を譲ろうと端に寄ると、そのプレイヤーが一気に距離を詰めてきた。長い黒髪をターバンで巻き留め、細身の身体には防御力の低い布製の衣服が装備されている。武器はダガーナイフ。
「マジかよ!」
プレイヤースキルは盗賊。盗賊はこの貧民街でなら、他のプレイヤーからものを盗むことができる。ただし、試合形式の戦闘に勝てばだ。
攻撃を難なく躱して、反撃に出る。驚いたようなアクションをしたプレイヤーが、会話リクエストを送ってきた。ターバンの横にはコマとプレイヤーネームが表示されている。
『よお! 紋章なしなのになんでそんな強いんだ?』
アバターに似合いの軽い口調は、わざとだろうか。会話中は戦闘が中断になるため、翼はコントローラーを握る手から力を抜いた。
『保管庫に入れてるだけだよ』
増えすぎたアイテムは持ち運ぶことができないため、基本は売るか捨てるかしてしまう。なかには、必要だが今はいらないアイテムがあって、そういった場合は酒場で自分専用の保管庫に収納しておけるのだ。
だけど、この言い訳は通じない。紋章はアクセサリー扱いで、その装備をわざわざ解除する理由がないからだ。言いたくないと察してくれたらありがたい。そう、コマのほうを見つめたところで、違和感に気づいた。
コマはカナタを紋章なしで強いと言った。いきなり攻撃されたカナタはそれなりに手加減なしで反撃した。それなのに、コマにはダメージひとつ与えられていないのだ。そして、コマの身体のどこにも紋章は見当たらない。金紋章はもちろん、銀も銅もだ。
『まさか……』
呆然としたカナタに、ニヤニヤと笑いながらコマが近づいた。
『あんたも見つけたんだな? もうひとつの地下水路』
この、コマもまた地下牢に紋章をはめたのだ。そして、あの階段の下は地下水路なのか。
『惜しいよな。パーティ状態で行かなきゃ、同じイベントとして紋章を認識できないんだもんな』
つまり、自分の行動として紋章をはめてしまえば、すでに他のルートで紋章をはめてしまったプレイヤーとはパーティが組めない。幸い、カナタたちは別行動を選んだおかげで今すぐ他のメンバーがあの場所に気づくことはない。それでも、万が一ということはある。
『急がないと!』
駆け出すカナタをコマが追いかけてくる。
『ついてくんなよ!』
『その慌てよう、だれか紋章持ちがいるんじゃねぇの? 俺にも口説かせてくれよ』
『やだね!』
振り返りざまに睡眠系の呪文を唱える。うまく作用すればしばらく眠りについてくれるはずだ。神官ではほかのプレイヤーに攻撃する系の行動は設定されていない。
『金紋章同士でそんなん効くわけないじゃん』
呆れたように笑うコマが憎らしい。それでも、コマに構いつけている時間はない。ゲーム内では早朝5時に1日のリセットがかかって、友好度も1日分下がってしまう。そうなれば、カナタ以外はまた友好度を上げなければ、あの奥へは進めない。
ついてくるコマを完全に無視して、市場の隅々を探して回る。
『あとは……高利貸しの屋敷か』
あそこは入り組んでいて、人捜しには向いていない。それでも、フレンドメニューのユーリはまだログイン状態になっている。
屋敷に飛び込み、襲いかかる高利貸しの手下を瞬殺しながら奥へと進む。ただし、屋敷内には仕掛けがそこかしこにあって、いちいち足止めをされてしまう。
途中、ひとりがスイッチを押しているあいだにもう一人が扉を開ける仕掛けで進めなくなった。ユーリだって一人行動なんだからこの先には行けないはず、そう予想しながらも、ユーリなら出会っただれかと即席パーティを組んで進むくらいはやりそうだ。そう、コミュ障のカナタと違って。
『ほい』
『は?』
ガタンという音と同時に扉の鍵が上がる。振り返ると、コマがスイッチのレバーを持ち上げていた。
『早く開けろよ』
開けて、コマがここに来る前に閉めてしまえば……そんなことが頭をよぎりながらも、手伝ってくれたという事実に実行できなくなる。
『いっこ貸しな。パーティ交渉させろよ』
してやったりと笑うコマを軽く睨んで、カナタはまた屋敷の奥へと進んでいった。この先には領主の隠し部屋があって、ボス戦が始まる場所だ。
扉を蹴るように開けると、室内には見慣れたユーリと見知らぬプレイヤーが立っていた。
『カナタ!? どうしたんや?』
同じ画面内に入ったことで会話が成立する。
『ユーリ急いで! 5時までに……友好度下がるから!』
気づけばもう4時を過ぎている。移動魔法が使えないカナタたちは同じ距離をまた走るしかないのだ。
支離滅裂なカナタの言葉でも、なにか察してくれたのかユーリが駆け寄る。
『了解! どこ行けばえぇ?』
急いで掲示板に書き込むと、カナタは東の市場へと走り出した。しばらく走ってしばらく歩く。神官であるカナタの体力ゲージがさほど高くないせいだが、それでも現実世界の翼の体力よりずっと高い。
メイン通りを駆け抜け、路地裏の貧民街へと足を踏み入れる。初期は油断していると金品を掏られてしまう嫌な場所だったが、今となってはなにも怖くない。
向かいから、この時間には珍しくプレイヤーが近づいてくる。道を譲ろうと端に寄ると、そのプレイヤーが一気に距離を詰めてきた。長い黒髪をターバンで巻き留め、細身の身体には防御力の低い布製の衣服が装備されている。武器はダガーナイフ。
「マジかよ!」
プレイヤースキルは盗賊。盗賊はこの貧民街でなら、他のプレイヤーからものを盗むことができる。ただし、試合形式の戦闘に勝てばだ。
攻撃を難なく躱して、反撃に出る。驚いたようなアクションをしたプレイヤーが、会話リクエストを送ってきた。ターバンの横にはコマとプレイヤーネームが表示されている。
『よお! 紋章なしなのになんでそんな強いんだ?』
アバターに似合いの軽い口調は、わざとだろうか。会話中は戦闘が中断になるため、翼はコントローラーを握る手から力を抜いた。
『保管庫に入れてるだけだよ』
増えすぎたアイテムは持ち運ぶことができないため、基本は売るか捨てるかしてしまう。なかには、必要だが今はいらないアイテムがあって、そういった場合は酒場で自分専用の保管庫に収納しておけるのだ。
だけど、この言い訳は通じない。紋章はアクセサリー扱いで、その装備をわざわざ解除する理由がないからだ。言いたくないと察してくれたらありがたい。そう、コマのほうを見つめたところで、違和感に気づいた。
コマはカナタを紋章なしで強いと言った。いきなり攻撃されたカナタはそれなりに手加減なしで反撃した。それなのに、コマにはダメージひとつ与えられていないのだ。そして、コマの身体のどこにも紋章は見当たらない。金紋章はもちろん、銀も銅もだ。
『まさか……』
呆然としたカナタに、ニヤニヤと笑いながらコマが近づいた。
『あんたも見つけたんだな? もうひとつの地下水路』
この、コマもまた地下牢に紋章をはめたのだ。そして、あの階段の下は地下水路なのか。
『惜しいよな。パーティ状態で行かなきゃ、同じイベントとして紋章を認識できないんだもんな』
つまり、自分の行動として紋章をはめてしまえば、すでに他のルートで紋章をはめてしまったプレイヤーとはパーティが組めない。幸い、カナタたちは別行動を選んだおかげで今すぐ他のメンバーがあの場所に気づくことはない。それでも、万が一ということはある。
『急がないと!』
駆け出すカナタをコマが追いかけてくる。
『ついてくんなよ!』
『その慌てよう、だれか紋章持ちがいるんじゃねぇの? 俺にも口説かせてくれよ』
『やだね!』
振り返りざまに睡眠系の呪文を唱える。うまく作用すればしばらく眠りについてくれるはずだ。神官ではほかのプレイヤーに攻撃する系の行動は設定されていない。
『金紋章同士でそんなん効くわけないじゃん』
呆れたように笑うコマが憎らしい。それでも、コマに構いつけている時間はない。ゲーム内では早朝5時に1日のリセットがかかって、友好度も1日分下がってしまう。そうなれば、カナタ以外はまた友好度を上げなければ、あの奥へは進めない。
ついてくるコマを完全に無視して、市場の隅々を探して回る。
『あとは……高利貸しの屋敷か』
あそこは入り組んでいて、人捜しには向いていない。それでも、フレンドメニューのユーリはまだログイン状態になっている。
屋敷に飛び込み、襲いかかる高利貸しの手下を瞬殺しながら奥へと進む。ただし、屋敷内には仕掛けがそこかしこにあって、いちいち足止めをされてしまう。
途中、ひとりがスイッチを押しているあいだにもう一人が扉を開ける仕掛けで進めなくなった。ユーリだって一人行動なんだからこの先には行けないはず、そう予想しながらも、ユーリなら出会っただれかと即席パーティを組んで進むくらいはやりそうだ。そう、コミュ障のカナタと違って。
『ほい』
『は?』
ガタンという音と同時に扉の鍵が上がる。振り返ると、コマがスイッチのレバーを持ち上げていた。
『早く開けろよ』
開けて、コマがここに来る前に閉めてしまえば……そんなことが頭をよぎりながらも、手伝ってくれたという事実に実行できなくなる。
『いっこ貸しな。パーティ交渉させろよ』
してやったりと笑うコマを軽く睨んで、カナタはまた屋敷の奥へと進んでいった。この先には領主の隠し部屋があって、ボス戦が始まる場所だ。
扉を蹴るように開けると、室内には見慣れたユーリと見知らぬプレイヤーが立っていた。
『カナタ!? どうしたんや?』
同じ画面内に入ったことで会話が成立する。
『ユーリ急いで! 5時までに……友好度下がるから!』
気づけばもう4時を過ぎている。移動魔法が使えないカナタたちは同じ距離をまた走るしかないのだ。
支離滅裂なカナタの言葉でも、なにか察してくれたのかユーリが駆け寄る。
『了解! どこ行けばえぇ?』
21
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる